第13話 ドラゴンスレイヤーのロキ

 そして従者が謁見の間の鈍重な扉を開ける。静寂な雰囲気で緊張が周りを支配していた。比呂貴たちは国王の御前まで来てその場で立っている。

 そして従者のひとりが大声で発声する。

「一同、起立!」

 国王も含め、謁見の間にいた全員は席を立つ。

「まずはー、ドラゴンの犠牲者へ向けてー、黙とう!」

 従者は引き続き声を掛ける。国王も比呂貴たちも言葉に従い黙とうを捧げる。


「黙とうをやめて皆さまお座りください。」

 一同は椅子に座る。その後、さらに従者は続ける。

「国王よりお言葉を賜ります。」

 従者の言葉により、周りは一層緊張に包まれる。おそらく普段国王はあまり言葉を発しないのであろう。それくらい貴重な体験と言ったところか。

 一呼吸ついた後、国王は言葉を述べる。


「この度は、ドラゴンの襲撃により国と、多くの国民を救ってもらった。ここに感謝の意を伝えたい。

 そして、私に出来る限りの褒賞を与えたい。

 まずは、ドルクマンの冒険者と言うことで、私の名において皆を推薦した。証を受け取って欲しい。」


 そしてドルクマン王国の高官からプレートを授与される。ちなみに後で知ったことだが、この高官たちは国務総省長官と軍事司令長官だったという。

 比呂貴にはプラチナ級。他の三人はゴールド級を賜った。そして国務総省長官が言う。

「ロキ殿にはプラチナ級を進呈することになった。エンデル国王と各諸侯からの推薦かつ、わが国王も了承している。

 首都エンデルをドラゴンから救ったのであるからして、それ以上の実績はもはや魔王を打ち取るくらいしかあるまい。」

 ちなみにプレートの後見人の欄にはエンデル二五七世と刻まれていた。まさにエンデルの現国王だ。この名前が刻まれたプレートは世界にこの四枚だけだろう。


「あと、ゴールドプレートからは異名、二つ名を名乗ることを許可されておる。各々好きにするが良い。」

 別の長官が言った。

「うわぁ。二つ名とか確かにカッコいいけど、それって自分で決めたらちょー恥ずかしい奴じゃん。

 何かと勝手に決まっていくようなのが嬉しいなあ。」

 比呂貴が言う。


 それに対してレイムが答える。

「それならロキはもう決まりね。街のみんなは勇者とか言ってるけど、もうひとつ言っているものがあるわよ。」

「え? なになに? なんかカッコイイのあるの?」

「ドラゴンスレイヤーよ。」

「おおおぉ、かっこええやん! でも、ちょー、こっぱずかしい!」

 比呂貴は恥ずかしがってはいるがまんざらでもないようである。


「さて、冒険者プレートの授与は終了させていただく。

 ここからが本題である。ひとつは首都エンデルの市民権を与えたい。ロキ殿以外は名誉市民権となる。内容は市民権と同様である。過去にエルフの学者などに発行したことがあるものじゃ。受け取るが良い。

 もうひとつは私の名において皆に褒美を取らせたい。各々好きなものを言うが良い。望むのならかのドルクマンのように国の建設にも力を貸そう。」

 国王から言葉を賜った

「えっ? ホントに?」

 レイムが目を輝かせてはしゃぐ。


「これレイム、国王の御前ではしたないぞ。」

 ファテマのこの言葉にレイムは大人しくなる。さらにファテマは続ける。

「儂らはそこまで貢献しておらんよ。よって代表でロキが貰う報酬を儂の報酬とするよ。」

「わあ、なにそれ! お姉ちゃんカッコいい! お姉ちゃんがそういうんだったら私もそれでいいわよ。」

 アイリスも賛同する。それにレイムも続く。

「ぐぬぬ! そんな一番役に立ってない私はもう何も言えないわよ。」


「うーん。そう言われると困っちゃうな。」

 比呂貴はそう言いながら考え込んでしまう。

『そうなんだよ。困っちゃうんだよ。実のところこのドラゴン騒ぎの原因はオレたちなんだよな。

 なんか雰囲気的には『ドラゴンヒドイ奴』ってなってるからあえてその空気はそのままにさせて貰うけどね。だからあんまり調子に乗った報酬っていうのは良心の呵責に触っちゃう。

 かと言って、せっかくのこの祝勝ムードを何も無く完全に辞退しちゃうのも空気が読めない感じがするしな。

 うーーーん、悩ましい。』


 そうこうしているうちに、皆の視線が比呂貴に集まる。ちょっと焦る比呂貴。

『あっ、そうだ!

 引き続き冒険はする。今度はレッドドラゴンの住処に行ってオレたちにちょっかい出さないように直談判してやろう。大人のドラゴンなら喋れる奴もいるだろうしね。

 と言うことで、適当に旅の路銀を貰うことでこの場を収めよう。』


「それでは褒美についてですが、私たちは冒険者で、これからもこの世界をあちこち冒険するつもりです。なので、国の建設とかは辞退させて下さい。

 それで、しばらくの路銀があれば助かるかなあと。できれば帝国のお金も頂ければと思います。」

「なんと? それはなんとも欲の無い話よのう。しかし、そち達の望みと言うことであれば仕方があるまい。

 それでは、王国金貨一万と各国帝国の金貨五千枚ずつを取らせる。」


「なっ、なんだって!?」

『ちょっと待て。合計で二万枚だよな? それって四人で慎ましく暮らしたらおそらく十年くらい暮らせちゃうよな?』

 比呂貴があまりの金額に泡を吹きそうになる。

「わたしとしたことが………。

 エンデルを救ってくれた英雄に対して大変な失礼を働いた。いくらなんでもそれでは少なかろう。その十倍を渡そう。」


「ぐえええぇぇ。違うんですってば!

 合計二万枚でもめちゃくちゃ多いって言おうと思ったんです。はっきり言ってその十分の一でも構わないくらいです。」

「いやいや、何を言っておる。それでは私や国の威厳にも関わってしまう。」

「あああ、そんな言い方しちゃうんですね。それでしたらわかりました。いったん合計二万枚を頂きましょう。

 そして、そのうち半分は首都の復興に寄付することにします。それでよろしくお願いします。」


「なんとまあ、殊勝な心掛けじゃ。ロキ殿がそこまで言ってくれるのなら享受させてもらう。

 あと、旅立たれるまで数日はパレードなどの祭りを再開させたいと思っておる。どうかその祭りに参加を頼みたい。

 この祭りは本来、建国の祭りが中心だが、来年、いや、今からドラゴンスレイヤーのロキの功績を讃えた内容を含めることとしよう。街の復興と一緒に西の宿屋街近辺に記念碑を建てることとする。

 これはベアーテ・エンデル連合王国の国王たるエンデル二五七世の名に於いての命とする。」

 そう言って勅命が下ったのである。


『うわーー、マジかよ! めっちゃこっぱずかしいよ!』

 比呂貴は赤面しながら思っていた。



 そしてその後は呑めや食えやの大どんちゃん騒ぎだったり、宮廷で豪華で華麗なパーティーが開かれたり、パレードで街を馬車で走ったりとまさに祭り騒ぎであった。

 そして首都エンデルを離れる日がやってくる。

 国王や高官たちは城門まで見送ってくれている。そして四人で大きく一礼して城をあとにした。


 エンデル最後の日となるので、城門から首都の城壁までは歩いていくことにした。

 そして歩きながらファテマが比呂貴に尋ねる。

「いやー、こうしてロキともゆっくりしゃべるのは久々じゃのう。」

「うん。オレもファテマさんのモフモフ尻尾が恋しくて寂しかったよ。」

「ところで、国王との謁見の時に冒険に行くと言っておったが、どこか行く当てはあるのか?」

「フフフ。それ聞いちゃいます?」

 比呂貴はニヤニヤして答える。それにレイムがツッコミを入れる。

「ちょっと、そんなニヤニヤしてないで早く答えなさいよ。気持ち悪いわね!」


「そう言いながら、気持ち悪いのはレイムよ!

 ようやく騒がしいのから解放されたと思ってるのに、隙あらば抱きつこうとしないで。鬱陶しいから!」

 アイリスはレイムの抱きつき攻撃から華麗にかわしながら言う。

「うううぅ。アイリスちゃん。相変わらずキビシイ。私もアイリスちゃん成分が足りないんだよー。でも、これも久々ね。ホッとするわ。」


 恒例のレイムとアイリスの漫才を遮り比呂貴が言う。

「はいはーーーい。注目!

 実はですね、レッドドラゴンの住処に乗り込もうと思ってます。もう、こっちがビクビクして過ごすのも癪なんで攻め込んでやろうかと思ってね。

 まあ、話し合いでケリが付くのならそれはそれでオッケーだけど、ダメなら住処ごと消し炭にしてやればいいかなってね。」


「なっ!? そんなことを考えておったのか?」

 比呂貴の説明にファテマが答える。

「うん。まあ、今のオレならたぶんできるんじゃね? って思えるんですよね。まあ、油断せず行こうだけどね!」

「ロキのくせに生意気ね! でも、良い考えだと思うわ。」

 アイリスが答える。

「ふっ、ふん。私も協力してあげるんだからしっかりやりなさいよね!」

 レイムも謎のドヤ顔で言う。


「よし。じゃあレッドドラゴンの住処に行きますか!」

「おおおぉーーー!」

 そしてこの後、比呂貴たちは情報を集めるためにダンのところへ行き、レッドドラゴンの住処を探していくことになる。



 比呂貴はドラゴンの能力を手に入れてすでにチート級のドラゴンスレイヤーとなり一躍有名人になったが、さらに冒険や権謀術数を重ねて伝説となっていく。

 しかしそれはまた別のお話と言うことで。


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いい歳こいたおっさんだが念願叶って異世界に来ました!たまにドラゴンが来て大変だけど、それ以外はモッフモフの萌へぇの世界でした。 Tさん @T-SAN

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