第2話 美少年と野獣
いつも8時ごろに学校に着く。それでも十分早いのだが、今日はさらに早く着いた。今は7時10分。早すぎるにも程があるレベルである。
というか、いつもは1時間30分で着くのに、今日は1時間程度で着いた。早いし空いてたな。オフピーク通勤、ならぬオフピーク通学というやつか。これは良いかもしれない。さて、本でも読んで待つとしようか。
リュックを開けて本を出そうとすると、腕にもふもふした何かが絡みついた。
なんだ? いやな予感が――
的中。それは、今朝家にいたフェレットっぽい何か、改め、フェレットっぽいガチホモである。
「やあ、ユキ君。また会ったね」
「正直もう会いたくなかったよ。あと、そのあだ名やめて。女の子っぽいから」
「やめないよ。さて、やらないか」
「やらないよ」
僕は頭を抱えた。もうだめかもしれない。
「ウホッ、いい男」
「そのネタはやめて」
「すごく……大きいですね……」
「何がだよ。意味深なことを言わないでよ」
「アッー!」
「なに発音出来なさそうなこと言ってるの? 誤植かな!?」
「……こんなにホモネタ詰め込んで耐え切って突っ込み続けた猛者は君ぐらいなもんだ。さあ、もう一つのものも突っ込んであげよ」
「やめてください僕はホモじゃありませんから!」
「……チッ」
「今舌打ちしたよね明らかに!」
「(無視)ところでキミって何でこんなにホモネタよく知ってるの?」
その問いに、僕は耐え切れなくなって吠えた。
「うちの高校が男子校だからだよ! ホモだらけなんだよぉぉぉぉ!」
「ウホッ、楽しみやなあ」
「なんなのこれ!」
朝から精神疲労半端ない。誰か僕を癒して……
**********
さて、1時間本を読んだ。フェレットっぽいホモが邪魔だった。
「ちょっと、いい加減出て行ってくれないか?」
「何でだい? 友達とやるの」
「何をだよ」
「せ」
「やっぱり言わなくてもいいや」
と、こんな感じなので、あきらめた。
そのうちクラスメイトが入ってきた。ここは男子校だから、全員男子である。最後に同年代の女子と話したのはいつだったか、もう覚えていない。そんなレベルである。
「今日さー、朝起きたらなぞの生き物がいて、そいつに『○モセ○クスしようぜ』って迫られた」
「ははは、冗談はよしこちゃん」
「いや古いわ!」
これが男子高校生テンションである。
「でも、本当にそういわれたんだ。信じてくれよ」
「だから、冗談はよし」
「本当なんだよ……信じたくないけど」
「ああ、そうか……。よく見るとなんか疲れているようだし、病院行ってくれば? 頭の」
「そんなんじゃないって~!」
やはり、信じてはもらえないらしい。証拠として、例のアレを持ち出す。
「やめて~。ボクをつかまないで~」
「ほら、こいつだよ。今朝ついてきたんだ。どうだ。これを見てまだ嘘だといえるかい?」
「え、何コイツ」
どうやらわかってくれたようだ。さあ、友よ。僕の苦しみを分かち合ってくれ!
「可愛いイタチだな~。お前、イタチ飼い始めたのか?」
「違うよ! ほら、しゃべっているでしょ!?」
この、「ん? ヤりたくなったの? ほ」とかのセクハラをぶちかますフェレットっぽい何かを指差しながら僕は叫んだが。
「……お前、ガチで精神科行けば? てか、行け」
「違うってば~」
前言撤回。残念ながら、わからないようだ。
だが、この声は聞こえないらしい。もういいや。
「やっぱなんでもない。今のは忘れて」
「あ、うん、わかった」
「今一瞬すっげー不安になったんですけど。誰かに言ったりしないよね!?」
「え? 言っちゃいけない?」
「逆に!?」
高校生活二度目の初夏、朝からいろいろとめんどくさそうな予感がするのだった。
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