第95話 鬼影2
「美月ちゃん……物資を手分けをして探そう」
落ち着きの無い様子の雛は、美月にそう切り出した。
「?八城さんには原則二人で行動するよう言われてるよ?」
「大丈夫だよ……ここには感染者は居ないし……それに……出来る限り広範囲の方が物資も見つけられる……よ?」
八城から言われているのは最も危険の少ない方法を取る様に言われている。
だからだろう、美月は多少難しい顔をしている。
「……二手に分かれるって言っても……直に合流できるからそれに、八城さんもそっちの方が喜ぶと思うんだ、駄目……かな?」
その言葉が決定打となり、珍しく最後は雛に押し切られてしまった。
「分かった、危なくなったらすぐ引き返して、合流しよう」
「分かった……よ大丈夫だから……」
そう言って雛は美月が見えなったのを確認してポケットに入っている紙を取り出した。
それは三郷善の言葉のままに棚に置いてあった、痛み止めに付随していた紙に示された場所
指定時刻まで残り五分
雛は急ぎ足で集合場所である、あのモールその最上階へと向かう。
息切れをしながら町中を走り、モール内の動かなくなったエスカレーターを上る。
善の勧めた薬だけある。
いつもより身体が軽い、全てが研ぎすまされた感覚。
それに痛みも随分誤魔化されている。
高揚する気分は何処か心地がいい。
差し込む日差しに、舞い散る土埃を置き去りにしながら雛は屋上に続く最後の扉を開け放った。
黒の髪の毛が風に靡き揺れている。
奇妙な出で立ちの女は、雛の姿を確認して歓喜の表情を浮べた。
「おやおやおや?おんやぁ〜?お客さんは珍しいじゃない?」
壁に預けていた身体を浮き上がらせ、地面に着地する。
大太刀を背負い、小太刀を太ももに付けた奇妙な二刀は雛の持つ量産型の替え刃が必要な作りではない。
「あっ!そうか!つまりは、って?ありゃ?」
雛はこの女を知っている。忘れもしない。
八城と共に戦っていた女。
そして東京中央を裏切った女。
雛はその名前を張り付いた唇を湿らせて声に出す。
「野火止…一華?」
言葉にして思いだすのはその名に背負った罪の重さだ。
中央で罪の無い子供を虐殺し、遂にはNo.壱にして東京中央を追放された、悪魔の笑みを張り付かせた女の名前。
野火止一華がそこに居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます