第4話 AYA

志穂は妊娠してそれから出産をして2年くらいは性欲が無い時期があった。なので私は何も求めることができなくなっていた。もし私が無理に求めようものならば、涙を流して嫌がった。最初は妻からの性生活の拒絶と言う事実に動揺したが、インターネットで調べてみると、妊娠して出産した女性にはそういうことが起こりえることを知った。


 こういう時は、父親としてそのくらいは我慢すべき、と思うのだが、残念な男である私の行動は違った。


 セックスを拒絶され、大きな孤独感も味わった。


 志穂が子供に愛情を注ぐたびに、自分に向かう愛情は少なくなっていく。


 結婚当初は、自分だけを見つめてくれた妻と言う存在が「母親」と言う存在に変わっていくのが耐えられなかった。


 ある日を境に、都合の良い理由で一度だけ私は暴走した。


 塾の開業のプレッシャーと、性生活の拒絶からくるストレスでネット掲示板を見るようになった。その掲示板では、ビデオチャットで話をする相手を探す為のものなのだが、そこでその女性と知り合った。


 AYA というPC上のニックネームしか分からない女と、最初はチャットだけで盛り上がった。話していくに連れて、彼女が自分よりもずっと若いことに気付いた。


 大学一年生だった。19歳だと彼女は言った。


 AYAは私がアラフォーというのには全くこだわらず、あけっぴろげにひとしきりいろんなことを話す。


 唐突に「私は処女なんです」とチャットした。そしてセックスに興味があるという。


「おじさんはどうですか?」と返してくる。


 相手がまだ19歳ということへの罪悪感と、これは浮気なのか浮気ではないのかという自己判定に悩んだ。ただ時間が経つにつれて、いまだかつて経験したことがない興奮と好奇心で二人は盛り上がり、あっという間にボイスチャットに進んでいった。 


 AYAは19歳らしいなんとも言えない純粋な透き通った声で話しかけてくる。


 恥ずかしながら喋っているだけで下半身が熱くなり、彼女に見えないことをいいことに下半身を手で触って刺激した。


 エスカレートしたのは私一人ではなかった。


 二人は声だけで愛し合うようになった。


 声だけでお互いの身体を慰めあった。


 AYAの未熟でぎこちないところが魅力であった。


 この勢いで映像チャットで愛し合うのも時間の問題かと思われたが、それには以外と時間がかかった。AYAが顔を私に見せることを恥ずかしがったことが理由だった。  


しかし、それは私のほうにも同じことが言えた。20歳くらいの年齢差を考えると、AYAが私のことを気に入るとは思えなかった。でもどうしても自分の欲求を抑えることができずAYAを粘り強く説得して、いよいよ顔を見せ合うことになる。


 これは浮気なのかそうでないのか? という問題が再度浮上してきた。


 しかし、これは実際に会って性行為をするわけではない。


 飢えた私には浮気をするという決断をするのは難しくなかった。


 19歳の女の子と顔を見せ合って愛し合うという罪悪感たっぷりで好奇心に満ちた遊びをする機会を、くだらない理性で逃したくなかった。


 でも、どこか罪悪感をぬぐい切れない自分が存在した。


 それを振り払う為に、思い切りAYAに「自分は結婚している」とチャットで告白した。 返事を待つ間、本当の恋愛のように緊張をして汗ばんだ。


 彼女は一瞬だけとまどったようだったが「大丈夫」とだけ返してきた。


 チャットの文字だけだったので、そこで彼女がどういう顔をしていたのかは知る由もなかった。自分の都合の良い付き合いだけをしたかった。そしてそれがAYAの希望と一致していることを期待した。なので私達二人は会うべきではない。


 つまり、性欲の解消はしたいが、お互いの理性をコントロールして、暇なときにビデオ会話だけで済ませるようにしたかった。間違いを犯したくはなかった。


 ここで小心者の私は、自己防衛の為に自分の要望をチャットで掲示した。


 ★真剣なお付き合いはできないこと


 ★絶対に会わないこと


 ★どちらかが辞めたいときに辞めても良いこと


 3つのシンプルな条件は自分の欲望を抑えることにも役に立つと思った。


 AYAは「いいよ」と一つ返事で了承した。私はこの擬似恋愛がエスカレートしないことに安堵した。


 しかし皮肉なことに、そこから二人の特殊な恋のスピードは止まらなくなった。仕事の合間に暇を見つけてはビデオ通話をして盛り上がった。


 ひとしきり、最近あったことなどの世間話をした後、話の内容は徐々に性的なことになっていく。いちおう大人な私は、何もしらない女の子にいろいろな情報を教え込んだ。 


 好奇心の塊だったAYAは、ソープランドに行った話しや、ストリップに行った話、私の初体験の話などを喜んで聞いた。そして一つ一つのプレイの詳細を知りたがった。説明が進むにつれ二人は興奮し、そして最後にはお互いの身体をビデオチャットで映しだし、擬似的に愛し合った。パソコン越しに見る彼女は美しく、そして初心で純粋だった。


 やってはいけないことだとなのは分かっているのだが妻の志穂と比べてしまう。


 声に出し方、感じ方、胸の大きさ、毛の生え方、まだ触ってないが肌触りの感触、そして中の感触。二人の違いを見つけてはそれで喜び快楽を得る。そして最後の放出前の快楽。


 そしてその後の脱力感がじわじわと会えないむなしさに変わっていく。快楽と孤独のコンビネーションは「★絶対に会わない」という二人の誓いを吹き飛ばすには充分だった。

 人生で初めて行う浮気はただただ刺激的なはずだった。が、なかなか私達には勇気がなかった。AYAは幸か不幸か二つ隣の県に住んでいた。すなわち住んでいる場所が結構近いのだ。

 最終的に二人で決めた3つの約束の一つの「★絶対に会わないこと」を「一回だけしか逢わないこと」に都合よく書き換えて、私達は逢うことに決めた。

 結局誘惑には勝つことが出来なかった。

 妻の志穂は結婚間近に冗談っぽく私にこう言った。

「もし浮気したら必ず墓場まで持って行ってね。私にばれたら怖いからね!」

「殺されるの?」と私はおどけたふりしてこう返した。

「かもね!」と彼女は微笑む。

「じゃあ絶対見つからないようにするよ」と返して私達二人は笑いあった。

 皮肉なことにこの会話が自分の背中を後押しすることになった。

 見つからなければば問題が無いのではないか? 

 分からなければ罪にはならない!

 結局、前働いていた会社の同僚達と遊びに行く、というアリバイをつくった。志穂は何も疑わずに「楽しんできて」といつも通り快く言ってくれた。

 家をでると、スキップするように駅に走り電車に飛び乗った。お互いに一つの県の距離だけ移動して真ん中の県で落ちあうことにした。

 電車内で座席に座ると同時に、スマートフォンからネットにつなぎAYAの為だけにしかつかわないフリーメールを開いた。そこには既に沢山のメールが彼女から来ていた。

 1ヵ月前からAYAには自分が彼女の最初の男になる約束をした。

 彼女も好奇心から私に処女をあげる決断をし、私は自分の快楽とスケベ心を満たす為にそれを喜んで受けることにした。どちらにも損がない約束だとその時は思った。

 意図的に妻のことは思い出さないことにした。

 初めて浮気することにとても緊張していた。


 待ち合わせた駅の改札口でしばらく待つとAYAはやってきた。

 顔は(あえて言えば身体も)もうパソコンで見ていたので、眼鏡をかけてうつむいている女の子がすぐにAYAなのが分かった。まるでアイドルグループのようなミニスカートにかわいらしいシャツを着ている。

 リラックスさせるために「AYAちゃんやっと逢えたね」とさっそく話しかけたのだがなぜか彼女は黙ってうなずくだけだった。

 最初は何故AYAがそのような仕打ちをするのかが分からなかったが、だいたいのことは推測できた。

 ネットで知り合って既に3ヵ月も経つのだが、会うための目的の不純さとかに罪悪感もあるのだろう。彼女はビックリするくらい無愛想で緊張していた。

 恥ずかしながら私は下心でいっぱいで、いかにスムーズに楽しくセックスを楽しむことだけを考えていた。

 予約していたホテルにチェックインする前に、小奇麗な居酒屋に行きお互いの好きなものを適当に注文したがAYAの表情は硬いままだった。

 あまり彼女が何も食べないのでホテルに向かった。

「今日のことを後悔しているの?」と道すがら確認してみたが彼女は首を横にふっただけだった。そして一言もしゃべらない。なんて言えばいいのか分からないが、思春期の反抗期の中高生を相手するお父さんな雰囲気だった。

 予約したダブルベッドの部屋に入ると彼女の表情が少し緩やかになった。密室に入ったことが彼女に安心を与えたようだった。

 AYAの子供みたいな態度にすこしフラストレーションがたまっていたので、あごを人差し指で上に上げると唇を甘く噛むようなキスをした。拒まない唇に舌を入れ込むと、そのまま彼女も絡めてきた。そしてお互いを確かめ合うように何回も深くキスをした。

「中見せてよ」

 隣に歩いてたときから気になったミニスカートを冗談っぽくめくった。彼女は腰をひねりながら嫌がったが、それは本気に嫌がっているようには見えなかった。

 顔を真っ赤にすると「濡れてるから駄目」と言った。

 ミニスカートをガッシリとつかみ、スカートをしっかり捲し上げると、シルクの見せパンが見えた。そして、そのシルクの見せパンの股間の部分がびしょびしょに濡れていることに気付いた。さっきツンツンした態度をされたのでAYAにお仕置きすることにした。

 人差し指と中指を這わせて、その彼女の液体を指にたっぷりとつけると、目の前で親指と人差し指を使ってその液体の粘着具合を教えてあげた。

 ビデオチャットでもそうだったが驚くほど濡れやすい子だった。

「あらあら、こんなに濡れて脱がないとね」と悪戯っぽくやさしく言って見せパンを脱がせると、かわいいピンクの柄が入ったビキニ形のパンティが見えた。

 AYAはすこし拗ねたようで「おじさんのせいだからね。着替えないんだから」とブツブツ言いながらびしょびしょのパンティを洗いにトイレに消えた。

 ベッドでいちゃついてると、いつのまにか浴槽のお湯が溢れていて一緒にお風呂に入ることにした。彼女が恥ずかしがるので浴室の電気を消して部屋の明かりが少しだけ入るようにした。

 さっさと脱がして一緒に入りたかったが「先に入っていてほしい」と言われたので浴槽の中で待っていると、影に包まれた彼女が入ってきた。

「目をつぶって」と言われたがうっすらと目をあけているとちょうど目の前に彼女の腰の部分が現れた。大事なところが毛深いのはビデオで見たとおりなのだが、自分なりに形を整えていることが分かった。AYAは背を向けると私の前に入ったので細い腰を引きよせ、背中を舐めはじめると我慢できずに声を上げる。

 反応を確かめたくてガチガチになったものを彼女のお尻に押し当てる。

 身体を完全に預けてきた。

 左手で小ぶりな胸を確かめる。

 胸に比例して小さく突起した胸の先端を指でやさしく摘むたびにかたくなっていった。 

 ここまでは順調だった。二人きりになると、ビデオチャットの時と同様にAYAは積極的になった。お互い洗いっこをした後ベットに行った。

ひとしきり確認するように愛撫していき、いよいよ彼女の中に入ることにした。

さっさとコンドームをつけて彼女の入口にあてがったときにいきなり失速した。

 最初は何が何だか分からなかった。とにかく今まで固かったものが、急に力を失い芯が無くなった。

 志穂? 罪悪感? たぶんそういったことだろうか? 

 気を取り直し気持ちをリフレッシュすることに努めるが、なかなか回復しそうに無かった。こういうときに慣れている子だったら口で回復させてくれるのだろうが、初めての経験の女には期待できなかった。

 すこしやわらかいままで入れようとするがAYAは怖がって受け入れてくれない。もう少しだけ固くなれば良いのだが、病院で生まれて初めて注射でも受けてるような緊張したAYAからは罪悪感しか感じないのだろう。

 悪循環は朝方まで続いた。何度もコンドームを換えて気分をかえて、彼女をできるだけリラックスさせて、最終的になんとかAYAの中に入ることが出来た。

 2・3回腰を動かすと「痛い、痛い」と連発され挿入に6時間かかったものを、6秒で抜かざるを得なかった。

 2時間後に朝の8時になると、親が心配すると彼女はあたふたと急いで帰っていった。 

一人しかいないホテルの部屋で眠くてフラフラになりながら、ここでやっと自分がやってしまったことを後悔し始めた。

 罪悪感で立ちが悪かったからなのか? 

 処女を卒業させるのが予想以上に難しかったからなのか? 

よく分からないのだが、ただ間違いなく言えることは初めての浮気というものは

「気持ちよくなかった」と言うことだった。 

 家に帰ると志穂と息子が玄関まで迎えに来てくれた。いつも玄関まで出れないことが多い志穂なのに、この時ばかりは妻の親切心が心に痛かった。心の中で二度と同じことはしないと誓った。そしてその子とは自然に終わった。お互いに連絡を取り合わなくなって既に2年が経った。 

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