第7話 さて、ケーキですよ。召し上がれ!
「大変長らくお待たせしました。さあ召し上がれ!」
四分の一に切られたケーキをそれぞれ小皿に分けられて、ファテマとアイリスの前に並べられる。
そして二人はフォークを持ち、さらにちょこっと切り取り口へ運ぶ。
「ふぉおおおぉーーー!」
まずはファテマが反応する。フワッフワの尻尾を激しく左右に振っている。これを見ただけでも比呂貴はニヤリとする。
「これはうまいではないか! フワッフワでクリームがとても甘いぞ!
確かにロキがフワフワを好きな理由がわかった気がする。ハハハ!
フルーツのところも食べるぞ。
おおおぉ!
甘いのと酸っぱいのが良く合うではないか! おおおぉ!」
『ファテマの反応はまずまずだな。ってか予想通り過ぎて逆に怖いというか。
で、肝心のアイリスの反応は?』
アイリスは可愛らしくもぐもぐしておりちょうどケーキを飲み込んでいた。そしてアイリスは思う。
『うっ。確かに美味しい。これは認めざるを得ないな。こんな鍋でケーキが作れるんだ………。』
一瞬アイリスのクリクリの大きな瞳が輝く。それを比呂貴は見逃すわけもなく、心の中でガッツポーズを取った。
そして色々と考え込んでいるアイリスに対してファテマは嬉々としながら言う。
「どうじゃ? うまいであろう?
ロキはなかなか使える奴なんじゃよ。置いてやっても良いかのう?」
ファテマの言葉にアイリスはさらに考え込む。
『うーん。確かにケーキは美味しかったけど、でもぶっちゃけそんなことどうでも良いんだけどなあ。
人族は嫌いだけど、でもお姉ちゃんがここまで喜んでるのは私も嬉しいし………。』
「うん。わかったよ。お姉ちゃんがそこまで言うんだったら良いと思う。」
アイリスは一言残し、ケーキもそのままにして部屋に戻っていった。その後ろ姿に元気はなくしょんぼりとしていた。
「おおお! ロキ、やったではないか!
アイリを説得するとは、ホントにお主、凄いではないか!」
ケーキのテンションも残っているのかとてもはしゃぐファテマ。
「うっ、うん。そうだね………。」
テンションの高いファテマとは対照的に、比呂貴としてはアイリスの反応は納得のいくものではなかったので、釈然とせず素直に喜べる状態では無かった。
『ファテマはそうは言うけど、あんなしょんぼりした反応されると絶対に納得はしていないよね?
あれをよっしゃーやったでぇ! って素直に喜べるほど、オレの人生イージーモードではなかったんだよ。
うーん。確かにアイリスが本人として素直に認めるのは考えてなかったけど、ファテマさんのあの喜びようは予想通りで、そのファテマを見たアイリスが、
もう、お姉ちゃんがそんなに喜んでたら断れないじゃん!
って、笑顔になりつつもちょっと呆れる感じの奴を期待してたんだが………。』
比呂貴はそんな複雑な心境を抱えながらも残りのケーキをみんなで美味しく頂き、お菓子パーティーは終了となった。
そして翌日、比呂貴はファテマたちの部屋に来ていた。
「えっと、とりあえず一緒にいれる許可を頂きました。ドラゴンの心配も当面は無くなったので、それで今日はこれからについて相談をしたいと思ってます。」
比呂貴はまるで社長・役員勢揃いのお堅い会議での議事進行をしているかのような言い回しであった。それもそのはず、アイリスの不愉快オーラが半端なく比呂貴に突き刺さってくるからである。
『うっ、うーん。やっぱりアイリスってば、この反応、ぜんぜん納得してないじゃん!
認めたくは無かったのでずっと考えないようにしてたんだけど、これって原因はやっぱり『オレ』だよな………。
くそう。オレは子供が大好きで、さらに子供には好かれる体質だと思っていたのにこれはちょっと辛いよ!
しかもアイリスってファテマとはまたちょっと違うタイプのとても可愛い子なのに!
まあ、人間っていうのは原因のひとつだと思うけど、慎重に原因を探っていって少しでも早く信頼を勝ち取らないとな。』
比呂貴はそんな事を思いつつも話を進める。
「話の前にずっと気になってたことがひとつあるんだけど、ファテマのそのお金はどこから湧いて出てくるのよ?」
比呂貴が質問する
「おう。これか? これはな、」
「ちょっとお姉ちゃん!」
回答しようとしたファテマに対し、アイリスは一度話を遮る。
「まあ、アイリよ。心配なのはわかるが、ロキに対して下手に隠し事しててもしょうがないじゃろうて。」
「………。」
ファテマはアイリスをそっと諫める(いさめる)。
アイリスは複雑な表情をしていたが、それ以上は何も言わなかった。
「実はこれじゃよ。」
ファテマはそう言って部屋のクローゼットからリュックを取り出して中を見せてくれた。
「おおおぉ!」
比呂貴は思わず声を漏らす。中にはどっさりと宝石が原石の状態やしっかりと加工されているものもある。また、比呂貴も貰ったのと同じ硬貨がたくさん入っていた。
「これだけあれば旅の路銀に当面は困らんじゃろうて。まあ、無くなっても村に帰ればこれの数十倍の宝石があるしな。
まあ、ドラゴンに荒らされてなかったらになるがのう。おそらくエルフ側にもあるじゃろう?
村として人族の魔法薬はユニコーンにとっても重要な品じゃからな。手に入れるために宝石類を集めておったんじゃよ。
まあしかし、金目のものが無くても、そもそもとして人族に関わっていかなくとも森に行けば食べ物もあるから困らんよ。」
『ああ、なるほど。ダンが言いかけてたリュックがっていうのはこれのことか!?
確かにすごいわ。それにこんなこと誰それとしゃべってたらコンプラの意識を疑うしかなくなるわな。』
比呂貴は心で思っていた。
「なっ、なるほど。ファテマさんがお金持ちなのはよくわかりました。
しかし、これは本当に信頼できる人だけに教えるようにしてくださいね。原則は誰にもしゃべらない方が良いですね。
悪い大人はたくさんいますからね。」
変に丁寧な言葉になる比呂貴であった。そして引き続き話を続ける。
「で、話を続けたいんだけど、と言いつつ、うーん、この宝石を見せつけられた後に言うのは気が引けるんだけど、ひとつは仕事について。
あと、文字の勉強をしたいから王国に行って資料を買いたいってことなんだけど。」
「王国に行くのは良いと思うぞ。儂も実のところ村からあまり出たことが無くて、もちろん人族の国には行ったことは無いしとても興味があるぞ。
仕事は………。
どうじゃろうか。ロキとしては何かやりたいことでもあるのかのう?」
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