第48話

「なぁ土井」


「なんだよ繁村」


「俺らの世界ってラブコメジャンルだよな?」


「繁村、やめろ」


「いや、だって……なんかジャンルが変わってるんだもん、なんかバトル始まるし……」


「言いたいことは分かるが、とりあえずやめろ……俺らがそれを言うとややこしくなる」


 伊吹と優一が殴り合いを始めている最中、土井と繁村は影で二人の様子を見ていた。


「クソジジィ……なんでこんなにパンチが重いんだよ!」


「経験の差と言う奴ですなっ!!」


「ぐっ!」


 伊吹の拳を優一は両腕で防ぐ。

 一度に十数人の不良を相手にした事もある優一が押されるほど、伊吹は強かった。

 しかし、伊吹もそこまで余裕がある訳ではなかった。

 一瞬でも気を抜けば優一の拳が容赦なく伊吹の体を狙う。

 互いに気を抜くことが出来ず、周りを気にする余裕が無かった。


「ん? ちょっと、これ……チャンスじゃないか?」


「は? あんな強いジジイが門番としているのにか?」


 影に隠れていた土井と繁村がそんな話しを始める。


「いや、その門番さん、俺たちの事は目に写って無いっぽいぞ?」


「まぁ……言われてみれば……」


「この隙に中に入れるんじゃね?」


「……行ってみるか?」


 少し考えて、土井は繁村の案に同意し、伊吹が余所見をしている隙に屋敷の中に侵入して行った。

 

「案外入れるもんだな……」


「でも、これで高志が本当に居なかったら……」


「完璧に不法侵入だな」


「………」


「………」


「なぁ……」


「何?」


「不法侵入って……刑罰の対象になるんだっけ?」


「なるだろうね……多分だけど住居不法侵入とかになるんじゃない?」


「そうか……」


「そうだよ」


 屋敷の庭の茂みの中で顔を合わせる繁村と土井。

 

「いや絶対ヤバいだろ!! 俺たち犯罪者だぞ!! 本当に大丈夫かこれ!!」


「いや、僕たち未成年には少年法が……」


「そう言う問題じゃないだろ! バレたら絶対にヤバイやつだって!!」


「でも、敷地内に入った時点でもう終わりだよね?」


「土井! なんでお前はこんな状況でも冷静なんだよ!」


「いや、これは冷静というより諦めだな……」


「は? どう言う意味だよ」


「いや……周り見てみろって……」


 土井に言われ、繁村が周りを見てみると繁村達の隠れていた茂みの周りをメイドさんと執事らしき人たちが取り囲んでいた。


「も、もお見つかってんじゃねーかよぉぉぉ!!」


「どうするよ繁村、俺は半分諦めてるぞ?」


「そんな事を言ってる場合じゃねぇ! さっさと逃げるぞ!!」


 土井と繁村がメイドさんと執事から逃げている中、屋敷の中では高志が傷の手当てを受けていた。


「なんだか外が騒がしいですね」


「はい、なにやら不法侵入者が出たとかで……」


「不法侵入者?」


「えぇ、でも良くあるんです」


「は、はぁ……良くあるんですか……」


 高志は手当をしてくれているメイドさんにそう言う。

 頬は腫れ、腕にはあざが出来ていた。

 メイドさんには何をしたらこんな怪我をするのかと尋ねられ、高志は口を濁した。


「あの、良くあるって言うのは?」


「あぁ、たまにあるんです。社長の命を狙ってやってくる人が居たりするんです」


「あぁ、そういうのあるんですね……」


「えぇ、大抵は伊吹執事長が追い払うのですが……はい、これで終わりです」


「ありがとうございます」


「お嬢様……きっと心配されると思います」


「ですよね……自分から上手く言っておきます」


 高志はそう言って、部屋を出た。

 外が騒がしい事には気がついていた。


「こんなところに……一体どんな人が侵入して来てるんだろう……」


 高志はそんな事を思いながら、瑞稀の元に戻って行く。

 

「……まさかな」


 もしかしたら、優一達が?

 なんて事を考えた高志だったが、直ぐにそんな訳はないかと思い直した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る