第8話 比呂貴は魔法の練習をするそうです。

 少し冷たい風が流れる。日が暮れようとしており風も冷えてきたようである。その風が比呂貴の頬に吹いた

「んっ!? ちょっと寝ていたかな? いや、ちょっとじゃないな。だいぶ日が暮れようとしているし………。」

 やれやれと思った比呂貴だがその後隣を見る。

『ぐっ。ファテマが寝ている! それにしてもなんて可愛いんだぁ!

 可愛い顔。愛らしいケモミミ。それになんといってもモッフモフの


 尻尾!!!


 はっ! これはモフるチャンスでは? あ、いやでも流石に寝てるところをモフモフして起きたらめっちゃ怒られるよね?

 あああ、でもでもやっぱりモフりたぁぁい!』

 と犯罪的で邪まな妄想をしていると、それを察したのかファテマも気が付いたようである。


「ん? 寝ておったか。」

 まだちょっと寝ぼけているファテマ。その姿もとても可愛い!

「あ、気が付いたね!」

 先ほどの下衆な妄想を一気に吹き飛ばし笑顔で答える比呂貴。しかし若干顔が引きつっているようである。


「なっ、ロキよ。もしかして可愛い儂の寝込みを襲ったりしとらんじゃろうな?」

「なに言ってるのぉぉ。」

「いや、お主の顔が下衆の顔になっておったのでな。」

「そ、そんなことするわけないじゃないですかぁ! 可愛いファテマさんを見ていただけです。」

「本当かのう? まあ、良しとするか。」

「でっ、これからどうするの?」

 必死で話題を変えようとする比呂貴であった。


「それはもちろん妹のところへ帰るぞ。そうそうロキ。お主はどうするのじゃ?」

「えっ? どうするのってそんな冷たい言い方………。一緒に連れて行ってくれないの? 一緒にドラゴン退けた仲じゃん!」

 まさかのファテマの言葉に半べそになって答える比呂貴であった。


「ハハハ。すまんのう。

 とりあえず妹のいるところまでは連れて行ってやる。しかし、一緒に居ても良いかどうかは妹次第だ。妹が良いと言えば良いぞ!

 儂的にはロキの作る料理は気になっておるでのう。」

「わっ、わかったよ。オレ頑張るから!」

「うむ。ぜひとも試練に打ち勝ってくれ!

 しかし、妹は一筋縄ではいかんぞ。相当な人見知りじゃからな。」

「うっ。が、頑張るよ。オレはこれでも子供には好かれる体質なんで………。

 じゃあどうする? すぐに出発する? ってもうかなり暗いけど?」


「うーん。流石に今日は無理じゃ。ちょっと寝たので体力は少し回復したが魔力がぜんぜんダメじゃ。まあ火を起こすくらいなら出来るがな。

 でも幸いこの土地は高い魔力が流れておるみたいじゃし、もう一日寝ればあらかた回復するじゃろう。」

「なるほど。わかったよファテマ!

 でも魔力に関してだけど、オレにもなんか今までに無いような感覚があるんだよね。あ、魔法を教えてよ! この魔力が高い場所ならうってつけなんじゃないかな?」


「それは別に構わんが、しかし、人族とそれ以外ではそもそも魔法を発動させる動機が違うのじゃ。下手に儂に教えをこうてしまっては、本来の人族の魔法を使う時に邪魔になるかもしれんぞ?」

「え? そんなに違うものなの?」

「おそらく、な。

 儂も昔に人族の魔法の本を読んだだけなんで詳しいことはわからんのじゃが、人族とそれ以外で大きく違うのは詠唱じゃ。まず大きな違いとして人族は呪文を唱えるところが違う。」


「え? 呪文ってファテマもドラゴンと戦っているときに言ってたやん? めっちゃカッコよかったよ!」

「あんなもんは呪文でもなんでもないわい!

 単に想像しやすくするために言っておるだけじゃ。なので人族以外は自分の属性に従って想像して魔力を放出するんじゃ。

 それに引き換え、人族は自然の理を呪文に置き換えて魔法を放つんじゃ。じゃから人族は本来の属性は地と光か闇の二種類しか持たんのじゃが、属性以外の魔法も操ることができるみたいじゃの。まあ、ここらへんが儂にもようわからんところなのじゃがな。」


「ああ、自然の理って物理法則とかかな? なら、ファテマの言っていることはしっくりくるね。

 でも、だとしたらオレのいた世界は化学や物理で多くのことを証明しているから、その知識があれば、あとは魔力でなんでもできちゃうってことだよな?

 あれ? これってチートスキル誕生じゃね?

 ………、あ、ダメだ。オレ、化学と物理はそこまで得意じゃなかったわ。ちーん!」


「なにをぶつくさ言っておる。わかったであろう? 儂からは下手に魔法は教わらん方が良いじゃろうて。」

「いや、大丈夫だよ。ファテマ!

 ファテマの言ったことが本当ならイメージの魔法も呪文も結局は一緒だからね。単に方法論の違い。イメージの魔法は恐らく基礎なだけだよ。ファテマだって恐らく呪文を唱えればその魔法は使えると思うよ。」


「ほうほう。それは興味深いな。確かにロキの言う通りかもしれん。人族に次いで知能の高いエルフ族がおるんじゃが、あいつらの中には呪文を唱える輩もおるからな。

 ただ、あいつらはどこまで自然の理を理解しておるかは不明じゃがな。」

「ハハハ。

 ってことで呪文はまた今度ゆっくり勉強するとして、今はファテマに魔法を使うコツを教えてよ。」

「うむ。よかろう。じゃがしかし、先に飯にせんかのう?

 すっかり周りも暗くなっておるし、そろそろ腹も減ってきたんじゃがな。」


「ああ、待ってファテマ!

 先にコツだけ教えてよ。うまく行ったら面白いものが見れるかもよ?」

「へっ? なんじゃ?

 確かにロキはことごとく妙案を繰り広げておるからのう。しょうがない。ロキの言う通りにするかのう。」


「ちなみに地の魔法って何があるの?」

「ふむ。地はもちろん大地のことじゃ。地震を起こしたり、植物を操ったり、後は地の魔力を借りて自身の体力を回復させたりといったところかな?」

「うっ。どれも魔法を試すのとしては分かりにくいね………。」

「別に植物の成長を促すこともできるじゃろうて?」

「あ、こんなオレの個人的練習のために植物を犠牲にするのは忍びないっていうか………。」


「なんじゃ? 妙なところで律儀じゃのう。それじゃあ、儂もやっておったのじゃが、岩を砕くっていうのはどうじゃ?

 幸いここは河原なんで石はいっぱいあるからな。」

「おおおぉ! それは良いですね。流石はファテマさん!」

 そして比呂貴は両手で持ち上げるほどのそこそこ大きな石を拾い上げ、何やら奇声を挙げた。



「ふぉぉぉぉ!!!」


『………。』

 特に何も起きない。


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