第5話 じゃあ、ダンの知り合いのお店に、って、そのモフモフは?

『さて、これからどうするかな?

 日はだいぶ高くなってきているが、まだお昼を食べるにはちょっと早いよな。それに話を聞くにはちょっと時間をずらしたほうが良いよな。

 じゃあ、まずは市場に行ってみるか。』


 そして比呂貴はダンが言った通り宿を出て右のほうを歩いて行った。しばらくは宿屋街で宿が並んでいる。たまに外で働いているスタッフらしき人もいるがすべて亜人かモンスターだった。


『確かにここは亜人が中心の街なんだなあ。

 あと、結構歩いているけど街の端が見えてこないから、かなり大きな街なんだろうな。東京でも新宿だけの広さだけじゃ足りない感じかな?』


 そうこうしているうちにかなり大きな広場に出た。テント上の小さい店が見えてるだけで二十件ほど見えた。食材や日用品が売られているようである。


『ここも店のスタッフや客も亜人やモンスターばっかりだな。人間はほとんどいない。ってことは人間の方が優位性高いのかな? 経済的に支配されてるって感じるな。

 うーん、まだこれだけじゃ情報が足りないが、あながち間違いでもないな。』

 そう思いながら比呂貴はお店をチラチラ見ながら一通り見て回る。


『うむ。食材はだいたいわかった。けど、わからなかったのは文字だよ。ダンに文字について聞くの忘れてたなあ。異世界の世界観に夢中になっちゃってすっかり頭から抜けてた。まあ、これはダンに聞くよりも王国かエルフの国に行って教材を買ったほうが早いかな?


 まあ、ファテマたちが王国に行くかどうかはわからんのだけど………。

 さて、今買うのは荷物にもなるし、それにダンの知り合いの店でなんか情報が出てくるかもしれんから後にしよう。先にダンの知り合いの店に行くかな。』

 そして比呂貴はチラシに載っている店へ向かう。


『くっ。めっちゃ迷った。オレ、もともと方向音痴なんだよな。さらに土地勘が無いところでこんなチラシに載ってるレベルの地図を見たところで………。

 でもまあ、なんとか着いたよ。』


「カラン。コロン。」

 比呂貴がドアを開けると雰囲気のある鈴がなる。


「ん? ボリューミーなモッフモフ尻尾とケモミミが?

 あれ? ファテマ? どうして?」

 ドアを開けたらファテマとその向こうの席にアイリスが座って食事をしていた。


「どうしたもあるか!

 儂が寝ておる間に勝手に出掛けよってからに。買い物するなら儂も連れて行かんか!」

「どうしてっていうのは、なぜこの場所にって意味だったんだけど、あ、そうかダンの仕業だな。まあ、しょうがないか。」

 あと、一応ファテマの部屋には行ったが、アイリスが話を通してくれなかったということを言いたかったが、これは言ったところで誰もハッピーにならないので比呂貴の中に飲み込んだ。

 アイリスはチラッと比呂貴を一瞥してそのまま食事に戻った。相変わらず比呂貴に厳しかった。


「ほれ。なにをボーっと突っ立ておる。早く座って注文でもしたらどうじゃ?

 亜人が作る料理じゃが、これもなかなかいけるぞ。」

「ファテマってばすっかり料理にハマっちゃってるね。でもまあ、それのほうがオレも胃袋を掴みやすいってもんだけどさ。

 じゃあ、すいません。ランチのセットってあります?

 っていうか、実は字がわからなくてどれがどれだかって状態なんです。」

「なんと!? ロキは字が読めんかったのか? あんな難しい魔法はすんなりできたのに?」

「魔法と文字は関係ないよ。ファテマ………。」


「ふーん。そういうもんなのか?

 まあ、字が読めんなら早く言ってくれれば良かったものを。ちなみに、メニューはA定食からC定食って書いてある。

 Aはサンドイッチ、Bは鶏肉、Cは豚肉となっておる。」


「じゃあ、Bで!

 この世界に来てからまだちゃんとした料理でのお肉は食ってなかったからな。」

「少々お待ちください。」

 女性の声で返事が聞こえた。

「なんと女性でしたか?」

 比呂貴はそう言ってカウンターを見た。カウンターではニッコリと亜人の女性が微笑んで作業を始めた。


 程なくして料理が出てきた。鶏肉のスープである。早速比呂貴はスプーンですくって口へ運ぶ。

「とてもシンプルで優しい味。うーん。癒されるなあ。すごくおいしいじゃないか!

 誰だよ。この辺の料理は期待しちゃダメだって言ったのは!」

 そして比呂貴の食事が終わる頃に店主と思われる女性の亜人がカウンターからやってきた。客もいつの間にか比呂貴とファテマとアイリスの三人になっていた。


「あなたがロキさんですか?」

 先ほどの挨拶もそうだったが、とても優しい癒し系の声である。そして物腰も柔らかでとても好感度が高い亜人である。

「はい。そうですけど、なんでオレのことを知ってるんですか?」

「先ほどダンのところのスタッフさんがお昼を食べに来ていて教えてくれたんですよ。それで私に話があるとか?

 私もこれから少し休憩するのでその時間でしたらお伺いしますよ。」


「なるほど。そうでしたか。それなら話は早いですね。

 実は、これからそこにいるユニコーンのお嬢さん二人に料理を振る舞うことになっているんですが、この辺で良い食材や調味料を手に入れるにはどうしたら良いかの相談をしたかったんです。

 一応、ダンには市場を教えて貰って先ほどそちらは下見に行ったんですけどね。」


「なるほど。そういうことですね。

 あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。大変失礼致しました。私はシューと言います。この店の店長をしております。と言っても基本的に一人切りで回してますけどね。


 話を最初に戻しますが、あんまり参考にはならないかもしれませんね。私のところの食材は各王国から直接仕入れているんです。向こうからしたら本国では使用しない少し品質の悪いものを下しているのかもしれませんが、それでもこの辺で手に入れるよりもかなり高品質ですから、手続きは非常に面倒なのですが、それでもやる価値はあります。

 まあ、調味料とお酒はこの辺で買いますけどね。あっ、調味料と食器類に関してはお休みの日に王国に行った時も買って帰る時がありますね。」


「うーん。そういうことか。どおりで美味しいと思いましたよ。

 お肉は下処理をすればある程度保存可能でしょうけど、野菜はやっぱり新鮮な方が断然美味しいですからね。

 そういや小麦粉とかの粉製品は手に入ります?」

「ええ。それなら市場で売っていると思いますよ。あ、ただ、粉ひきも王国で行っているものが良いと思います。やっぱり王国の技術は高いですからね。

 パンとかお考えですか?」


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