第17話
「君はバイト代を受け取らなかったらしいね」
「あ、まぁ……はい」
「何故だい? 君はバイトに来たんだろ?」
「あぁ……それは……」
忠次の視線に高志はいちいち緊張してしまう。
またこの話しかと思いながら、高志は理由を話し始める。
「いや……なんていうか……あんな事でお金を受け取りたくないっていうか……普通にみ、瑞稀さんと友人になりたいなーなんて思ったりしたので……」
「……そうか」
「は、はい……」
「………」
無言で高志を見つめる忠次。
そんな忠次の視線から目を反らし、高志は冷や汗を流す。
一体何を言われるのだろうか?
高志は何も悪いことはしていないはずなのに、怒られている気分だった。
「……君は娘を気に入ったのかい?」
「へ? 気に入った……とは?」
「いや……たまに居るんだよ……親のひいき目で見ても娘は美人だからね……悪い虫がつくのは困るんだよ……」
高志は一気に血の気が引くのを感じた。
背後では伊吹さんが何故か知らないが、指をポキポキと鳴らし始めている。
(まって! そんな意味で言ったんじゃないの!! 俺はただ彼女が可愛そうに見えたから友達になれればって思っただけなのに……)
「い、いや! 誤解です!! 俺は娘さんをそんな目では見ていません!!」
「ほう……では私の娘には女性としての魅力が無いと?」
背後の伊吹さんの方から、今度は何か棒状の物を振る音が聞こえてきた。
(ヤバイ……殺される……)
高志は内心でそんな事を思いながら、ビクビクと震えていた。
「で、ですから! 決してそう言う訳ではなく! ただ……あの子があの家に閉じこもってばかりだと言っていたので……俺が話し相手になれればって思っただけです……」
「………」
高志がそう説明をすると、忠次は何かを考えるように顎に手を当て始めた。
「……あの子の母は体が弱くてね……あの子を産んで直ぐに死んでしまったんだ」
「え……」
「それから私がそだててきたのだが……私も忙しくてあまり相手が出来ない……母に似て体が弱く、いつ発作を起こしてもおかしくない……だから学校にも満足に行けず、友人も居ない」
「なるほど……」
「……あの子はもう……長く無い」
「………」
高志は忠次の言葉を聞き何も言えなかった。
長く無い、それはもう長くは生きられないと言うことだ。
奧さんを早くに無くし、今度は娘を無くそうとしている。
たった一人の家族を思い、この人が娘の為にバイトを雇っているのがなんとなくだが、高志には分かった。
「私は娘が生きている限り、娘を幸せにするつもりだ……その為なら私は何でもする」
そう話す忠次の瞳は真っ直ぐだった。
高志はそんな話しを聞いてしまい、ますます瑞稀の事が気になってきてしまった。
「……ただそれを言いたかっただけだよ……それと君さえ良ければこれからも瑞稀の話し相手になって欲しい」
「え、良いんですか?」
話しを聞いている限り、高志は忠次に「もう娘にちかづくな!」とか言われるのかと思っていたが、真逆の反応に驚いてしまう。
「あぁ、これが前金だ」
「え?」
忠次はそう言うと、伊吹に分厚い封筒を持ってこさせ、中身をちらっと高志に見せる。
ざっと見ただけでも50万円以上あるようだった。
「いやいや!! こんなお金要りませんよ!!」
「足りないかい? ではこの倍を……」
「だから! お金は要りません!!」
「何故だ? 君はお金が必要なのだろ?」
「こんなことでこんな大金貰えませんよ! 娘さん……友達の家に言って話しをするだけですし」
「……そうか」
高志に言われ、忠次は封筒を引っ込める。
あぁは言いつつもちょっと惜しいことをしたかと考える高志。
しかし、こんな事でお金を貰うのはやはりおかしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます