第二十七節 女海賊
エイリークたちは男たちの道案内で、ひとまず彼らのアジトへ案内されていた。
ケルスが男たちの怪我を治療した後、落ち着ける場所まで案内すると提案を持ち掛けてきたのだ。そのアジトには自分たちのボスもいるとのことで、詳しいことはその人に聞けば一発らしい。男たちは外見を裏切らず、とある海賊の一味であると紹介された。今はこの島で食料の確保や、今後の航路の話し合いをしていたのだ。
「一つ聞いていいですか?どうしてさっきは僕たちを襲いに来たんですか?」
「いやだって天使さんよ、俺たちが先に見つけた島にあとから乗り込んできてたら宝を横取りされると思うだろ?」
「それに、目の前にイイ得物を見つけたら襲わざるを得ない。それが俺たち海賊の
「そう!それが
楽しそうに会話を弾ませる彼らの、なんと気楽なことか。圧倒されながらも、襲撃に悪意があってのことではなさそうだったので、こちらも許したのだ。
いや問答無用で襲ってくるという時点で、明らかに悪意はあるのだろうが。
「ですがあっしらの勘違いだったみてぇで、ホントすいませんっした!」
「命を救っていただいた御恩は、キッチリお返ししやす!」
「全ては天使様御一行のためっす!」
相変わらずテンションが高く、楽しそうな海賊たちである。思わずケルスがこそりとエイリークに耳打ちする。
「あの、どうしましょう……。なにか勘違いをさせてしまっているようで、凄く心苦しいのですが」
「んー。でもほら、ケルスが国王様って知られると、それはそれで厄介なことになりそうじゃ、ないかなぁ……?」
海賊は捕まえ次第縛り首の刑、というのが世界の法律だ。ケルスも本来なら、彼らを処罰する立場ではある。
しかし目の前の海賊たちは、今の自分たちにとっては貴重な情報源だ。それにあのような渾身の土下座を見させられては、さすがのケルスも何も言えなかった。無暗に生殺与奪をしなくてもいいだろう、というのがエイリークたちの考えだ。
そのまま海賊たちについていくと、テントが張られている場所に辿り着く。ここが基地なのだろうか。海賊の男のうちの一人がその前に立ち、声をかける。
「キャプテン!お客さんでございやす!」
この言葉の後、一瞬時間を置いて抗議のような声がテントの奥から響く。聞こえてきた声が女性ということで、思わずエイリークたちは顔を見合わせた。
「客!?こちとらまだ先客の対応中だよ!」
「ですがキャプテン、こちらのお客人もその、あっしらの命の恩人っす!」
「まったくめんどくさいねぇ。いいよ、連れてきな!」
「ヘイ!」
返事を返した海賊は振り向くと、テントの袖を広げ中に入るように促す。あれよあれよと展開が進むことに呆然としながらも、エイリークたちはその中に入る。
テントの中に入って最初に目に入ってきたのは、レイとグリムの姿だった。
「レイ、グリム!無事だったんだね!」
「フランメさんたち……!良かった、ご無事だったんですね!」
「ほぉ、案外早い再会だったじゃないか」
エイリークとレイの間に入るように声をかけてきたのは、先程聞こえてきた声だった。とすると、この人が海賊たちのキャプテンということだろうか。まずは一礼をして、自己紹介をする。
「あの、はじめまして。俺はエイリーク・フランメって言います」
「わざわざご丁寧にどうもね。アタシがこの海賊たちのキャプテン、アルヴィルダさ。話を聞きたいところだけど、アタシらは今この客人と商談中でね。悪いけど少し待ってもらえるかい?」
「商談……?」
そう、と告げるアルヴィルダ。彼女はレイたちに向き直ると、彼らと話を再開させようとした。
聞くに、エイリークたちとは別の場所で目を覚ましたレイたちは、やはり同じように海賊の奇襲を受けたとのこと。彼らも自分たちと同じように撃退し、ここへ案内された。そしてアルヴィルダと一戦交え勝利したレイたちは、彼女らと交渉しようとしていた最中だったのだという。
「どうする?アンタらの目的のお仲間さんは、アタシらが何もしなくてもこうして無事に見つかったわけだけど。交渉材料がなくなったんだから、お話の再開だ」
「はい」
「で?アンタは何がお望みだい?負けたのはアタシらだから、顧客のニーズには応えるつもりだけどね」
「……俺たちは今、自分たちが何処にいるのかも理解できていません。そして、ここから脱出するための足もありません」
「だろうね。最初にアンタらを見つけたウチの馬鹿共は、アンタらが漂流者に見えたらしいし」
エイリークは黙って二人の会話を聞く。話の内容から、どうやらレイとグリムは自分たちよりも早くに目覚め、ここを探索していたのだろう。
レイはアルヴィルダという女性と向き合い、一呼吸置いてから答えた。
「俺たちを、貴女の船に乗せてください。乗せていただけるのなら、俺たちは貴女の船で働きます」
「へぇ、そんなのでいいのかい?」
「今の俺たちに必要なのは、貴女たちの持つ知識です。ですが貴女は海賊で、いつまでもここにいるわけじゃない」
「そうさね。この島での補給を終えたら、アタシらはまた海に戻るよ」
「だったら俺たちの方が貴女たちの船に乗る。そうすればこちらは知識を、貴女は労働力を手に入れることが出来る。お互い、損をしない方法だと思うのですが」
レイの言葉に、アルヴィルダはしばし沈黙する。どう答えるか分からなくて、思わず生唾を飲み込む。やがて満足そうに笑って、彼女は立ち上がる。
「いいだろう、その案乗った。だが、アタシらはすでにアンタらから報酬を貰ってる。だから、無理に労働はさせないさ。まぁ他の海賊と衝突する場合は戦ってもらうけどね」
「え……でも、いいんですか?俺たち何も貴女に支払ってなんて……」
「大抵の勝者になった奴はね、それを盾にして敗者に無理難題を押し付けてくるもんさ。だけどアンタは勝者のくせに、自分達からも何かを差し出すっていう選択肢を選んだ」
「あ……」
「アタシらは一度アンタに命を救われてるばかりか、それ以上に必要な駒まで出そうとした。その心意気を認めないで何が一流の海賊さ。そうだろ野郎共!」
彼女の呼びかけに、テントの中からも外からも雄たけびが上がる。
「そういうわけだ。歓迎するよアルマ、それにセレネイドもね」
「あ、ありがとうございます!……って、え?俺とグリムさんだけですか?」
「なに当然のこと言ってんのさ。アタシが交渉したのはアンタら二人とであって、あのボウズたちとはまだ、何も関係を結んじゃいない部外者だよ」
「そんな……」
狼狽するレイ。様子を見守っていたエイリークは、彼とアルヴィルダの会話に入っていく。
「あの、お話は終わりましたか?」
「ああ、待たせたね。なんだい?アンタらも船に乗りたいのかい?」
「はい。もちろん、タダでとは言いません。俺たちが貴女の船で働きます。だから、乗せてもらえませんか?」
「ふぅん……。けどねボウズ、言うだけなら誰でもできるよ。そんなに船に乗りたいなら、アタシに証明して見せな。それだけの腕を持っているかどうかをね」
アルヴィルダの気配が一変する。肌で感じるオーラですでに理解できた。彼女は強者であると。本気でぶつかりにいかなければ、首を撥ねられるのは自分達だと、直感で理解できるほどに殺気が鋭い。それに対して周りの海賊たちはテンションが上がっているのか、賭けまで始める始末だ。
テントの外、少し開けた空間に出たエイリークたち。エイリークは愛用の大剣を構え、アルヴィルダは銃とサーベルを手に対峙する。海賊の野次が飛び交う中、どちらからともなく、動いた。
アルヴィルダが銃でエイリークの足元を狙う。
それを躱し、大剣でアルヴィルダに斬りかかる。
彼女は二三歩後退し、牽制に発砲してくる。それをエイリークは、大剣を盾にして防ぐ。
間合いを詰めようと一気に駆け、体勢を低く構えた。それを上から切りつけようとしたアルヴィルダに、してやったりな笑顔を見せた。
「っ!?」
「せやっ!」
エイリークは大剣を薙ぐのではなく、アルヴィルダの持つサーベル目がけて、それを思いきり蹴り上げる。蹴られたサーベルは彼女の手から離れて宙を舞う。
「甘いよっ!」
サーベルを持つ手とは反対の手に持つ銃で、アルヴィルダはエイリークの脳天を打ち抜こうとした。響く銃声。ハッと息を呑むレイたち。しかしエイリークは、
「へへ……」
なんと、その弾を歯で咥えていた。あまりの出来事に、アルヴィルダは呆気に取られているようだ。それを吐き出し、トドメと言わんばかりに大剣を振りかぶる。
「そーりゃぁあ!!」
そして大剣の面の部分をぶつけ、アルヴィルダを打ち飛ばした。
衝撃で地面を滑った彼女と、静まり返る周囲。エイリークは大剣を地面に突き刺して、肩で息をする。
「……くくく、あっははは!」
倒れたまま、アルヴィルダは笑い声をあげる。彼女の突然の行動に驚き、思わず身を固くした。彼女はゆっくりと起き上がると、はぁと息を一つ吐く。
「まったく。馬鹿たちの前で二回も倒されたんじゃ、キャプテンの名がなくっての」
「姉御ぉ!」
「うろたえるんじゃないよ野郎共!勝手にアタシを殺すんじゃないよ!?」
そのまま立ち上がったアルヴィルダが、エイリークの前まで歩くと手を差し出す。
「アタシの負けさ、いい一撃だった。いいよ、アンタたちもアタシらの客だ。存分に使っておくれよ」
「ありがとうがざいます!」
手を握り返す。こうして、エイリークたちは奇妙な形で海賊の仲間となった。
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