第16話
車に乗せられた高志は、一体どこに向かっているのか分からず不安だった。
伊吹もあれからまったく口を開かず、車内には気まずい雰囲気が流れる。
「あ、あの~……」
「はい」
高志は恐る恐る口を開き、伊吹に尋ねる。
「い、一体どこに向かっているのでしょうか……」
「ご心配なく、時期に到着致しますので」
「いや……だからどこに?」
なんでこんなことになってしまったのだろうとため息を吐く高志。
紗弥には悪い事をしてしまったと反省しながら、スマホを取り出して紗弥に連絡を入れる。
【ごめん、先に帰ってて】
とりあえずその一文だけを打ち込み、高志はスマホをポケットにしまう。
詳細が分からない以上、いつ帰れるのかも分からないし、そもそもバイトの事がバレる心配もある。
「はぁ……なんでこんな事に……」
折角の紗弥との楽しい放課後を邪魔され、高志の気分は最悪だった。
一体どこに連れて行かれるのだろうかと、高志が窓の外を見ながら思っていると、ビルの立ち並ぶオフィス街で車は止まった。
「到着しました、ではどうぞ」
「え? ど、どうぞって?」
「お下り下さい、旦那様がお待ちです」
「だ、旦那様?」
高志は言われるがままに車から降りる。
伊吹に言われ、高志は伊吹の後ろを付いて行く。
大きなビルの最上階、そこでエレべーターを降り、伊吹はその会の一室の前で足を止めた。
コンコンと伊吹が二回ノックをすると、部屋の中から声が聞こえてくる。
「はい」
「伊吹でございます、お客様をお連れ致しました」
「そうか、入れ」
「はい」
伊吹はそう言って、部屋のドアを開けて中に入って行く。
高志も続いて部屋の中に入る。
部屋の中には大きな机と高そうな椅子、そしてソファーや壺、絵画などが置かれていた。
そして何よりも衝撃的だったのが、入ってすぐ正面の壁が全面ガラス張りになっていることだった。
そんな豪華な部屋に高志が驚いていると、ガラス越しに外を見ながらスーツ姿の男が話し掛けてくる。
「絶景だろう、この景色は」
「え? あ、あぁはい……そう思います」
「そうだろう、始めてこの部屋に入った人間は大抵そう言う。しかし、毎日見ていると……絶景も絶景では無くなってくる」
一体何が言いたいのだろうか?
高志がそんな事を思っていると、スーツ姿の男は高志の方を向いた。
背が高く、目つきはキリッとしているその人は、どこか怖そうな雰囲気だった。
「君が……八重高志君か?」
「は、はい……」
高志は声を掛けられ、少しビクビクしながら声を出す。
高志はその人の目が何となく怖かった。
まるでなんでも見透かしているかのような冷たい視線、その目で見られているだけで、なんだか体が重たくなった。
「この前は娘が世話になったね」
「え? 娘?」
「瑞稀の事だよ。あぁすまない、自己紹介がまだだったね……私は秀清忠次、瑞稀の父親だ」
「え!?」
名前を聞いて高志は驚いた。
瑞稀の父親が一体自分に何のようだろうか?
高志は冷や汗を掻きながら、嫌な事をばかりを想像してしまう。
もしかしたら、何か失礼があっただろうか?
それとも金を受け取らなかったからだろうか?
不安でいっぱいの高志に忠次が口を開く。
「安心したまえ、別に君を叱ろうなんてことでここに呼びつけたのでは無いよ、少し話しをしたくてここに呼んだんだ」
「は、はぁ……」
「まぁ、掛けたまえ」
忠次はそう言って、高志をソファーに座るように促す。
「じゃ、じゃぁ……失礼します」
高志は言われるがまま、ソファーに腰を下ろす。
目の前には忠次が座り、二人は向かい会う格好となりった。
「話しというのは、瑞稀のことだ」
腰を下ろした忠次は、足を組んで高志に話し始めた。
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