第46話 旧古1

「なんか?囲まれてませんか?」

桜が高速道路から見下ろしたラジオ局を見て不安気な声を上げる。

「囲まれてるな……」

バイクで戻ってきた八城が見た物は、奴らに囲まれたラジオ局だった。

「お前らに助けてもらっておいてなんだが、あのラジオ局には行きたくねえな!よく私を助けたもんだぜ!」

「おい紬達は逃げたんだよな……」

「私に聞かれても分からないですよ……」

二人困惑していると桜の後ろに股がっている時雨が股下から鳴る音に耳を傾けた。

「おい何か聞こえるぜ?」

それはバイクの後輪部分に付属している収納スペースから鳴り響いていた。

「もしも〜し、テルっすよ!最寄り5番街区に全員移動しましたっす!もしも〜しテルっすよ!最寄り5番街区に全員移動しましたっす!もしも〜し…」

収納の中に入っていたのは缶電池式のラジカセだった。

そのラジカセからは、テルの声で同じ音声が今も鳴り響いている。

時限式のラジオ送信だ。

あらかじめ録音していた物をラジオ局から流し続けているということだろう。

「どうやらあいつらは逃げたみてえだぜ?どうする?大将」

八城はどうするか迷っていた。

このまま5番街に向かえば間違いなくこのバイクの大音量で奴らを引き連れて行ってしまうことになる。

本来であれば直接行きたいが仕方ない。バイクを持って行けばテルには怒られるかもしれないが…

「谷町JCTをまでバイクで移動する。そこからは溜池山王駅の地下鉄で四谷まで徒歩で移動だ。」

予想はしていたが二人とも嫌そうな顔をしている。

「もう濡れるのは勘弁だぜ大将」

「暗いのは嫌です〜」

「仕方ないだろ!我慢しろ!」

三人は浜崎橋JCTを一ノ橋JCT方面へ、そして一ノ橋JCTから国会議事堂前までバイクで移動する。

奴らの影は無い。その場所までを早々に走り抜けバイクを放置。

そして地下鉄の駅内部に侵入し路線沿いを四谷方面へ向かい。

八城、桜、時雨の三人は迂回路を使い五番街区を目指す

一方その頃紬は自らが向かっている場所に疑問を呈した。

「私たちはどこに向かってる?」

「行けば分かる」

そう言って良は雑居ビルが立ち並ぶ道を決まった方向に進んで行く。

「八城君達に連絡しないといけない」

「それなら大丈夫っすよ。私が八番さんには連絡をいれておきましたから」

「でも……」

紬はこれでも八番隊だ。自身の隊から離れる事に若干の抵抗感はある。

「大丈夫っすよ!八城さん達も安全な場所に移動してるっすから!今は私たちが早く避難する事が先決っすよ」

奴らに見つかった現在その言葉には従うほか無い。

そうして紬達が歩いて見えてきたのは、4番街区だった。

「あら?紬じゃない?」

紬の目の前に居るのは九十六番隊隊長の麗だった。

「ん?麗?何でここに居る?」

「それはこっちの台詞よ!何で紬がここに居んのよ!」

そう、小松川ICからの最寄りの番街区は4

96番隊が、傷ついた隊員が居る中で向かったのはこの番街区だった。

そして奇しくも5番街の常駐隊隊長である良とフリーでの情報収集を得意とするテル。

そして八番隊隊員で、89作戦の英雄の一人である紬が突如として現れれば番街区の中は騒がしくなるのも必然と言えた。

「八城君は?」

紬は当然の疑問を麗にぶつけた。

八城は九十六番隊の応援に駆けつけた筈だ。

「あんた達の所に戻った筈だけど?」

紬はどういう事かテルと良を見つめる。

「大丈夫っすよ、時限式でラジオ局から音声がバイク収納に入ってるラジオに流れてる筈っすから。ちゃんと八番さんも避難してるっすよ」

「そうだぜ、八城だって餓鬼じゃないんだ。現場みてそのまま避難すんだろ」

二人は捲し立てる様に紬に言い聞かせる。

「で?紬は何で八城も連れずに此処に居る訳?」

紬は麗のその問いに、簡潔にこたえる。

「避難してきた」

「どこから?」

「ラジオ局から」

「何でラジオ局に行ったの?」

麗からの言及に、紬はラジオ局に行く事になった張本人に顔を見つめた。

「どうも!九十六番さん。私テルって言います。以後お見知り置きを」

テルは鬱散臭い笑顔を貼付け麗と握手を交わす。

「で?そのテルさんは、紬と何してるわけ?」

「私は情報屋でして、紬さんにはその手伝いをしていただいてるっす」

「ふ〜んそれで?元No.五も同伴してるんだからただ事じゃないんでしょ?」

後ろで何でも無い様に佇む良を睨め付け、麗は情報を引き出そうとする。

「あんた達何しようとしてるわけ?」

紬は何をそんなに気にしているのか分からないと言いたげに麗に首を傾げる。

その様子を見て麗は紬に優しく笑いかけ、その後ろに居る二人に鋭い視線を向けた。

「五番。紬に何かあったら許さないから」

「元を付けてくれよ、九十六番ちゃん」

常駐隊隊長と遠征隊隊長の同じ階級。

麗はシングルNo.だけが持つ情報の規制が気に入らなかった。

他の隊長各も情報規制がなされている事は理解している。

だが元シングルNo.のこの男が今ここにしゃしゃり出てきて何をやっているのか。この状況から見て、No.五が八番隊を動かしている事は明白だ。

そして情報屋。噂程度は耳にした事がある。なんでも柏木のお墨付きが付いてるエキスパート集団だとか。

「じゃあ元No.五はこれから何処にいく予定なのかしら?」

今現在シングルNo.への情報規制は掛かっていない。それに今、目の前にいる男はもうシングルNo.ではない。

だからこそ持っている権限も対等。そう踏んで麗は良に詰め寄った。

「散歩だよ。老後に歩けなくなったら困るだろ?」

人を小馬鹿にしたような回答。麗はその答えを予想していた。

「あら?そうなの?ならご一緒しても構わないでわよね?」

その切り返しに良は思わず顔を渋らせた。

「あ〜それは困るっす……」

テルはその会話を聞いておずおずと前に出る。

「今回は私がその役割を担ってるっすから、九十六番には遠慮してもらうっすよ」

そう言ってテルは胸元から三枚羽のエンブレムを取り出した。

それは柏木にお墨付きを意味する。

つまり麗はこれ以上この件に関する介入が出来ないという事だ。

「あんた性格悪いって言われんでしょ?」

「はい。よく言われるっすよ」

だが、ただで止まる麗ではない。良にもう一歩近寄り顔を近づける。

端から見ればそれは恋人同士の秘め事の様にも見えるが。内容は間逆だ。

「紬に何かあったらあんたを殺すわ」

ぼそりと告げる麗に良も返す。

「使えない隊長さんが、俺を殺せんのか?」

麗がそう言われた直後刃を抜かなかったのはひとえに紬が見ていたからだ。

麗は薄気味悪い笑顔のテル。

小馬鹿にした様に笑う良。

そして困惑している紬を順番に見る。

「紬。気を付けるのよ」

そんな事しか言えない自分に腹が立つ。

自分よりも年下の友人が利用されている事。それを見て止められない自分に腹が立つ。

「うん。まかせて」

そして幼いその友人は無邪気な笑顔で麗に笑いかける。

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