第15話

「そ、そんな事ねーよ」


「良いからほら! 帰るわよ!」


「イタタタ!! 引っ張るなよ!」


 朋香はそう言いながら、赤西を引っ張って教室を出て行った。

 そんな赤西と朋香を見ながら、クラス男子生徒達は更に嫉妬に狂って行く。


「ちきしょぉぉぉぉぉ!! 世界はなんでこんなに不公平なんだ!!」


「なんで赤西にあんなに可愛い彼女が居て、俺たちには彼女の一人も居ないんだよ!!」


「知るかよ」


 そんな男達を見ながら、土井は冷静にそんなツッコミを入れる。

 すると、そんな土井に泉が話しを掛けに来た。


「土井君、悪いんだけど少し勉強教えてくれない?」


「え? 別に良いけど……泉が頼んでくるなんて珍しいな」


「うん……まぁ、高志も優一も色々急がしそうだからね……クリスマスだし」


「あぁ、泉も俺もクリスマスは関係ないしな」


「あはは……でも、クラスのクリスマス会があるし」


「まぁ、俺たちはそれで良くても……あそこの馬鹿達はな……」


 そう言って土井は嫉妬に狂うクラスメイト達を見る。 あの中の一員とはあまり思われたくないものだと、泉は苦笑いをしながらそう思う。

 そんな事を泉が考えていると、突然泉は肩を叩かれた。


「泉! お前もそう思うだろ!?」


「え、え? な、何かな……繁村君……」


「彼女が居る奴なんて死んだ方が良いよな!」


「えっと……その理論だと少子化が加速すると思うけど……」


「そんな問題はどうでも良い!! 要はこの世界からカップルが消えればそれで良いんだ!!」


「ど、土井君……繁村君って疲れてる?」


「いや、こいつは病気なんだ……頭の」


「そ、そっか……」


 苦笑いをしながら、泉は何かに燃える繁村を見ていた。


「よし!! これから三人でカップルを撲滅するための会議をするぞ!!」


「え! いや、僕は……」


「そんな物騒な会議誰が行くかよ……」


「良いから行くぞ!」


 繁村にそう言われ、泉と土井は無理矢理どこかにつれて行かれる。





「……それでね!」


「うん」


 高志と紗弥は仲良く手を繋ぎながら家に向かって歩いていた。

 久しぶりに一緒に帰れて嬉しいのか、紗弥はいつもよりも機嫌が良い。

 

「高志、クリスマスはどうする?」


「もちろん紗弥と一緒に居るよ。クラスのクリスマス会に出られないのは残念だけど」


「うふふ、そうだね」


「まぁ、クリスマスは俺に任せておいてくれ!」


「その前にテストだけどね、高志大丈夫~?」


「だ、大丈夫だって!」


「あ、今少し考えたでしょ?」


「ぜ、絶対大丈夫!!」


「うふふふ、そっか」


 紗弥は笑みを浮かべながら、高志の腕に自分の腕を絡ませる。

 そんな幸せまっただ中の高志と紗弥の目の前に、黒塗りの高級車が止まる。


「ん? なんだ?」


「高そうな車だね」


 そんな呑気な事を言いながら、高志と紗弥が車を見ていると、車から誰かが下りてきた。


「先日はどうも、お世話になりました八重様」


「あ、えっと……た、確か……」


「伊吹です」


 現れたのは高志が先日行った、お屋敷の執事の伊吹裕悟さんだった。

 高志は咄嗟にまずいと思った。

 紗弥には、プレゼントの為にバイトをしていることは内緒だ。

 それなのに、こんなところでこの前のバイトの話しでもされたら、紗弥にバイトの事がバレてしまう。


(も、もしかして……この前給料を貰わなかったことか?)


 そんな事を考えながら、高志は背後の紗弥を見る。

 このままではバイトの事がバレてしまう。

 そう考えた高志は伊吹さんにこっそり耳打ちをする。

「あ、あの! ここではちょっと!」


「そうですか、それでは……」


「え?」


 会話をしている途中、伊吹は高志を抱え上げて車の中に放り込む。


「では、行きましょうか」


「どこに!?」


 車の扉を閉められ、伊吹は高志を乗せて車を発進させる。


「え? 高志!?」


 紗弥は驚きながら、走り去って行った車を目で追う。

「ゆ、誘拐?」


 紗弥は状況が飲み込めず、しばらくの間その場を動けなかった。

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