第9話 背徳への入り口
肩に生暖かい感触を感じ彼女がキスをしているのがわかった。
しばらくして肩に鋭い痛みを感じた。
あまりの痛さに声をあげそうになったがやさしく柔らかい手の平で口を塞がれた。
数回思い切り肩や背中を思い切り噛まれたが不思議なことに逃げようとしなかった。
やがて彼女の口は耳元に向かい甘噛みと愛撫を繰り返した。
「今度からゆうこと聞く?」
「え?」
突然聞かれて返せずにいると、背中をまた葉型がつきそうなくらいに噛まれた。
「はい、はいっ」
あまりにも痛くて、噛むのを止めてほしくて急いで返事する。彼女の突然の急変に動揺している自分がいたが、それが心地よくもあった。
彼女は私の背中を勢い良く後ろに引くと、私を仰向けに転がし、お腹の上にまたがった。 そして私の乳首を激しくつねった。
情けないことに下半身がいまだかつてないほどに興奮しているのが分かった。
痛いのを必死で声を出さずに我慢していると彼女はうれしそうに微笑み、下半身を思い切り指で幼い頃に遊んだ(でこピン)をするようにはじいた。
「痛い!」
ちぎれるかと思うくらいの激痛が下半身に走ったが、身体はそれを楽しんでいた。
「今からは絶対に逆らわないでね」と彼女は言うと唾をゆっくりと私の胸に1,2滴たらし、今度は口に向かってたらし始めた。
私は避けることなくそれをうれしく飲み込んだ。
「私はあなたをお金で買ったの! わかるでしょ!あなたは私の言うことを聞くの」
ぼーっと彼女の声を聞いていると平手撃ちが飛んできた。
「返事! して!」
私は彼女をこれ以上怒らせないため素早く返事した。
その日の精子の受け渡しは今までとは違った形で行われた。
命令と服従「飴とムチ」で要求されたことにすぐに反応しないと罵られ、身体をつねられたりひっかかれたりの罰を受けた。
今まで、そういう性格でも性癖でもなかったので、無意識に自然と彼女の身体に触ろうとするのだが、こっ酷く暴力を受ける。(飴)は与えてもらえず、馬乗りになった彼女を触ることもできなかった。
なにも良い事がないように思えるが、彼女は新しい刺激的な(遊び)を教えてくれた。
どんなに私を痛めつけられても、飴である最後の精子の受け渡しは、彼女にも絶対に避けることはできないのだ。このご褒美だけは絶対に受け取ることができるのだ。
服従と恐怖と快感でぐったりしている身体に反比例して、下半身の私のモノは力強くそそり立っていた。
彼女はそれを中に取り入れると激しく腰をふり動きだす。
接合部分から流れ出す液体がこぼれだす。
彼女は感じるたびに爪を私の身体にくい込ませる。
そして少しでも私がイキそうになると腰の動きをピタリと止めた。
さんざんもてあそばれた挙句に、やっと彼女は射精を許してくれた。
私の全てを搾り取ると彼女は立ち上がり、後はいつものようにあそこに折りたたんだティッシュを当ててパンティをはいた。
一方の私は、まだ寝そべっていたかった。あらためて自分の身体を見てみると無数のひっかき傷があり、血がにじんでいる所もあった。
酔いが冷めてきたのだろうか? 肌寒さで少し身体が震えている。
すでに服をきた尾上さんが近づいて来て隣に座り込む。
綺麗な指先を引っかき傷のところにやさしく痛みを取るようにそわせていった。一通り傷を指で撫でたあと、彼女は私の身体をゆっくりと起こしトランクスをはかせてくれた。
シャツを着せた後、彼女は視線を私の目に移しそのまま見つめた。
私もまた瞳を見つめ返した。
潤いのあるきれいな瞳に見とれていると、「痛かった」と今までとは別人のように彼女がたずねた。
「いいえ」と答えると、まるで子供によしよしするように頭をなでられた。
私は感極まったらしく、また涙を流し始めた。
彼女はそれを止めようと抱きしめて頭を撫でてくれるが、逆にそれがきっかけになり、ただ涙が止まらなくなるのだ。
彼女は形の良い柔らかい胸を押しつけて慰めてくれる。
目をつぶり暗闇の中、彼女の甘い香につつまれ、夢の中にいるようだった。
今のままで充分満足なはずなのだが、また怒られても殴られても構わない!
という無謀な気持ちでお願いした。
「キスしてもいいですか?」と言うや否や、彼女は私を鋭い視線で睨んだように思えた。
また血が出るほど爪をたてられるのかもしれない。
彼女は表情を変えずに私の心の中を見透すように見つめている。正直なところキスをしてもらえなくても構わなかった。
思い切り殴られたとしても今の自分には強い快楽をもたらしてくれるとも思った。
彼女は見つめたまま顔を近づけて触れるか触れないかのところにくる。
息が止まりそうなくらい緊張した。
でも彼女は何も言わない。
お互いの息遣いが聞こえる。
「いいよ、キスして」
かなり長い間見詰め合った後、彼女は微笑んで言った。ためらって動けない自分をもてあそぶように犬のような舌使いで唇をゆっくりなめると、やがて口の中に強引に彼女の舌を侵入させ,私の舌に絡め始めた。
長い間の唾液の交換の後、私は鼻先をつままれ息をギリギリまで止められた。何回もそれを繰り返した後、やっと彼女は私を解放した。
「もう我侭は言ったら駄目よ」
肩で息をしている私に彼女はそう一言かけると静かに去って行った。
彼女がでていくと、外の風がかなり強いことに気付いた。薄暗い部屋の中にポツリと座って、先程起こったばかりのことを思い返す自分がいた。相手にコントロールされるということがこんなに自分に快楽をもたらすことに驚いていた。
自分の心が激しく尾上章子に向いているのが不思議であり怖くもあったが、容易にこの思いを止められなくなっているのを認めざるを得なかった。 台風の金曜日のことがあって以来、私の精神は尾上さんに占有された。
暴行や暴言しか受けていないはずなのだが、その一つ一つに奥深い愛を感じた。
母親を結婚前に病気で亡くし、それ以来心の中に大きな穴が開いてしまった自分は、今子供の頃に母親に叱られたことを思い出している。
美しい母親から叱られたことが、今日の体験で美しく蘇ってくるように感じた。
尾上さんに叱られるたびに子供の頃失ったものがよみがえってくるような気がした。
最近仕事中にぼーっとすることが多くなった。受講してくる生徒に勉強を教えるときも、関係ない事を考えてしまう。
尾上さんとのひと時に待ち焦がれて金曜日に近づくにつれて心が弾んだ。
この気持ちを持ち続けることは仕事中は容易にできたが、家に帰ればこの思いを完全に隠す必要があった。
尾上さんへ初めて提供をして以来、私は妻を抱いていないのだ。相変わらず妻は基本的に私に求めてこないし寝室は別だった。育児に忙しいと思うのでお互いに好都合のはずだった。
今日も意図的に遅く帰宅してすぐにシャワーを浴びて隣の寝室に入る。
いつもお風呂は朝に入るようにしているが、最近帰宅するとすぐにシャワーを浴びるようにしている。
本来ならば金曜日だけ帰宅した時にシャワーをすれば良いのだが、それだと金曜日に尾上さんと交わっていることがすぐに妻にばれてしまうのだ。
都合がいいことに今年の8月はとても暑い日が続いた。
ただ服を脱いで風呂場の鏡を見ると目の前の厄介な問題にため息がでた。体中に引っかき傷や打撲の後が目立った。尾上さんとの関係との代償は容易に隠せるものではなかった。 彼女に頼めばなんとか傷つけるのを止めてくれるのかもしれない。
でもそれによって嫌われたくはなかったし、傷つけられることでの快楽は容易にすてれるようなものではなかった。
シャワーが終わると、つい先程、自分でため息をついていた傷だらけの身体を、満足そうに見ている自分がいた。そして尾上さんのことを妄想する。
自分の心は完全に彼女しか考えられなくなっていた。
妻と息子の寝室を覗きもせずにまっすぐに隣室に入ると。真っ暗な部屋の中で眠たくなるまでスマートフォンをいじる。
眠くなったので、もうそろそろ枕元にスマホを置いて眠りにつこうとした時、部屋のドアが少し開くのが分かった。素早く目をつぶり既に寝ているふりをする必要があった。
なぜなら妻が、真っ暗な部屋をゆっくりとこちらに歩み寄り私の寝ているベッドの横に来たからだ。
上からじっと寝ているかどうか顔を見ているのが気配で感じとれた。
妻は私の頭をやさしく撫でた。いつもならうれしくてすぐに反応するのだが、頭の中には尾上さんのことが頭によぎり、寝たふりを続けた。
尾上さんを裏切ることはしたくなかったので、寝息を大きくして眠りが深いことをアピールした。
妻の手が頭から離れた。
やっと解放された。
妻は静かに動き出して離れて行った。
私はゆっくり静かに大きく息を吐いた。
やっと寝れると思った瞬間、急に布団が動いた。
背中の方から少し冷たい空気と妻が入ってきた。
妻は背中に顔を押し付け手を私の胸の方にまわした。
どうやら私をじわじわと起こして行きたいようだった。
彼女は胸をおしつけたり耳を撫でたり手を握ったりと、私を起こす為にあらゆることをやってくる。
「う~っ」
私は相当疲れてうなされている様な感じで起きれない状態であることを演じた。身体の傷を発見されると面倒なことになる。
妻は軽く鼻を触ったりしていたが、ようやくあきらめたようだった。
「うそつき 寝たふりして」
冗談とも本気とも言えないような独り言、もしくは捨て台詞をささやいて、妻は出て行った。
見つかってしまったのだろうか?
確かめたかったが起きるわけにはいかなかった。
その後はなかなか眠れなくなった。
余計なことばかり頭の中に浮かび、大丈夫かどうか脳内で確認していくので、眠りにつけない。
まさかばれたのでは?
妻は自分の携帯等を見ていたのかもしれない?
いやしかし、携帯には何も証拠になるようなモノはないはずだ?
1ヵ月もセックスしていないので、ただ妻が欲求不満になっているだけと思いたかった。
そんな些細なことをジメジメ考えていると、だんだん明るくなっていき夜が明けた。
ベットからゆっくりと出て大きくふらふらと歩く。 もちろん眠かったからなのだが、 私はこんなに疲れていました!
という自己防衛の為に動作を大げさにする。
リビングに入ると奥のキッチンで妻が朝食を作っていた。息子はまだ奥で寝ていると思われる。
「おはよう」と挨拶すると、妻からはいつも通りの変わらない感じで挨拶を返されて応対された。
昨日のことを聞きたかったが、なかなかそのままダイレクトに聞くのは難しかった。
「昨日さ、隣に来た? ごめん俺寝ぼけてたみたいで?」
妻は不思議そうな顔で「ううん、来てないよ」とだけ答えて、おかずをテーブルの上に並べていく、明らかに妻は嘘をついているのは分かっているのだが、寝ていたということになっているので、これ以上聞きなおすことはできなかった。
私の最近の行動が裏切りに満ちている分、家で過ごすことが苦しかった。
いつもは朝はのんびり家にいることが多かったのだが、ここ最近は仕事がとても忙しいということになっている。幸い500万円もらったので家庭に入れるお金を若干増やすことができた。
妻はまだ何も気付いていないはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます