第46話


 優一は繁村を抱え、土井と共に目的の場所に向かっていた。


「なぁ、高志はどうしたんだ? お前と殴り合いの喧嘩までするなん……」


「あぁ、まぁ気にするな」


「そうか? それよりも……重くないのか?」


「繁村の事か? あぁ、今回こいつのふざけたテンションが役に立つかもしれないからな」


 優一には考えがあった。

 今日の繁村のテンションがどういうものなのか、優一は泉との電話で何となく察していた、だからこそ繁村を連れて来いと泉にも話していたのだ。


「で、どこに行くんだ?」


「屋敷だ」


「は? 屋敷?」


「あぁ、秀清家って知ってるか?」


「あぁ、元財閥とかで、今は色々な事やってる会社だよな? それがどうかしたのか?」


「その社長の家に今から行く」


「はぁ!? クリスマスにどんな冗談だよ! あれだけ大きな社長の家だぞ! 絶対ヤバいって!」


「そこに高志が居る可能性が高いんだよ」


「はぁ? なんで高志がそんなところに?」


 優一は便利屋の市川から聞いた話を元に、高志がバイトをしていたと思われるバイト先をネットのサイトから見つけ出した。

 その詳細を調べていくと、段々バイトの詳細に近づいて行き、最終的に秀清忠次と言う会社の社長の名前にたどりついた。


「泉達や赤西達に行ってもらったのは、その社長が経営する系列会社だ、もしかしたらも考えてな」


「でも、そんな大会社の社長様が俺たちみたいな高校生に面会なんてしてくれると思うか?」


「一応、黒い噂は何個か用意した」


「お前の情報はどっから出てきてんだよ……俺少し怖い」


「気にするな」


 優一と土井は秀清家について話しをしながら、目的の場所に向かって歩く。

 高級住宅が立ち並ぶ住宅街から、また少し歩いたところに目的の家はあった。

 大きなお屋敷に大きな庭、クリスマスだからだろうか、大きなクリスマスツリーまで見える。


「ここだ」


「で、デカいな……」


「よし、まずは繁村を起こすか」


「おーい、繁村! そろそろ起きろ!」


「ん……はっ! お、俺は一体何を……てかここはどこだ!?」


 繁村は優一の肩の上で目を覚ました。

 先程までのテンションは無くなっており、今はいつもの繁村だった。

 優一はそんな繁村を肩から下ろし、もう一度状況を説明する。


「なるほど……」


「やっぱり、さっきは話しを聞いてなかったか」


「あぁ、この世の中のカップルを滅亡させることしか考えてなかった」


「お前の嫉妬はすさまじいな……」


 繁村の言葉に土井と優一は肩を落とす。

 

「で、これからどうするんだ?」


「決まってる、突撃するんだよ」


「なるほど……大会社の社長の家に?」


「あぁ」


「俺たち高校生が?」


「あぁ」


「三人で?」


「あぁ」


「よし! 土井、優一を病院に連れて行こう、頭を打ったみたいだ」


「繁村、その言葉を俺はさっきのお前に言いたいよ」


 優一から話しを聞き、繁村は優一を正気では無いと判断し、今から行おうとしている作戦を止め始めた。


「正気か!? 下手したら警察沙汰だぞ!」


「望むところだ」


「馬鹿か! 少しは冷静になれ! 高志となら明日でも話しをすれば……」


「明日じゃ意味がねーんだ!」


 突然大声を上げる優一、そんな優一の姿を見て、繁村と土井は驚き目を見開いた。


「ど、どうしたんだよ?」


「いや、すまん……ただ明日に伸ばしたら……あいつはもう絶対に戻れない気がするんだ……だから……頼む……危険に巻き込んでるのは分かってる……だが、頼む……俺にはそうとしか言えない……」


「………優一」


「………」


 繁村と土井は顔を合わせる。

 優一がしっかり頭を下げ、自分たちに頼み事をするなんて始めての事だったからだ。

 そんな優一に、繁村は口を開く。


「あぁ!! くそっ! 仕方ねーな! 今回だけだぞ!」


「まぁ、高志の事も心配だしな」


 繁村と土井は優一に笑みを浮かべてそう言った。


「……すまん、ありがとう」


「うわ、優一が素直にお礼とか言ったぞ……キモいな」


「ありがとう……ちなみに繁村は後でコロス……」


「あ、いつも通りだこれ」


 

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