第14話 性と死のはざまで
ガチャンという塾の入り口のドアが開く音がした数秒後、恐ろしい音をたてて教室のドアが蹴り開けられた。
そこには身長180センチ以上ありそうな男が立っていた。顔を確認して言葉を交わす暇もなくその男は座っている私の顔をめがけてサッカーボールでも蹴りこむように思い切り脚をスイングしてきた。
顔だけしか避けきれずに、思い切り上半身でその蹴りを受け、自分の身体が吹っ飛び、端っこに置いていたテーブルの脚の部分に前頭部をぶつけて、額から血がふきだした。
すぐにこの男が章子の旦那だということが分かった。
「お前嫁に何してんだよ」
わめきチラシながらその男は、自分の手で身体を防御する私に、何回も何回も固い靴で蹴り、上から拳で何度も殴った。
私は、初めて自分の鼻の骨が折れる音や血が流れる音を聞いた。
妻が縛られ、ローソクをかけられ、よだれだまを吸わされている状況を見て、男の怒りは頂点に達していた。両腕で頭を覆い、血を流しうずくまっていると、ようやく殴りつかれたようで男の動きが止まった。
「女をたぶらかして、500万円恐喝して! 人間の屑だなお前は!」
言うや否や顔面に向かって至近距離から蹴りを入れた。
まったくもって真実ではなかった。が、しかし、章子は口枷をされ目隠しもされて、何も言えないし動きがとれない。
もし身体の自由があったとしても。この状況ならば何もできないだろう。
とにかく男は異常で何をするかわからなかった。
「殺す!」
短く言い放つと今度は連続して攻撃するのを止めて、冷静にパンチや蹴りを私に命中させた。出血も多くこのままでは死んでしまう。
そう思ったとき章子を見た。目隠しはどうにか外したのだろう。
私と目が合うとすぐに、まだ縛っていなかった自由の利く彼女の脚を使い、ハンドバックを私のほうに蹴り出した。
最初は恐怖の為に動転して、彼女が何を意味してそういうことを行っているのか?
なにがなんだか分からなかったが、バックの中身がこちらを向いて倒れ、中にサバイバルナイフが裸のまま、むき出しで入っているのが見えた。
夫はじっと一連の動作を見ていたが、夫の角度からは、バックの中身のナイフは見えないようだった。
そして、その彼女の動作は、まるで私のことを嫌って、バックを蹴り付けたように見えた。
「あやまれよ!」
汚く罵られ、また蹴りを入れられる。夫の言葉には何の意味も持たないように思えた。明らかにお詫びをさせたい訳ではなく、私に寝取られた恨みを晴らす為に暴力を振るっている。
呼吸が大きく乱れていた。
視界が壊れたテレビのようになってきて頭が割れるように痛い。
完全に男は私に対しての勝利を確信して、改めて部屋を見回した。
男の視線が離れた。
今がチャンスだと思った。
立ち上がりながらバックを拾うと、ナイフを取り出しながら男に突っ込んでいった。
男はビックリした顔で私の目を見る。
ずっと男の眼球を見ていた。
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