第37話 テル
八城に続いて桜と時雨が番街区外に出て行ったのを確認して、雨竜良は、テルを人気の無い場所に呼び出していた。
「どうっすか?調子は?」
テルは良を気遣うように瞳を細める。
テルが見つめる先には、調子があからさまに悪そうな良が座っていた。
「薬は効いてないんすか?」
「効いちゃいる筈なんだが……最近は効き目が段々な……」
良は、発汗が止まらず、指先も微かに震えている。
この症状が出始めたのはつい最近の事だが、出始めて一週間で良の身体は確実に蝕まれていた。
良自身いつか来るとは思ってはいたが、とうとう隠すのにも限界が近づいている。
「で?テル、情報は?雪光を見ただろ。何か分かった事は無いのか?」
良は八番隊に見せる悠々とした態度ではない。鬼気迫るという言葉が似合う程逼迫した様子だ。
「まだ雪光の情報を流せてないっすよ。ラジオ局に行かないと他のテルにも、この情報を流せないっすから」
「早く!早くしてくれ!」
良は語尾を荒げテルに掴み掛かった。
「いっ痛いっす!離して下さいっす!」
テルは両肩を掴まれて思わず絶叫を上げた。
「すっすまん……」
良はやってしまったと思い、咄嗟にテルの肩から両手を離した。
テルは両肩を回しながら具合を確かめる。
「いいっすよ。五番には雪光の情報でお世話になったっすから、お愛顧っす」
テルの肩には未だズキズキした鈍痛が残っている。
「本当にすまん……」
「良いっすって。とりあえず今日は薬飲んで寝た方がいいっすよ」
「ああ、そうする」
テルは去っていく良の姿を痛々しく見つめていた。
良の時間は少ない。
その情報を聞いたのは最近の事だ。
No.五番である雨竜良が、東京中央に居たテルに接触を図って来たのは一ヶ月前。
その時にはもう良の表情は芳しくなかった。
「雪月花っすか。野火止一華は随分物騒な物を残したみたいっすね」
夕日が沈んでいく西の空を見ながら独り呟く。
テルは情報屋だ。
重要な情報程慎重に扱わなければいけない事を理解している。
テルは感じていた。この情報が自分一人の手に余る情報だという事を。
三シリーズの持つ特性。
即ち、噛まれた人間を一時的ではあるが生き長らえる事が出来るという事だ。
そして今現在手の届く場所に居る雪光の持ち主である八番。
そして、野火止一華の手によってその治療を施された五番という実物が二つ。
今ここにあるという事実。
それが情報屋として一層テルの胸を掻き立てるのだった。
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