第60話

「ん……お前ら……高志は……」


「あいつなら心配しない、ちゃんと宮岡のところに行かせたよ」


「そうか……じゃあ、そろそろ行くか……」


 優一はそう言って立ち上がろうとするが、疲労と伊吹から受けたダメージで上手く立ち上がる事が出来なくなっていた。


「おいおい、あんまり無理するな」


「まったくとんだクリスマスだな」


 土井と繁村は優一に肩を貸し、立ち上がるのを手伝う。

 

「おいお嬢様、俺ら帰るからな」


「はい、大丈夫です。色々と申し訳ありませんでした」


「それは高志に言ってやれ」


 繁村は瑞稀にそう言い、優一を連れて土井と共に屋敷を後にしようと、屋敷の門に向かう。


「さて、高志は大丈夫かねぇ……」


「知るかよ……まぁでも……お前らには悪い事をしたな……俺のわがままに付き合って貰って……」


「まぁ気にすんな、今度お前と高志に飯を奢って貰うことにする」


「そうだな、それくらいはして貰わないと割に合わねー」


「だろうな………」


 繁村と土井は笑みを浮かべながら、優一にそう言い屋敷を後にする。

 屋敷の門をくぐると、屋敷の外には由美華と泉、そして赤西と朋香が待っていた。


「優一!」


「那須くん!? どうしたの!」


 優一の様子を見て泉と由美華が声を上げて心配をする。

 

「あぁ……お前らも来たのか……色々悪かったな……」


「そんな事より、何があったんだよ!!」


「ん? あぁ……まぁ……勝負に負けて試合に勝った感じだな……」


「はぁ?」


 赤西の質問に優一は口元を歪ませながらそう答える。

 

「それで、八重はどうしたのよ?」


「高志か……あぁ……後はあいつ次第だな……」


 朋香の質問に優一はそう答え、空を見る。

 雪が降ってきていた。

 今日はホワイトクリスマスになるようだ。


「さて……お前ら学校戻れよ……今日はクリスマスだろ?」


「いや、でもお前を一人には……」


「良いから、戻れ………俺もデートの途中なんだよ……」


 優一はそう言うと、繁村と土井から離れて一人フラフラと歩いて行く。

 そんな優一を見ながら、他の6人は不安そうに優一を見送った。


「本当、一体何があったの? あんたら二人は何があったか知ってるの?」


「あぁ……その話は学校に行きながらするさ……今はそれより学校に戻ろうぜ、皆来ちまうぜ」


 朋香の言葉に、繁村はそう答え学校までの道を歩き始めた。

 

「とんだクリスマスだったな」


「まったくだ」


 繁村と土井はそう文句を言いながらも笑みを浮かべて歩いていた。





「先生……あの……」


「はい?」


「近いです」


「そうでしょうか?」


 大石は愛奈と共にクリスマスの街を歩いていた。

 一緒に食事をし、夕方のクラスのクリスマス会まで大石は時間があり、少し愛奈と大石は街中をブラブラしていた。


「それと……私そろそろ学校に行かないと……」


「私も行っても良いですか?」


「え? いや……夜九時までですよ? 先生は家に帰って休んでも……」


「大石さんと一緒に居たいんですもん……ダメですか?」


「いや……ダメでは無いですけど……」


「じゃあ一緒がいいです!!」


「あ、はぁ……」


 目をキラキラさせながら、大石にそう言ってきた。

 大石はそんな愛奈に戸惑いながら、顔に手を当てる。


「何ですか? 今日は随分私にくっついてきますね」


「その理由は大石さんはご存じですよね?」


「……まぁ……それは……」


「じゃあ少しは私に優しくしてくださいよ……」


 そう言いながら愛奈は大石の手を強く握る。 大石はそんな愛奈の言葉に顔を赤らめる。


「お、俺は優しいつもりですけど……」


「ふーん……私の気持ちに気づいてるのに何も言ってくれない……それが多いしさんの優しさなんですか?」


「うっ……痛いといころを……」


「このデートだって……松島先生に言われなかったら私を誘わなかったくせに……」


 痛いところを突かれ、大石はばつの悪そうな顔でため息を吐く。

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