僕の救世主
ひみ
僕の救世主
夜空に輝く流星群は、空を美しく彩っていた。現れては消え、また現れては消えてゆく星たちを、鉄格子越しにぼんやりと眺める。
まるで、星の命みたいだ。ふっとそう思った。
脳裏に、あの事件のことが浮かぶ。
あの頃の僕は、世界を恨んでいた。
親には暴力を振るわれ、学校ではいじめられて、誰も助けてくれなくて。身も心も、ボロボロだった。
もういっそ死んでしまおうと学校の屋上から飛び降りようとした僕の前に、彼女は現れる。そして、優しい笑みと共に、囁いた。
死なないで。
私が、助けてあげる。
そんなことを言われたのははじめてで、僕の中で彼女は救世主になっていた。
それから、物事は目まぐるしく動く。
彼女が何をしたのかは知らないが、いじめはなくなった。呆然としながら家に帰ると、パトカーが停まっていて。父と母は虐待がバレて警察に連れていかれ、僕は祖母に面倒を見られることになる。
最終的に訪れたのは、平和な日々だった。僕は心の底から喜んだ。そして、彼女にーーーーー救世主に感謝した。
ある朝、僕が学校に行こうと家の外に出ると、彼女がいた。
放課後、学校の体育館で待ってる。
それだけ言うと、背を向けて歩き去っていく。何か、僕に用があるのかな。呑気にそんなことを考えていたから。
放課後、体育館の扉を開けた僕は、立ち尽くすことしかできなかった。
体育館には、真っ直ぐに立つ彼女と、僕のクラスメート達......否、クラスメートだったモノが転がっていた。
皆、死んでいたのだ。血まみれになって笑う、彼女を除いて。
ウフフ。驚いたでしょう。
彼女は僕に歩み寄り、僕の手に何かを握らせ。
それを、自分の胸に押し当てた。
グサリ。
僕の手に嫌な感触が伝わる。それと同時に、彼女の胸から赤黒い液体が流れ出た。
ありがとう。私を助けてくれて。
彼女の最後の言葉が、僕の耳に届いて、やっと気づいた。
彼女は、悪魔だったのだ。
その後すぐ、血まみれの包丁を持った姿で発見された僕は警察に逮捕され、数回の裁判の後“死刑囚”として今、牢屋に入れられている。
「おい、時間だ。ついてこい」
一人の監視員に声をかけられて、僕は立ち上がった。
僕は恨んでいる。
自分の、黒ずんだ人生を。
この世に“僕”として生まれてきたことを。
窓の外では、僕の人生を締めくくるには不似合いな美しい星たちが、いつまでも降り注いでいた。
僕の救世主 ひみ @harapekoshirayuki
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