第47話


 優一達は屋敷の前にやってきた。

 

「インターホンを押すぞ」


「おう……」


「緊張するな……」


 優一は躊躇無くインターホンを押し、返答が来るのを待った。


『はい、どちら様でしょうか』


「………」


「おい、どうした優一?」


「答えないと……」


「いや、なんて言って入るか考えてなかった」


「おまっ! 馬鹿! なんでインターホン押した後に気がつくんだよ!」


「どうするんだよ!」


「まぁ、適当に高志の名前を出せば大丈夫だろ……すいません、八重高志の事で少しおたずねしたいのですが?」


『え? あぁ……申し訳ありません、そのような方と当家は関わり合いはございません』


 インターホンに出た女性が冷たくそう言い、通話は切れた。


「ダメじゃねーか」


「本当にここなのか?」


「……隠してやがるな……」


「は?」


「もう一回行くぞ」


「え、また押すのかよ」


「本当に高志がここにいるかの確証も無いんだぞ?」


「居る、今ので確証が持てた」


「は? でも今居ないって……」


「返答に間があった、何かを隠しているのは間違い無い。少なくとも、関わり合いが無いってのは嘘だ」


「で、でもよぉ……」


 優一はもう一度インターホンを押す。

 しかし、今度は返答すらなかった。

 それに腹を立てた優一は、インターホンを連打し始める。

 

「お、おい迷惑だろ?」


「隠し事があるような奴らだ、迷惑なんて気にしてられるか」


「いや、でもそんな地味な嫌がらせで出てくるか?」


 そう土井が言った瞬間、お屋敷の門が大きく開いた。

 

「何か、ご用でしょうか?」


 そう言って門から出てきたのは、伊吹だった。

 伊吹は無表情のまま優一の前にやってきて、静かに尋ねる。


「何事ですか、迷惑と言うものを考えないのでしょうか? 君は」


「やっと出てきたな……」


 伊吹を前にして、優一以外の繁村と土井は思わず一歩身を引いた。

 しかし、優一は一歩も引かない。

 それどころか伊吹の間に出て尋ねる。


「八重高志……知ってるよな?」


「はて、一体誰のことだか……さっぱりですな」


「12月の始め、ここに来ているはずだ、それとこの求人、ここの住所だよな? 高志はここにバイトに来ているはずだ」


「ふむ……そんな方ももしかしたら居たかもしれませんね……しかし、一日に多くのお客様が来ますからね……いちいち名前など……」


 そう伊吹が言った瞬間、優一は伊吹の胸ぐらを掴む。

 

「とぼけるな」


「ゆ、優一?」


「お、お前落ち着けよ!」


 優一は静かに伊吹にそう言い、胸ぐらを掴まれた伊吹も表情を変える事無く、静かに口を開く。


「随分失礼なお客様のようだ」


「失礼? 良いからさっさと高志を出せ……」


「……知らないと言ったら?」


 伊吹はそう言いながら、優一の腕を軽々と引き剥がす。


「なっ……このじじい……」


 あまりの力の強さに優一は驚いた。

 そして、伊吹は逆に優一の腕を力強く掴み、放り投げる。


「うっ!」


「優一!」


「お、おい大丈夫か!」


 投げ飛ばされた優一は伊吹を睨み付ける。 繁村と土井は優一の元に駆け寄るが、優一はそんな繁村と土井の手を払いのけ、再び立ち上がる。


「おかえり下さい」


「嫌だと言ったら?」


「実力行使で追い払うまでです」


 伊吹はそう言って拳を構える。

 

「おっさん……ただの執事じゃないのかよ……」


「執事兼ボディーガードです、貴方のような方がたまに居るので私が強くなければ、この家は守れません」


「そうかよっ!!」


 優一は伊吹にそう言いながら、拳を伊吹にぶつける。

 しかし……。


「まだ子供ですな」


「くっ……」


 優一の拳は簡単に伊吹に止められてしまった。

 伊吹は涼しい顔で優一の手を右手で受け止め、そのまま優一の腕を上に上げる。


「くっ……は、離せ!」


「子供とはいえ……お仕置きが必要なようですね」

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