第11話 比呂貴の大激闘。二体のレッドドラゴン

『さてっと、ここからがオレの本領発揮の大仕事だな。文字通りまさに命を懸けた大激闘ってセリフに嘘偽りは無いぞ。』

 結構余裕そうにしている比呂貴だが、実のところはもう開き直っている感じである。よってとても冷静に物事を判断している。

 そしていよいよかまいたちを発生させるために比呂貴は集中するのである。

 その後は首根っこらへんに手刀の構えをとり、



「いっけええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!」



 精一杯の声と共に一気に手を引くのである。



「キシャアアアアーーーーッ!」



 ドラゴンは悲痛な奇声を挙げる。そして激しく血しぶきが上がる。

「うわぁぁー!」

 比呂貴はその血をもろに被ってしまう。というよりも、あまりに急だったこともあり、ドラゴンの血を大量に飲んでしまった。

 一方ドラゴンはというと、がっつりと傷を負わすことは出来たがまだまだ浅いようだ。致命傷には至っていないようである。


「うわぁぁ。なんて固いんだよ。渾身の一撃だっていうのに。あと、血しぶきが急に来ちゃったから血をいっぱい飲んじゃったよ。大丈夫かな?

 ってか、そんなことを言ってる場合じゃない。マジでこれどうすんだよ。」

 その時である。比呂貴の身体に異変が起こる。

「ぐあああああ。なんなんだこれ。めっちゃ身体が熱い!

 ちょっとこれどうなってんだよ。ドラゴンの血を飲んじゃったからだよな。間違いないけどね。」

 と思ったが、一分も経たずにとりあえず異変は収まった。


「いやー、さっきのはなんだったんだ? いや、それよりも今はドラゴンだよ。」

 ドラゴンは比呂貴の攻撃により一度に大量の血を放出してしまったことが原因と推測されるがフラフラとしている。とりあえず追加での攻撃はすぐにはなさそうである。

 しかしながら、先ほど傷をつけた場所はもう血が止まっており、煙のようなものが発生して自己再生が始まっていた。


「うそでしょーーー!?

 もう、再生が始まってんじゃん。相変わらずなんてタフなんだよ。ドラゴンってやつは!

 ちきしょう。でも、ドラゴンもまだヒヨッててフラフラだ。今のうちにもう一発かまいたちをぶっ放してあげようじゃないか!」

 そして比呂貴はもう一度手刀の構えを取りドラゴンの首を切り落とすように振り落とす。



「ブウウウォォン!!」



 同じようにかまいたちを起こしたつもりの比呂貴だったが、今回は今までとは全く違い、とても鈍い重低音が発生して周りに響いたのである。

 威力が二倍になったとかそんなレベルではなく、ドラゴンの首は鋭利に吹き飛び、身体の方からは激しく血しぶきが吹き飛んでいた。そしてなんと地面数メートル抉れて(えぐれ)いるのである。

「なっ、なんじゃこりゃーーー!?」

 魔法を放った本人が一番驚いていた。


「う、嘘じゃろう?」

「え? どうしちゃったの?」

 ファテマとアイリスも一瞬戦闘を止めて比呂貴の方を見ていた。それはドラゴンも同じである。

 ドラゴンは激高するかと思いきや、なにやらヤバい雰囲気を察したのだろう。急に空を飛び逃げ出していった。


「ファテマさん!」

 比呂貴は大声で叫ぶ。

「わかった。」

 ファテマは比呂貴のところまで来た。

「こういうのは徹底的にやっておかないとまた変に仕返しとか来るかもしれんからな。ファテマさん。ドラゴンに追いつける?」

「儂を誰じゃと思っておる。ユニコーンのファテマ様よ。確かに直接退治できんかもしれんが、レッドドラゴンに追いつくくらいは造作も無いぞ!」

 そう言って比呂貴とアイリスを交代して、もう一体のドラゴンを追うことにした。


 ファテマの言葉に嘘は無い。とりあえず簡単にドラゴンに追いつくことが出来た。

「くそっ、ドラゴンに追いつけたがこれはこれでどうしたものかのう?」

 ファテマは空を駆けながら比呂貴に尋ねる。

「まさに空中カーチェイスって感じだ。

 うーん、出来ればドラゴンに乗っかりたいけどね。このスピードじゃ確かに難しいなあ。

 でも、オレの方でちょっといろいろとやってみる。ファテマさんはこのままドラゴンに並走していて!」

「ふむ。分かったぞ!」


 そして比呂貴は竜巻を起こしてドラゴンにぶつける。しかしドラゴンはそれを避けて引き続き逃げる。これは失敗のようである。

 その後、比呂貴は大き目の雹(ひょう)を大量に発生させてドラゴンにぶつけてみる。たくさんの雹がドラゴンにヒットする。ドラゴンは鬱陶(うっとう)しそうにしていて、一瞬飛行の速度が遅くなった。

 その隙を比呂貴は見逃さなかった。

「ファテマさんゴメンね!」


 急に立ち上がってファテマさんを蹴飛ばしてドラゴンに飛び移ったのである。

「流石オレだな。とりあえずドラゴンに乗っかるのは成功っと!

 ああ、急に蹴飛ばしちゃったからファテマさんバランス崩して堕ちて行っちゃったよ。後でもう一回ちゃんと謝っておこう。」

 比呂貴はボソッと声に出して言った。その後はどうするかドラゴンの上で検討していた。

『うーん、さてさてどうしたものか。さっきのかまいたちでも良いけど、どうやら飛ばすことも出来るようになっちゃったらしい。うまく制御できていないからどっか吹き飛ばしちゃう可能性もあるよなあ。


 よし、そんじゃあぶっつけ本番になっちゃうけど、もう一個を試してみようかな。

 空気中の元素を液体にして流し込むやつ。これも物理法則だから簡単に出来るはず。どの元素にしようかな。水素でも良いけど大気中に多く存在する方が良いかなあ。爆発もするからね。

 じゃあ酸素? いや、酸素は高濃度になると毒性が発生しちゃう。だったら窒素がいいかな。毒性も酸素よりマシだしそれに空気中にいっぱい存在するしね。

 よし、液体窒素を精製してやろう。液体窒素は確かマイナス二百度くらいだったな。』


 そして比呂貴はドラゴンの背中に乗りながら両手でボールを持つようなポーズを取り、そしてイメージを始めた。

 すると、大気が渦巻いてどんどんと液体が発生して零れ(こぼれ)ていき、それがそのままドラゴンに降りかかる。

 二,三分間ドラゴンは微妙な奇声を挙げていた。比呂貴はそれに構わずにさらに液体窒素を発生させていた。

 いつの間にやらドラゴンの微妙な奇声も無くなり静かになっていた。ドラゴンはすでに絶命しており飛んでいる姿のまま地面に向かって落ちて行く。


「うわっ。ヤバい! このままだと地面に激突だよ。」

 と言っていたが、激突寸前のところで、ドラゴンから飛び降りなんとか受け身を取って着地した。あちこちに擦り傷が出来てしまったが、まあそれくらいはしょうがない。

 一方、ドラゴンの方はというと、カチコチに凍っていることもあり、地面に激突した衝撃で粉々に粉砕されてしまった。


 比呂貴はそのまま寝っ転がりながら思う。

『とっ、とりあえずやったんだよな?

 うん。もちろん理論的に勝てるようにいろいろと検討して魔法も工夫はしてきたよ。だから倒せる自信も根拠もあった。

 しっかし、実際にファテマとドラゴンが戦っているのを目の当たりにしているオレとしては、ぶっちゃけ理屈通りにいくわけなかろうーー!

 とかも思ってたよ。


 でも、


 でもでも、それでも、』



「勝ったあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」



 思わず両手を挙げて足を突き出し、大声で叫んでしまったのである。


 その後すぐにファテマが比呂貴のところにやってきた。大声につられてきたのかもしれない。

「あっ、ファテマさん!」

「おおお、ロキよ。無事じゃったか! 急に蹴飛ばすからびっくりしたわい。」

 ユニコーンから人型になり、比呂貴の近くにきた。

「あ、そ、その件に関してましては大変申し訳ありません。」

 そう言って比呂貴は寝っ転がりから正座になり、深々と頭を下げて土下座で謝った。

「ハハハ。よいよい。で、ドラゴンはどうしたのじゃ? 周りに見当たらんようじゃが?」


「あ、ドラゴンならそこらへんに銀色なのが転がっているでしょ? それがそうだよ。銀色なのはカチコチに凍ってるからだよ。」

「なっ、なにぃぃぃぃ!? ドラゴンを凍らせたじゃと!?

 豪雪地域に行って猛吹雪でも凍ることは無いぞ? それをどうやって凍らせたんじゃ?」

 そう言ってファテマはドラゴンの破片に触ろうとする。


「あっ、それに触ったらダメ! 火傷しちゃう。」

 比呂貴の言葉に手を引っ込めるファテマ。

「や、火傷じゃと? 凍っておるのにか?」

「あ、いや、正確には凍傷になるってことなんだけどね。」

「む、難しいのう。

 ドラゴンはカチコチに凍っておるし、氷なのに触ったら火傷するというし………。」


「あ、いや、それを説明すると話が長くなっちゃうんだけど。ハハハ。

 ってかファテマさん。流石に遠くまで来ちゃったよね。みんなのところまで乗せて帰って欲しいんだけど。」

「ふむ。そんなのはお安い御用じゃ!」


 そしてファテマと比呂貴はみんなのところへ戻った。

「あああ、ロキ! 無事だったのね! 本当に良かったわ!」

 レイムはそう言って比呂貴とファテマに抱き着いた。

「ドラゴン二体を撃破するなんてホントに凄いわ! これは本当に尊敬するしかないわね。」

 アイリスも比呂貴をべた褒めする。

「ちょっと二人とも誉めすぎぃ!」

 比呂貴はニヤニヤしながら答えていた。


 比呂貴が戻る頃にはすでに首都エンデルから兵士や役人が多数来ており、レイムとアイリスにはすでに事情を聴かれているみたいだった。そして比呂貴の登場である。周りの人も比呂貴を囲み始めた。

 しかし、そんな周りの人に目もくれないで、

「あ、ごめん。みんなの顔を見たらホッとして急に眠気が………。もうダメ。寝る。」

 比呂貴はそう言ってその場で倒れて寝てしまったのである。


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