第4話 人混みの美少女
「うっつ……」
嫌な思考と共にベットから目を覚ます。
カーテンの狭間から光が差し込む。
普段なら、それも心地よいと思えるのだが、今朝は夢見が悪い。
鬱陶しさしかない。
「ッツ」
朝から舌打ちしながら苛立ちをぶつけるようにカーテンを締める。
最近見なくなっていたと思っていたと思っていたが、油断した途端これだ。
通院が終了したのも関係しているのだろう。
「たぶん心の何処かで、やっと事件が終わったって思ったんだろうなぁ。
そんな筈ないのによ。
俺がやった事は、死ぬまで存在し続けるんだ」
自罰的発言。
心がひたすらに沈み続けて数分。
「はぁ、切り替えよう」
いつまでも、引きずられているようじゃダメだと、思い直してベットから起きて自室を出る。
起床時間は6時30分。
自室から出た俺は洗面台で身だしなみを整えて、キッチンに向かう。
俺は基本三食、自炊している。
昨日は、コンビニ飯にしてしまったが…………。
ーーーージュジュジュジュ
数分、経ち鮭と白米、味噌汁を用意する。
ここで、いつもなら昼飯の分も用意するのだが、あいにく今日は土曜日で午前授業までだ。
俺は鮭と白米と味噌汁を盛り、食卓まで持っていく。
適当にテレビをつけて、チャンネルを回す。
特にお気に入りの番組などはなく、その時々によって見る番組は異なる。
俺はパクパク朝飯を食いながら、適当にニュースを聞き流す。
「11月〜〜日の未明、五浄駅周辺の住宅街にて線路や碇ビルなどの器物破損を地元民が発見し、警察に連絡する事で発覚ーーー」
ポチッとテレビを消す。
食い終えた皿などを洗面台に持っていき、洗面台で身だしなみを再度チェックした後、学生鞄を持って家を出た。
朝の冷気で澄んだ住宅街を抜けて、駅まで向かった。
時刻は8時15分。
この時間ともなれば、駅はだいぶ混んでいる。
実は五浄市は結構活気ある街で、なんかのアニメの聖地になるくらいには有名だ。
よくわからない変なモニュメントを素通りして、停留所にいく。
停留所に着いた頃に、ちょうどバスが来た。
ラッキーなんて思いながら、バスに乗る。
そこから、20分ほど揺られて学校下の停留所に着く。
そこから、急勾配な坂を他の生徒と同じようにぞろぞろと登り、校舎にたどり着く。
中に入り教室の廊下を歩いていると、2年B組の教室からーー
「うおおおおおおお!!」
歓声が上がる。
「なんだなんだ?」
不思議に思いながら教室の扉を開けると、優奈さんが壇上でスマホから流行りのJ-POPを流しながら歌っていた。
教室に入ってきた俺に翔が気づく。
「何事だよ」
「なんか、放課後の練習がオフになったらしいぞ」
自分から、バスケ部に入ったとはいえ、練習がオフになるのは嬉しいのだろう。
帰宅部の俺にはわからないが。
「へ〜〜、それだけであんな盛り上がれるなんて楽しそうだな」
「お前なぁ、はぁ〜〜」
翔はなんだか知らないが、これ見よがしにため息を吐く。
「何だよ、なんかあんのかよ?」
俺はムッとしながら尋ねる。
「いや、別に。相変わらず言い方が悪すぎだろ」
うっ、痛いところをつかれた。
自分でも自覚しているのだが、俺は口が悪い。
根本から曲がっているからなのだろうが、それにしても口に出過ぎる。
出来るだけ気をつけているのだが、うまくいかん。
「うるせぇ。多様性だ。受け入れろ」
結果、放置している。
そんなふうに、翔とくっちゃべっているとーー
「ハロー菊間くん」
壇上で、優奈さんが踊りながら手を振ってくる。
その様は、もはや武道館のセンターで歌って踊るアイドルのようだった。
「YU⭐︎U⭐︎NA!」
俺もそれの汗水垂らすオタクのように手を振る。
「お前のそのテンション、キモいな」
隣で翔が引いていた。
………………。
………………………………。
4分30分。
優奈さんは歌い切ると、「ありがと〜う」なんて言いながら、席に座る俺のところまで来る。
「お疲れさま」
「ありがとう。どうだった、私の踊り」
「アイドルのラストライブくらい気合い入ってて感動した」
「あはは、なにそれ、感情移入しすぎでしょ、キモーい」
え。
ナチュラルに言われて、少し悲しい気分になる。
「でも、何で踊ってたの?」
「え?ええっと、うんと、何となく?」
「いや、そっちの方が意味わからないでしょ」
意味もなくガチで歌い出したら、意味不明だ。
普通に怖いだろ。
そんな風に、引いていたらーー
「はぁ、お前ってやつは」
と、バンと後頭部を叩かれる。
「ごめんね、近衛さん。こいつ鈍感だからさ、許してやってよ」
「は?何でお前が謝ってんだよ。意味わからん」
「うっさい!」
なんかすごい形相で怒鳴られた。
「いいよいいよ。私気にしてないから」
よく訳がわからないが、とりあえず俺を許してくれたらしい。
「ありがとう」
ここは形だけでも感謝しておくべきだろう。
そう言って、少しの時間俺らの間が無言になり。
「「「………………………………………………」」」
なんだか、気まずくて何か話題を提供しようと口を開くとーー
「そういーー」
「あのっ、ーー」
ちょうど被る。
「あっ、ごめん。菊間くん先いいよ」
いつもの明朗快活とした優奈さんと違う様に、「体調が悪いのかな?」なんて思いながら、先を促す。
「いいよ優奈さんが先に言って。俺のはガチで大した事じゃないから」
「いやっ、でもーー」
「いいから。俺、優奈さんの話の方が気になるし」
やはり変だ。
髪をモジモジ触ったり、少し頬が赤い。
風邪を引いてるんじゃないだろうか?
それに、翔のやつも後ろでガッツポーズをしている。意味が分からん。
「それじゃあ、分かった………………あの、放課後さぁ渋谷に遊びに行かない?………………クラスのみんなで」
「いいよ。行こうか」
優奈さんの誘いに了承する。
何故だか、背後で翔のやつがあちゃーと、頭に手をやっていた。
###############################################
そうして、すぐに放課後はやってくる。
午前授業の学校など、安牌なのだ。
我ら2年B組はぞろぞろと塊になってバスに乗り五浄駅まで行き、そして渋谷行きの電車に乗っている。
うちのクラスは他クラスに比べて、みんな仲がいいが、それでもグループというものは存在し、こういう移動中などはやはりそういうグループで固まっている。
わざわざ、そのグループから抜け出して、話すようなやつもいない。
唯一、翔のやつは遊撃部隊のように縦横無尽に駆け回り色んなグループで楽しそうの会話をしており、そして俺はぼっちになる。
まぁ、自分から友好的に話しかけにいけないやつが友達を作れる筈がないのだから、当然の結果なのだが。
優しい優奈さんは、そんな一人でポツンといる俺を気にしてか、隣で頻りに話しかけてくれる。
そのおかげで、何とか、気まずい思いをしなくて済んでいる。
優奈さん、まじ感謝だ。
俺たちは、街を見下ろしながら電車に乗る。
一秒一秒で移り変わる街の風景を見ながら、雑談していた。
「そういえばさぁ、朝のニュース見た?」
「朝のニュース?何それ?」
「五浄駅の住宅街の方で、凄い事故があったらしいんだ。
そのせいで、一部の道が封鎖されているらしいよ。
ほんと、困っちゃうよね」
優奈さんの言葉で思い出す。
そういえば、朝飯の時にそんなことを言っていたような気がする。
俺は朝はマジで頭が働いてないからなぁ。
「私、全国ネットで五浄の名前が出てたから驚いちゃった」
「へぇ〜〜。そんなに大事だったんだな」
俺はスマホをポケット取り出して、「五浄 事故」でしらべると、ネットニュースが出てくる。
それをタップして開くと、概ね優奈さんが言っていたことが書かれていた。
「なんか、思ったより被害が大きく広いんだな」
「ね。なんかお母さんも見たらしいんだけど、公園の遊具とか踏切が凄いことになってたらしいよ。
グニャグニャに曲がってたらしい。
これ見て、お母さんが撮ったヤツなんだけど」
そう言って、優奈さんがグチャグチャになった遊具の写真を見せてくれる。
そこには、線路が千切れあらぬ方向に曲がったものや、ジャングルジムが塊になったもの、てつぼうなんかが鉄の棒になっていたりした写真があった。
「えっぐ。これは怖いな。
でも、こんなのどうやってやったんだろ。
普通の機械とか人間じゃ無理だろ。宇宙人とかか?」
こんなことは軍事兵器とかでも無理だろう。
既存の機械では出来ないような事が起きている。
もちろん今の科学力ならやってやれない事はないのだろうが、それ専用の機械を作らなければならないような気がする。
遊具を曲げる機械?誰が何のために?
そんなことを考えるくらいなら、宇宙人とかの方がまだ現実味がある。
「そうなんだよ。だから、ネットの掲示板のオカルト板が、この五浄の件で賑わっているらしいよ」
「ふ〜〜ん」
そうか、こりゃ大変だ。
俺の街で何が起きているのやら、警察の方々には頑張ってもらいたいものだ。
「優奈さんの口から、何とか板って出てくるのちょっとヤダな」
「何でよ!いいじゃん、別に。私意外と見るんだよ」
『次は渋谷、渋谷です』
なんて、雑談しながら渋谷駅に到着した。
渋谷は、相変わらず人が多い!
こんな小さい場所に毎日何千人以上もの人が訪れている。
しかも土曜日とあって、ますます人が多い。
そんな中で、俺たちはハチ公前で固まる。
外国人観光客が写真を撮るために列をなしているのを尻目にーー
「それじゃあ行こう!」
優奈さんの掛け声と共に、センター街の方へ向かう。
視界にかの有名なスクランブル交差点が入る。
「………………」
朝の番組なんかで、必ずと言っていいほど登場してくる交差点。
たった、イチ交差点に死ぬほど多い人の数と無限に耳に入ってくる多種多様な言語。
鬱陶しくて仕方がない。
「ーーうっ」
唐突に頭痛がくる。
最初、人酔いかと思った。
しかし違う。
「またッ、か」
この痛さは、昨日突如始まった頭痛と同じ。
脳の中心、松果体からくる痛みだと明確に理解する。
頭を抑えながら、指の隙間から見る交差点。
そこにはスマホで撮影したりコスプレしたり色んな奴らがいる中で、一人の少女を見つける。
「あいつっ、まただ。また現れた」
痛みとともに俺の目の前に現れる少女。
少女は人々が行き交う雑踏の中で立ち止まり、物珍しそうに見回していた。
最初はちょっとした幻覚かと思っていたが違う。
あの少女はそこに「在る」ものだ。
少女はホワイトブロンドのサラサラな髪を一本の三つ編みにしていた。
身長は160センチほどで、華奢ながらも胸や臀部にはしっかりと栄養がいっていた。
しかし、そんな事はどうでもいい。
女の子が可愛いかは、男子高校生の俺にとって大切だが、それよりも重要な事だ。
「まるで、天使だ」
少女の可愛さの比喩ではなく、少女の背中には白き鳩のような翼が生えていた。
合計四枚。
肩甲骨と腰の部分に二対二翼の翼が生えていた。
だというのに一切、他の通行人は少女の事を気にかけてはいない。
これはつまりーー
「他の人には、見えていない………………ハハっ」
納得と共に乾いた笑いが漏れる。
ああ、そういうことね。神秘関連か。
そんなふうに考えていると、天使は動き出す。
「えっ、ああっ、こっちくる」
天使は俺の方向に向かってくる。
天使が善い者なのか悪者なのかは知らないが、一応いつでも戦えるように構えておく。
無意識に手を強く握りながら待つ。
そして、その時が来る。
「………………………ッツ」
「ーーーーーーーーーー」
緊張しながら、何も出来ずに立つ俺の横を天使は通り過ぎていった。
「っはぁハァアハァハァアハァ」
天使が去ったのを確認すると、
息を大きく吸う。
どうやら、無意識に息を止めていたようだ。
背中を流れる冷や汗が凄い。
それにしても急にあんなものを見るようになるとは。
「ああ〜〜もう、どうなってんだよ。俺の体はよぉ」
どうしようもない現実に毒付いているとーー
「菊間く〜〜ん!早く早く!赤信号に変わっちゃうよ!」
優奈さんの声で我に返る。
「ごめん!いま行く!」
そう言って、走り出した。
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