第61話

「あの保永先生」


「愛奈って呼んでくれないんですね……」


「いや……私達の関係はそのような関係では……」


「私はそんな関係になりたいと思ってるんですけど」


 愛奈はぷくーっと頬を膨らませて大石に文句を言う。

 大石は再びため息を吐き、愛奈の方を見て話しを始める。


「あのですね、保永先生はまだまだお若いですし、私みたいなおっさんよりも同い年くらいの若い男性の方が……」


「それは私が決める問題です! 私は大石先生が良いんです!」


「うっ……」


 この人はなんでこんなにストレートに言ってくるのだろうかと大石はそう思いながら、頭に手を当てて考え始める。

 若くて可愛いこんな人が、なんで自分なんかを……。


「大石先生!」


「は、はい?」


 急に声を上げる愛奈に大石は驚く、愛奈は真っ直ぐ大石の目を見て真剣な表情で話す。


「好きです、私は大石先生が大好きなんです……」


「うっ………そ、それで……私にどうしろと……」


「付き合ってください、正式に!」


「え、えっと……これは告白と考えて良いのでしょうか?」


「はい! で、答えは!」


「えっと……考えさせてもらっても……」


「ダメです!」


「えぇ………」


「今すぐ答えが欲しいです! ダメならダメとハッキリ言ってください!」


「ほ、保永先生……あまり大声を出すのは……」


 大石達が居るのは、商店街から少し離れたクリスマスツリーの有る公園。

 商店街よりも人通りは少ないにしても、他にも人は居る。

 愛奈の声に周りの人間が大石達に注目し始めた。


「先生が……先生が悪いんじゃないですか……私の事……どう思ってるんですか……」


「あ、いや……あの……」


 愛奈が泣き出してしまい、大石はアタフタするばかりだった。


「やだ、別れ話し?」


「あんな美人を……酷い男だな」


「クリスマスなのに……可愛そうね……」


 他のカップルが大石達を見てそんな事を話し始めた。

 大石は場所が悪いと考え、愛奈を連れて一目の無いベンチに移動する。


「落ち着きました?」


「落ち着きません! 早く答えを下さい!!」


「あぁ……この人こう言う人だった……」


 愛奈は涙を浮かべ、頬を膨らませながら大石に言う。

 大石はそんな愛奈の隣に座り、優しく話す始めた。


「保永先生……少し落ち着いてください」


「はい……」


「あの……私は先生の事を綺麗で可愛らしい女性だと思っていますよ」


「それは嬉しいです、頭撫でても良いですよ?」


「いや、それは遠慮します」


「ぶー」


「話しを戻しますけど……俺は……貴方と釣り合える自身が無いんです」


 大石は真面目な表情で愛奈に話し始めた。


「貴方は綺麗だし……俺なんかにはもったいない……それに比べて自分は何の面白みも無いおっさんです……自分と一緒に居ても面白い事なんて何も……」


「そんな事無いです!」


 大石の言葉に愛奈は立ち上がって声を上げる。

 

「私は先生と一緒だと楽しいですし! ずっと一緒に居たいって思ってるんです! 釣り合う釣り合わないなんて関係ないじゃないですか! 問題は先生が私をどう思ってるんですか! 好きなんですか! 嫌いなんですか!!」


「せ、先生落ち着いて……」


 愛奈はそう言いながら、大石の胸ぐらを掴んで大石を問い詰める。

 

「早く言わないとちゅーします」


「え! じょ、女性がそう言うことをするのは……」


「5……4……」


「そのカウントダウンはなんですか!!」


「好きって言わないとちゅーします……3……2……」


「それはただの脅迫じゃ無いですか!! あぁ!! わかりました! 好きですから!」


 大石が好きと言うと、愛奈はニッと口元を歪めて大石にこう言う。


「私も大好きです……」


「んぐ……」


 愛奈はそう言うと、大石の唇に自分の唇を重ねた。

 

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