第六十九節  落ちた先で何を求める ※

 ※若干性描写が強めの部分があります

 ※無理やりではありませんが仄暗いです

 ※苦手な方は閲覧をお控えください(見た後での苦情等は受け付けませんご了承ください)



 目を覚ます。そこはテーブルとベッド、ランプが置いてあるだけの寂しい空間。天井に明かりはない。窓から入ってきている月明かりを見て、ああ今は夜なのかと理解した。起き上がってはみたものの、そこから何をする気も起きなくて、片膝を抱えて蹲る。つい先程の記憶がよみがえっていた。


 ******


 ルヴェルの城だという場所に連れられ、最初に案内されたのは謁見の間だった。そこには玉座と、巨木が鎮座していた。その幹の中央部分は黄金に煌めき、まるで心臓が動いているかのように脈打っている。


「これは途中経過だよ、キミ以外の二人の女神の巫女ヴォルヴァを救済している最中でね」


 その救済の過程で、幹の黄金が光り輝くのだという。レイはその黄金の光が、女神の巫女ヴォルヴァの力だと理解できた。尋ねればルヴェルは、救済は女神の巫女ヴォルヴァの力に作用させ、その力を女神の巫女ヴォルヴァから完全に乖離させることで成就する、と答える。


「そんなことが、本当にできるのか……?」

「勿論。だからこそ私は、女神の巫女ヴォルヴァを救済すると強く決意したのだよ。そのお役目から解放されれば、キミは死なない。自由に、この世界で生きていくことができるのさ」


 素晴らしいだろう、と笑うルヴェルに、それでもレイは頷くことはせず尋ねた。


「……俺のことも、本当に救ってくれる?」

「当然じゃないか。私でよければ、ずっとキミの隣にいてあげる。キミの哀しみを癒してあげよう。私だけで物足りなければ、私のエインたちも、ずっとね」


 そう告げたルヴェルに優しく抱きしめられ、頭を撫でられる。敵の大将であるはずなのに、今は警戒よりも安心感の方を強く感じる。駄目だと頭のどこかで理解していても、自分が孤独だと知らされた後のこの慰みは、心に沁みてしまう。思わず頭をルヴェルの胸元に預けて、一つ頷く。


「うん……」

「……疲れただろう?キミの部屋を用意してあるから、まずは休むといい。部屋にはシャワーも併設しているから浴びてもいいよ。夜になったら一度様子を見に訪ねるが、いいかい?」

「……別に、構わない……」


 そのあとエインの一人であるツェルトに、用意された部屋まで案内される。閉められた扉の外の気配が動かないことから、監視が付いたのだと知った。逃げる気力もないのだけど、と思いながらシャワーを浴び、襲ってきた眠気に耐えられずにベッドに横になったのだった。


 ******


 その瞳に映るのは、絶望の暗い海。今まで信じていたものが、自分を騙すための嘘偽りなのだと知らされて。何も信じることができなくなって、ただひたすら、独りにはなりたくないと願って。どうしてこんなことになったのだろう。考えても答えが出てこない。だから、敵だと理解していても自分のことを考えてくれているならと、差し出されていたその手を取った。

 女神の巫女ヴォルヴァの力を使い続けていずれ死ぬのは、別にいい。納得はしている。だけど、誰か一人でもいい。自分の傍にいて、自分を愛してくれていたという記憶を持って死にたい。独りで死ぬのだけは嫌だ。


 孤独に震えながら呟いていると、ドアが三回ノックされる。返事はしなかったが、自分の無言を肯定と感じたのか、そこが開かれる。そこにはルヴェルが立っていた。彼を見て、そういえば夜に様子を見に訪ねると言っていたと思い出す。彼は相変わらず人のいい笑顔を貼り付けて、ベッドに腰かけた。


「どうだい、休めたかな?」

「……別に……」

「はは、悪いって言われなくてよかった」

「……なんの、用だよ?」

「キミに説明しておこうかと思ってね。キミの救済の方法について」


 隣に座ってくれるかい、と指示されて大人しく従う。素直に従う自分に気分を良くしたのか、ルヴェルはレイの頭を撫でる。


「キミは他の女神の巫女ヴォルヴァと違って、戦の樹だ。魂までもが巫女ヴォルヴァであるキミを救うためには、そこにあるものを注いであげなければならない」

「ある、もの……?」

「それはね」


 ルヴェルは一度レイの頬に手を添えて、彼の瞳をじっと見据える。近付いたルヴェルからふわりと、花の香りが漂ってきた。甘く、蕩かされそうな香りだ。


「愛、だよ」

「愛……?」

「そう。一口に愛といっても様々あるが、キミに注ぐのは人としての愛。他の何も考えられなくなるほどの、個人的で強い愛だ。それは俗世的なもので、神聖なそれとは正反対の位置に存在している」


 つまり、神の御子として魂までもが女神や世界樹に近いレイに、愛を注ぐことでその魂は穢れを纏い、力の性質である神性が消失する。神性が消失すれば女神の巫女ヴォルヴァの力は本人から乖離しやすくなり、その分早く救済してあげることができると、説明を受けた。


「それって、俺がお前を愛すればいいってこと……?」

「んー、それは少し違う。私が、キミを愛してあげるんだ。キミはそれを受け入れてくれれば、それでいいんだよ」


 どうだいと尋ねられるが、急にそんなことを言われても困るというもの。そう答えれば、ルヴェルはレイを優しく抱きしめながら語る。


「でも私は、キミのことを一刻も早く普通の生活に戻してあげたい。女神の巫女ヴォルヴァとして酷使される人生を送ることのない、平和な生活にね」

「あ……」

「だから、私に委ねてごらん?」


 くい、と顎を持ち上げられ、そのまま唇を重ねられた。甘い香りに包まれる。限界まで呼吸を封じられ、息苦しくなったと思えば唇は離れて、また塞がれる。このまま、窒息死してしまうのだろうか。香りと相まってぼやける思考に、途端に刺激が与えられる。

 歯列を舌でなぞられ、思わず口を開く。その一瞬をチャンスだと感じたのかルヴェルの舌が入り込み、レイの咥内をまさぐった。縦横無尽に動き回る舌についていけず、翻弄される。


「ぁ……ふ、ぁ……」


 力強く勝手に咥内を堪能したかと思えば、今度は優しく手を取るようにレイの舌に絡む。粘着質な音が薄暗い部屋に、レイの鼓膜に、刻まれる。ぬちゃぬちゃと響く、互いの唾液の絡まる音。身体の奥で熱が目を覚ましそうだ。


「ふぅ……んン……」

「んあ、ぅ……」


 きゅう、と舌を吸われる。えずかないようにと絶妙に調節された力加減。快感すら覚える、ぞわりとした感覚に全身の産毛が粟立つ。存分に貪られ、満足したのかルヴェルがようやくレイを解放した。名残惜しい、と言わんばかりに銀の糸がたらりと垂れる。くたり、と力の抜ける身体はルヴェルに寄り掛かる。まさか人生で初めてのキスが、こんなにも濃厚なものになるなんて。


「こんなキスは初めてだったか、悪いことをしたかな」

「あ、ぅ……」


 頭がくらくらする。酸素が足りないせいか、纏わりつく甘い花の香りのせいか。なんだか身体全体が熱を帯びて、熱い。


「熱いかい?もしなら、続きも面倒見てあげるけど」

「や……ま、って……それは、その……心の準備、が……」

「でもここはこんなにも張っているじゃないか。これでは辛いだろう?」

「んン……ッ」


 するり、と張っていた股間をなぞられ背筋に電撃が走る。その事実にレイは混乱してしまった。気持ちいいと感じてしまってはいたが、それがここにまで顕著に表れるなんて思ってなかったのだ。


「だい、じょうぶだから……!」

「ここには何もないよ。まさか自分でするのかい?」

「そ、なの……関係ない、だろ……ッ」

「関係なくない。私はキミを愛するのだから。でもまぁ、無理矢理は私も好まないからね。これで妥協しよう」


 ルヴェルに告げられ、軍服のベルトを外されると、下着ごと一気にずり降ろされた。むくりと反応したそこは外気に晒され、震えるように動く。急なことで羞恥と混乱がレイを支配する。そんなことはどこ吹く風と、ルヴェルはレイを後ろから抱きかかえるように移動した。そしてそのまま息子をやんわりと握られると、刺激を与えられた。


「ひぁ!ん、ァ……!」


 片腕で腰を固定され、もう片方の手でくにくにと股間を弄られる。誰かにそこを弄られるのは、初体験だった。言いようのない感覚に陥りそうだ。せめて声は抑えようと、口に手を添える。それでも股間を中心に全身を駆け巡る快感に、嬌声が漏れてしまう。


「大丈夫、怖くない。それにほら、気持ちいいだろう?」

「ふぅう、ン、んぅ!」


 先端を揉まれると、どうしようもなく。レイはされるがままに熱を開放した。瞼の裏でチカチカと、視界が白く爆ぜる。全身の力が抜けていく。身体はレイの意思とは関係なく、ルヴェルの寄り掛かる。ちらりと彼を見上げてみれば、視界の端で白く汚れた己の指を舐めている姿が、目に入った。レイの視線に気付いたルヴェルはにっこり笑う。空いていたもう片方の手で、彼の視界を遮った。


「無理をさせてしまったかな?今晩はもう、おやすみよ」


 鼓膜に焼き付くように囁かれ、疲労感も相まってかレイの意識は再び闇の中に沈むのであった。

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