第10話 奪われたモノ


「あ、戻ってきたぞ!」

 見覚えのあるドワーフのような兵隊が僕とマリーさんに駆け寄ってくる。

「コラ!」

 近づくなりいきなり僕の頭をゲンコツで叩いた。

「この森がどんなに危険かわかってねぇのか、まったく!」

 その怒号にマリーさんも目を覚ましたようで、僕の背中から地面に足を付けた。

「あんたがこの子の保護者かい?」

 ドワーフがマリーさんに問う。

 マリーさんは寝起きのように一度伸びをして、首を右と左にそれぞれ一周ずつ回した。

「そうだ、こいつは私の保護者だ。この度は申し訳なかった。こいつには家に帰って厳しく罰を与えておこう」

 そういうと今度は僕をひょいっと抱えて、そのまま関所を通り抜けた。

「ま、マリーさん……」

「謝罪とか感謝とかは後にしろ。ひとまず家に帰るぞ」

 やはり、ドワーフたちと同じようにマリーさんも怒っているようで、僕は大人しく口を閉じていた。そして家につき、僕は地面に降ろされる。

 部屋の明かりを灯すと同時にマリーさんはなにやら真剣な面持ちで椅子に腰かけた。

「コーギィ、一つ聞きたいことがある」

 お説教だなと思い、大人しく椅子に座る。魔法の力でそれぞれのコーヒーがすぐに用意された。

「ほ、ほんとうにごめんなさい!」

「ん?」

 先に謝ってみたものの、マリーさんの反応はあまりなく、検討違いのような顔をしている。

「も、森にいったことを怒っているのかと……」

「あぁ、まぁ、それもあるが、今はそうではない。あのぬいぐるみの持ち主について、教えてくれないか……」

 怒られる構えとは裏腹に、彼女はリディさんのことについて何か知りたいようであった。

 僕もリディさんと約束したその日に彼女のことをマリーさんに話してしまうのはなんとも良心が痛む。なるべく明確な答えは隠すことにした。

「持ち主ですか?」

「そう、単刀直入に聞くが、そいつの名前、容姿、口調、それと……、魔女か否か、だ」

 やはりマリーさんはなにか勘付いているようで、この回答を済まさない限り、僕は解放されそうになかった。

「名前は……、わかりません。見た目は黒髪の背の高い女性、目は少したれ目気味で……、あとは優しそうな口調の人でした」

「あのあと……、私が気絶したあとだ。彼女と会ったのだろう?」

「は、はい……」

「……名前を聞かなかったのか?」

 マリーさんからは少しばかりイラつきさえ伺えた。その表情から思わずリディさんの言葉を思い出す。マリーさんが自分を殺したいほど嫌っているかもしれない、ということを。

「すみません、聞きませんでした」

「……そうか」

 マリーさんは一度俯いたのち、再度その眼光を僕に向けた。

「最後の質問についてはどうだ、魔女かどうか、なにか不思議な力を使ったりしていなかったか」

「わ、わかりません……」

「会ったのだろう!」

 マリーさんがガタンと立ち上がった。その音に思わずドキっとしてしまった。いつものマリーさんとは違い、再び目の色が失われていて、まるであの獣と対峙していた時のような黄色い瞳へと変わっている。

「魔女かそうじゃないかなんて、僕には……」

「お前の持っているぬいぐるみを貸してみろ!」

 マリーさんがそう手を出したので、僕はポケットからぬいぐるみをそこに置いた。

「これには、魔力を感じない……、だがその前にお前が持っていた人形からは魔女の力を感じた」

「……魔女の力」

「人の記憶、だ。あの人形には人間の記憶、魂が封じ込められていた……!」

「人の……魂……?」

「そうだ、そういった人の思念や魂を操ることができる魔女、私はそいつをずっと探している」

「…………」

 歯を食いしばるマリーさんの口元から血が滲んでいた。

「メリディア・ローアン・ペリアス……、私の、母親を殺した魔女の名だ」

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