第2話



 とある日の放課後。


「優一さぁ~ん!」


「げっ……」


「げってなんですか! げって!!」


 高志達の学校の昇降口前では、優一と芹那が話しをしていた。

 優一は一人でゲームセンターにでも寄って帰ろうと思ったのだが、昇降口で芹那に捕まってしまった。


「なんだよ」


「一緒に帰りましょ~」


「嫌だ」


「なんでですか!」


「俺は一人で寄り道して帰りたいんだよ」


「じゃあ、私も寄り道します!」


「お前はさっさと帰れ!」


「優一さんと一緒じゃなきゃ嫌です!」


「はぁ……面倒くせぇ……」


 いつも通りの芹那の反応に、優一は頭を悩ませる。

 何が楽しくて自分と一緒に居るのだろう?

 なんて事を考えながら、結局は一緒に帰る優一。


「優一さぁ~ん、えへへ~」


「あんまり引っ張るな……」


 優一の左腕にしがみつき、芹那は幸せそうな笑みを浮かべる。


「うふふ~照れてる優一さんも可愛くて好きです~」


「うるせぇよばーか」


「本当は好きなくせにぃ~、修学旅行の前の日だってあんなに力強く私を抱きしめ、いたっ!」


「やかましい」


 修学旅行の前日、優一が芹那にしたことが原因で、最近の芹那は凄く積極的だ。


「はぁ……はぁ……優一さん……もう一回お願いします……」


「やべっ……こいつドMだった」


「はぁ……はぁ……もっと私を虐めてください!」


「はぁ……マジで……なんでこんな変態好きになっちまったんだろ……俺」


 そんな後悔をしながら、優一はどこにも寄らず、そのまま家に帰宅する。


「……なんでお前も付いてきてるんだよ」


「あ、お構いなく」


「構うわ! 今日は家にお袋も居るんだよ!」


「え! 優一さんのお母様が! これは是非ご挨拶を!!」


「しなくて良い」


 玄関フロアでそんな言い合いをしていた優一と芹那。 なんとか芹那に帰って貰おうとした優一だったが、その願いは玄関フロアにやってきた一人の人物のせいで叶わなかった。


「あら? 優一、今帰ったの?」


「げっ……お袋」


 玄関ホールで言い合いをしていた優一と芹那の元に優一の母が鞄を持って下りてきた。

 

「優一さんのお母様ですか!」


「あ、こら!」


「え? あの……誰かしら?」


 優一の母親と分かると、芹那は直ぐさま優一の母の前に出て挨拶をする。


「初めまして! 息子さん……優一さんとお付き合いさせていただいております! 秋村芹那です!」


「え!? ゆ、優一……あ、アンタ彼女なんていたの?」


「くそ……バレた……」


 優一は顔に手を当ててため息をつく。

 

「なになに~、お母さんになんで言わないの? いつから? ねぇ、いつから付き合ってるの? どっちが告白したの?」


「おいお袋! そんな色々聞くなよ!」


「えっと……告白したのは私で……付き合い始めたのは夏休みの……」


「お前も答えなくて良い!!」


 彼女が居る事がバレてしまった優一。

 芹那からもっと話しを聞きたい優一の母は、ここではなんだと言う理由で、芹那を家に招待した。

 優一はそんな母の意見を否定したが、その意見を否定されてしまった。


「へぇ~芹那ちゃんは、年下なんだ~」


「はい! 優一さんにはいつも優しくして貰ってます!」


「あら、して貰ってるって……あっちの方?」


「おいこら、この変態主婦」


「何よ~大切な事でしょ? 高校生なんて一番盛んな時期なんだから……で、したの?」


「するか!!」


 なんで家の親は子供とその彼女の前でそんな話しをするんだと思いながら、優一は頭を抱える。


「えっと……私はして欲しいんですけど……優一さんがへたれで……」


「誰がへたれだ!」


 早くこの場から居なくなりたいと思いながら、優一はソファーに座って話しを聞いていた。

 

「あら、そう言えば私買い物に行くんだったわ……芹那ちゃんゆっくりしていってね、どうせならご飯も食べて行きなさい」


「ありがとうございます! お母様!」


「お母様なんて……お母さんで良いのよ?」


「よくねーよ」


 優一の母親はそう言うと、そのまま出かけて行ってしまった。


「はぁ……やっとうるさいのが居なくなった」


「良いお母さんでしたね!」


「どこがだよ……息子と息子の彼女の性事情を聞いてくる母親だぞ」


「そ、それよりも……二人きりですね……優一さん」


「言いながら荒縄を俺に渡してくるな」


「え? しないんですか?」


「何をだよ!」


「あ、こっちでした?」


「ロウソクと鞭を出すな!」


 いつも通りの芹那に優一はため息を吐く。


「あの……優一さん」


「今度はなんだよ」


 うんざりしたように答える優一。

 どうせまた変な事を言うのだろうと思う優一、しかしそんな優一の予想とは裏腹に、芹那は恥ずかしそうに優一の袖を握ってきた。


「あ、あの……エッチな事は無理にお願いしないので……この前みたいに……ぎゅってしてほしいです」


「な、なんだよ……急に塩らしくなりやがって……」


「だ、だって……優一さんにぎゅーってしてもらうの……好きなんですもん……」


 そんな芹那のいつもとは違う、普通の女の子のような反応に、優一は思わずドキッとしてしまう。

 素直にそんな芹那を可愛いと思い、優一も芹那を抱きしめたい衝動に駆られる。


「……少しだけだぞ」


「はい……全然いいです」


 優一は芹那の体を優しく抱き寄せ、そのまま抱きしめる。

 柔らかで良い香りのする芹那。

 そんな芹那にかなりドキドキする優一。


「あ……やっぱりこれ……私好きですぅ……」


「み、耳元で囁くな!」


「だって……好きなんですもん」


「はぁ……お前……変わってるよ」


「変わり者で良いも~ん」


「あっそ……」


「ところで優一さん」


「なんだ?」


「何か堅い物がお腹に当たってるんですけど?」


「っ!! は、離れろ!!」


「え~、良いんですかぁ~? 私の体に興奮してましたよねぇ?」


「う、うるさい!」


「あん……残念」


 優一は芹那から離れ、前屈みになって自分の部屋に戻る。

 危なかった、このままでは色々と我慢できなくなってしまうとこだったと優一は思いながら、興奮を抑えようと他の事を考え始める。


「はぁ……勘弁してくれ……」


「優一さ~ん」


「な、なんだよ! 入って来るなよ!」


「私も手伝いましょうか?」


「絶対に入ってくるな!!」


 優一は顔を真っ赤にしながら、早く興奮を抑えようと自分のお腹を抓り始める。

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