第5話 比呂貴の新魔法。でもただの大道芸らしい

そして休憩時間になった。馬車の運転手から一言あった。

「さて、今から休憩に入るわけだが、時間は三十分程度。馬の様子も見ながらになるが、そしてその後は休憩なしでぶっ続けでドルクマンまで行くからよろしく。」

「ちなみにドルクマンまであとどれくらい?」

運転手のアバウトな説明に対し、比呂貴が質問をする。

「そうだな。今日は道も馬も調子が良さそうだからね、あと、五時間以内で着けそうだよ。」


「ごっ、五時間!?

すでに四時間くらい乗ってると思うんだけど、さらに五時間か………。

そう考えると、ファテマさんってやっぱりめちゃ早いんだな。もっと遠い距離を同じ時間で移動してきたからな。」

「え? あんた、ファテマちゃんの背中に乗ったことあるの?」

「えっ、うん。まあね。

いやー、ファテマの運転も相当荒かったよ。初めて乗り物酔いしたしね………。」

「へえへえ。良かったじゃん! ユニコーンの背中なんて早々乗れるもんじゃないし、ましてや人族なんかではね!」


「いやー、ぶっちゃけそんなロマンチックなもんじゃなかった………。

そんなことよりも、さっき言ってたとっておきの魔法。馬車の中で言ったと思うんだけど、ドラゴンはおそらくまた来ると思うんだよね。それで一撃必殺の魔法を考えているんだよ。

いくつか考えていて、今んところ実用化の目途が付いて来たのはこれ。」

「え? ちょっと待って! ドラゴンってまた来るの?」

「うん。さっきも言ったじゃん!」

「言ってないわよ! 襲われたってところしか………。

ちょっと、すんごい魔法を使える高位の魔族ならともかく、私のような低級でろくな魔法も使えない魔族なんてドラゴンと相性最悪じゃん。っていうか、むしろ、格好のエサ!

あああ、ドラゴンに食べられるくらいならアイリスちゃんに浄化を………。」


「だから、浄化ネタはいいから!

もう、そうならないようにオレも頑張ることにしてるんじゃん。よく見ておけよ?」

そう言って比呂貴は近くにあったらそこそこ大き目の石を拾う。

その後、左手でその石を持ち、右手は手刀を作り構える。その後ブツブツと唱えながら一気にその手刀を引いた。


「スン!」

何か擦れるような音を発した後、石が綺麗に真っ二つになり、上部のはどこかに飛んで行った。


「えっ? 何々? どうしたのこれ?」

レイムは何が起こったのかわからないといった表情で飛んでいった先の石の方と、残った石の方を交互に見ていた。

比呂貴はドヤッとしている。


「フフフ。実際に石で試したのは初めてだったけどうまく行ったね!」

「え? これが魔法なの?」

「そそ。魔法だよ。風の魔法を応用して真空状態を作り出して一気に切り裂いたのである。これはもう空間を切り裂いたと言っても過言ではない。」

ドヤッとした感じで言った比呂貴だが、レイムは何を言ってるんだこいつのような表情でいた。

比呂貴はちょっと恥ずかしくなっていた。


「まっ、まあ、かまいたちの要領ですね。ホントはこの真空状態を飛ばせたら役に立つんだろうけどまだそこまではできんのよね。実際に接近しないと使えないのが弱点ね。」

「理屈がぜんぜんわからないので、どれだけスゴイのかもピンと来ないので。でもまあ、私にはできそうにない代物ね。

あと、なんか手品みたいだったわ! 大道芸もできるんじゃないかしら?」

意外と本気で言っているレイムである。

「くっ、かまいたちもレイムにしてみたらただの大道芸か………。

一応、これを洗練させてドラゴンと戦おうとしてるんだけどな。」



そして馬車に戻り五時間後、ようやくドルクマン王国に到着した。夜もかなり遅くなっている。

立派な城壁に囲まれているて門も豪勢だが、門番らしきものは見当たらないようである。

「これはこのまま入っちゃっても良いのかな?」

「うん。ドルクマンはあんまり入国に関しては何も管理してないみたいね。連合王国は真逆でめちゃくちゃ厳しいけどね。

首都なんかはホントに人族以外が入ろうとしたら数時間掛かるって話みたいよ。通行料もスゴイらしいし。」

「なるほど。」


そして二人はドルクマン王国の城門を潜る。

「まずは宿屋ね。こっちよ。」

レイムが案内してくれる。こういう時に知っている人がいるのは本当に助かる。

「うわぁ。懐かしいわね。一応、私が初めてドルクマンに来た時に泊まった宿屋よ。値段と部屋の豪華さがちょうどいい感じの宿屋よ!」

そして二人は宿に入りフロントに向かう。


「いらっしゃいませ。おふたり様ですか?」

「そうです。」

フロントの女性の問いに比呂貴が答える。

「わぁ。ちょうど良かったです。今、ちょうどダブルのお部屋しか空いて無くて。お客様は夫婦か、カップルでしょう?」

「え? あ、普通にシングルを二部屋借りたいんですが。」

「そうなんですか? 今、大閑散期でシングルの部屋はすべて休業で次の繁忙期のために改装を行っているんです。

ちなみにツインのお部屋は満室なんです………。」


「そうですか。なら………。」

比呂貴が断ろうとした時に、レイムが話に割ってきた。

「ああああ、大丈夫です! そのダブルの部屋で大丈夫です!」

「なっ、おまえ! 流石にダブルはまずいだろう?」

「もう、ダーリンったら何意識しちゃってるのよ。私たちもう付き合ってるんだからダブルでも問題ないでしょ!」

レイムはそう言って手続きを済ませてしまった。


そして部屋に入った二人。思ったよりは広く、ベットがドンとあり、横にはテーブルもある。そして比呂貴がボソッと言う。

「まあ、思ったよりは普通の部屋だな。」

「当たり前よ。ちゃんとした宿屋よ。もう、何を考えてるんだか。」

「何を考えてるってのはお前の方だよ。オレと一緒で良いんかよ? 一応、オレも男だぜ?」

「良いも悪いも無いじゃない!

二人ともあんまりお金無いんだし節約しなきゃ。それに私はある程度近くにあんたがいないと魔力貰えないじゃん!

それともなに? あんたは私を襲っちゃうわけ?

まあ、可愛くて魅力満載な私が近くにいるんだから、ちょっとくらいは変なことしても仕方がないわね。」

「いや、それは無い!

ファテマとファテマの尻尾以外はせいぜいアイリスくらいしか興味ない!」


「………。

それはそれでどうかと思うわよ。まだ、私を襲ってくれてた方が健全だと思うけどね………。」

レイムは虫を見る目で比呂貴を見る。そんなレイムを気にすることはなくシレッと比呂貴は言う。

「まっ、レイムが良いなら良いかな。オレもなんかするわけでも無いしね。

それよか、一日中馬車に乗っていて疲れちゃったよ。あんなにも辛いなんて思わなかったな。まあ、ファテマさんよかは百万倍マシだったけど。

ってことでレイム。マッサージしてよ。得意なんでしょ? オレから魔力を吸うお代としてやってよ。」


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