第8話 これからのことを。でもその前にケリを着けなきゃね!

「自分はせっかく異世界に来たんで冒険者とかやってみたい! あと、前の世界での経験を生かして商売もやってみたいと思うし。

 でも、異世界まで来てガツガツ働きたくないという気持ちもあったりして………。

 せっかく可愛い女の子とこうして仲良くなれたし、のんびりスローライフも良いかなあなんてね。」

「なんじゃお主。言っておることが滅茶苦茶ではないか。呆れてモノも言えん!」

「アハハ。オレもそう思う。」


「ところで、アイリはどうかのう?」

「わっ、私は………。」

 突然ファテマに話を振られたアイリ。ちょっとキョドっている。しかし話を続ける。

「えっと、基本的に何かやりたいとか無いからお姉ちゃんについていくよ。でも、王国に行くのだけは絶対に嫌!

 お姉ちゃんが王国に行くんだったら私はここで待ってるよ。」


「う、うーん。それは困ったな。せっかくアイリと一緒に旅をしているというのに、ドラゴン騒ぎとかでぜんぜんゆっくりとできておらんし、やっとゆっくりとできると思っておったんじゃかな。」

「そんなこと言ったら私もそうだよ。ずっとお姉ちゃんと離れて暮らしていて、お姉ちゃんと旅ができるようになったんだよ?」


『なっ、なんだ!?

 まあ、脈絡の掴めない話は二人の会話だししょうがないとしても、このお互いに微妙に遠慮しがちな感じは。違和感の塊でむずがゆいよー!

 ファテマさん。ぜんぜんキャラ変わってるやん!?』


「え、えっと、ちょっと二人の話がよくわからないんだけど。

 王国に行く件に関しては、アイリスが人間嫌いなのは充分に分かってるつもりだから。

 別に向こうで住むとかの話じゃないからね。ちょっと文字の教材と仕事の情報をゲットするだけだからね。

 長くても三日程度で戻ってくるから、ファテマとアイリスの二人で待っててもらって良いんだよ?」


「しかし、儂も王国には興味があるから行ってみたい気持ちはあるんじゃよ。じゃからといって、例え三日とはいえ、これ以上アイリをひとりにさせたくはない。

 出来れば一緒に来てほしいところじゃが、しかし、アイリの人族嫌いはわかるしな。」

「お姉ちゃんが、どうしても行きたいなら、三日くらいなら付いていっても良いかな?」

「ほ、本当か?

 あ、いやでも、今までもかなり我慢させてきたからな。三日とはいえ、さらに我慢させるというのはお姉ちゃんとして申し訳ない。

 ここは儂が折れなければな。お姉ちゃんとして!」


「べっ、別にいいよ。お姉ちゃんがそこまで我慢しなくても。それにたったの三日程度じゃん。

 最初に言った通りで、私はここにいるからお姉ちゃんは王国に行ってきなよ。お姉ちゃんかなり王国に憧れてたじゃん!

 その気持ちまで私は邪魔したくないし、お姉ちゃんのお荷物になりたくないもん。」

「いやいや、いいんじゃよ。

 何というか、アイリスはもっとわがままになってもええんじゃ。儂にだけならもっと迷惑を掛けて欲しいんじゃ。」


『ちょっ! さっきからこの歯切れの悪い会話。普段からこうなのかよ?

 確かにブランクはあるような会話だったけど、それにしてもよそよそしすぎる。

 多少のブランクでもファテマの性格からしたらもっとサクサクとサバサバと人見知りなんてしないと思うんだけどなあ。

 あと、ドラゴンの時にもアイリスのことが話題によく出てたしすごい好きなはずだしね。

 ちょっと煽ってみるかな。』

比呂貴は二人の会話を聞きながら思う。


「はいはーーい。ちょっといいですかねえ。お二人さん。いくら何でもよそよそしすぎないだろうかね?

 なんでそんな微妙に遠慮しがちなんですか?

 ファテマならもっとサバサバとしゃべってるよね? 人見知りなんてキャラじゃないでしょう?」

「何を言っておる。確かにドラゴンからは一緒に逃げてきたんじゃが、それ以前はずっと離れて暮らしておったんじゃ。

 なかなかにそうもいかんじゃろうて。」

比呂貴の言葉にファテマが答える。


「えええ!?

 確かに久々なのかもしれないけど、でも、だからってファテマの性格的にそんな人見知りなんてしないでしょう?

 なんかすごい距離感を感じるんだけど。ドラゴンの時だってあんなにアイリスのことしゃべってたじゃん。めっちゃ好きなように思えるんだけどね?」

「えっ? 本当なのお姉ちゃん!?」

 比呂貴の言葉にアイリスが目をキラッと輝かせて反応した。


「なっ!

 確かにアイリのことは好きじゃが、だからと言って、そんな簡単なもんじゃないんじゃよ。」

「ほほう。何やら他にも原因があるっていうことだね?」

 ファテマの言葉に比呂貴が答える。

「あ、お姉ちゃんやっぱり昔のことを気にしてるんだね。確かに私も気にしてないと言ったらウソになるんだけどね………。」

 アイリスも複雑そうな表情をしていた。


「ふう。なるほど。オレの話はいったん後回しだ!

 まずは二人の何やら気持ち悪いくらい遠慮がちになっちゃう、その距離感の原因を取り除こうか?

 今後も一緒にいるわけだし、こういうのは早いうちにぶつかって解決しとくに限るよ。後になればなるほどごじらせが酷くなるだけだ。」

 比呂貴の言葉にふたりは目を合わせる。比呂貴はさらに話を続ける。


「まあ、オレの経験上、こじらせ方は酷くなっても原因なんてぜんぜん大したことなんてないんだから。

 ほれほれ。二人ともゲロッちゃえよ!」

 さらに比呂貴は二人を煽っていく。そんな比呂貴にファテマが答える。


「ふむ。ロキに言われてっていうのは癪(しゃく)に障るが、でもまあ、良い機会じゃて。

 おそらくロキの言うところの儂の方が『こじらせ』ておるとわかっておるから、儂から話をするかのう。

 昔話を含めて聞くが良い。」

 ファテマはそう言って一瞬アイリスの方を見る。アイリスも真剣な表情でファテマを見返す。

「これはまだアイリスが生まれる前の話じゃ。儂もまだまだ小さいころの話。」


『あ、あれ?

 なんか想像以上にシリアス展開に突入?

 しかもこれ、俗にいう『回想シーン』とか『過去編』とかいうやつだよね?

 グヘェ! しばらくオレの出番なし?


 ちなみにファテマさんの昔話でファテマさんがしゃべっているはずなのに、物語になっているのはなぜ? これ絶対にファテマさんの知らない話だよね? みたいな突っ込みは止めてね!

 あああ、そうこう言っているうちに回想シーンが………。』


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