03 サイコロのマジックに気を付けろ

 今回のお話は、本当にごくごく当たり前のお話です。

 私が言いたいことを理解した時点で読み飛ばしてもらって構いません。

 では。


 一般的なサイコロを振ったときに出る目の期待値はいくらでしょうか。

 1から6の目が出るよくある六面ダイスです。


 答えは「3.5」です。

 期待値というのは一言で言えば平均のことです。

 決してのことではありません。

 そういうのは希望的観測値とでもいえば良いのでしょうか。

 ここでは単純に「妥協値」と言いましょうかね。


 ところでこの3.5という期待値を聞いてどう思われました?

 私は「思ったより高いな」と感じました。

 そしてそんな風に感じてしまうことに違和感を覚えました。

 中学や高校の数学で確率について、誰しも一度は勉強する機会があったかと思います。

 細かい計算方法などは忘れてしまったかもしれませんが、単純に「合計してその数で割る」で平均は出せます。

 サイコロの目を合計すると21になります。そしてサイコロは6面あるので、21を6で割ると答えは3.5となります。何もおかしなところはありませんね。

 ではなぜ、私は違和感を覚えたのでしょうか。


 その答えが「妥協値」にありました。

 私が「思ったより高いな」という結論に至るまでの思考プロセスはこうです。



1.サイコロの目を振った時、その最大値は6である


  ↓


2.妥協値、つまりはいくらか


  ↓


3.それは単純に6を半分にした「3」ではなかろうか


  ↓


4.それに対して期待値は「3.5」である


  ↓


5.期待値が妥協値を上回っているので「思ったより高いな」



 よくよく考えるとおかしいのですが、今は騙されてください。

 最大値が6なので、その半分の3が出れば御の字、それ以上ならまぁ満足するという考え方の人はそこそこ居るのではないでしょうか。

 だから期待値が3.5と聞くと、自分の想定していた数値を上回る結果となり、期待値そのものが「思ったより高い」という印象を持つのではないでしょうか。


 とても簡単なカラクリですが、サイコロの目を考えてみましょう。

 出る目の値は「1、2、3、4、5、6」です。

 最大値の6は当然ですが、上から1番目の数字です。

 では、その6の半分である「3」はどうでしょう。


 「3」は上から4の数字であり、下から3の数字です。

 そもそも高い数字ではないのです。

 むしろ上位下位でいえば下位に属しています。

 それを「6の半分だからぎりぎり妥協できる数字」と認識してしまうと、期待値が妥協値を上回ってしまい、期待値というものを正しく認識できなくなってしまうのではないでしょうか。


 ちゃんと言葉の意味を知っていて、平均の割り出し方を理解していれば間違えることはないでしょうが、口の達者な詐欺師に矢継ぎ早に言葉を並べられて正しく認識できるでしょうか。


「サイコロを振った時に出る目の妥協できる値はどれくらいですか? まぁ6の半分の3以上なら許せるかなって思うじゃないですか。なんとこの魔法のサイコロ、1000回振ったときの平均値が3.5なんですよ。さっき妥協できる値が3ならって言いましたけど、このサイコロならそれを上回る3.5が出せるんですよ。凄くないですか? それと同じくらいオトクな投資信託のご案内をさせていただきたいんですけど……」


 なんて言われたら凄くお得な商品を提案されると思いませんか。

 実際はごくごく平均的な商品に過ぎないのですが。


 なぜこのような錯覚に陥るのか。

 それは思うに、期待値と妥協値に誤差が生じているからではないでしょうか。

 数字を大きくして考えてみましょう。


 1から26までの数字が書かれた紙を箱の中から1枚取り出した時、13以上を引き当てる確率は50%です。




 嘘です。

 サイコロなら間違えなくても、これを瞬時におかしいと判断できましたか?

 正解は約54%です。

 なぜなら期待値は13.5であり、13以上を引き当てる可能性は14/26だからです。

 決して13/26ではないのです。

 13という数字は26、25、24と数えていって14の数字です。


 再びサイコロで考えてみましょう。

 05を振って得られる最大値と期待値は?


 出る目は「0、1、2、3、4、5」の6通りです。

 つまりは「1、2、3、4、5、6」と同じです。


 最大値は? 5ですよね。

 期待値は? 0+1+2+3+4+5=15/6 → 2.5です。


 では妥協値は?

 最大値5の半分で2.5かな。

 期待値と妥協値が一致しましたね。

 そして実際には2.5なんて面はないので、2.5以上の面つまりは「3」以上が出ることを望ましいと感じているわけです。

 当然ですよね。


 これは六面ダイスの最低値が1であることを忘れているからです。

 最低限の保証値1に期待値2.5を上乗せして3.5となります。

 2から7のサイコロだろうがなんだろうが基本的には変わりません。


 よく確率のたとえ話に挙げられるサイコロですが、とにかく確率に対して神経質になりがちなガチャシステムの説明においてサイコロを用いるのは実は不適切なのではと思うのです。

 冷静に判断できる人間なら、期待値というもの性質を理解し数字の錯覚にまどわされたりしないでしょうが、ガチャを回したいと思う人間に対して「妥協値は3、期待値は3.5。だから案外当たりは出るよ」なんて言われたら鵜呑みにするのではないでしょうか。

 よくよく理解せずに「期待値は3.5」だけを覚えていると酷い目にあってしまうのではと思ってしまいます。


 次からはゲームで使用されている実際の確率を元に、一点狙いでいくら費用が必要かを見ていきたいと思います。

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