第3話 モエ

 アメリカでは寮に入り全然違った日常を楽しんだと言いたいとこだが、授業についていくのが大変すぎて勉強ばっかしていた。

 大学にはアジア系はたくさんいたが、明らかに日本からの留学生は少なかった。クラス中だけでなく休み時間も含めて、一日中全ての会話を英語で行った。そのほうが英語の勉強になるであろう、と考えた結果そうすることにした。


 留学から3ヵ月程たったある日、新しく取ったフィロソフィー200というクラスに「モゥエィ」という女の子が入ってきた。黒髪の長い髪で小さいまるい顔に大きな瞳でアジア系・英語がペラペラすぎるところを見ると留学生ではなく現地の人とも思える。

 彼女は気軽に私に話しかけて来てよく話すようになった。

 私も彼女がかわいいのと同時に、瞳の色が同じなので何か話しやすさを感じた。

 最初は勉強のことばかり、特に私はクラスの内容が半分くらいしか理解できないこともたまにあったので、クラスの後に彼女に質問すると彼女が的確に教えてくれるので助かった。  

 よく話し込んでいくと彼女が日本の東京から来ている日本人の「モエ」ちゃんというのが1ヵ月後にようやく分かった。

 モエは私が日本からの留学生だと言うのは話す前に顔を見て分かっていたらしい。

 その当時はロン毛が流行っていたのだが、その日本で流行っている通りのヘアとファッションスタイルと、あまりいけてない英語の発音で私が日本人なのは簡単に見抜かれたようだ。

 一方、私が彼女が日本人だと見抜けなかったのは、モエが中学からアメリカに留学しているので、顔と雰囲気がアメリカに染まり、あまり日本から来た留学生っぽくないからかもしれない。 

 なんといえば言いのだろうか?

 いつもバックとかポーチとか持ってないし、もし、ミニスカートはいてきても、ハンカチを置いて見えそうな三角形の部分は隠さないし、ごまかし笑いも照れ笑いもしない。 

 お互い日本人なのが判っても、私達は英語で話すことを続けた。お互い話し合ったわけではないのだが、この方が勉強の為にも良かった。

 モエは、キャンパスでもモテていてよく男達がちょっかいをだしていた。遠くから口笛だけ吹く野次馬的なものから、なんとか友達になろうと教科書を見せて、

「君と、同じクラスとってたけど質問ある」とか話しかける奴等とか、

 真面目に一目ぼれしたから電話番号渡すとか、

 ここはアメリカだけあってなかなか積極的なアプローチが多かった。

 モエは私を見かけると、その一生懸命の男達をあっさりと振り切って、笑顔で私のほうに駆け寄って来る。

 男達にとって私のことは、たぶん。

「なんだあの男は!」という感じなのだろう。

 実際走りよるモエを追いかけてきたある男は、私に「お前はこの子の彼氏か?」と不満そうな顔で聞かれたこともある。

 そういうときにいつもモエの方を見るのだが、聞こえているはずなのに、何も言わずに遠くを見ている。

 そういう意味では、意地悪で卑怯でずるいのだが、顔がかわいいので何も言えない私がいた。

 モエいわく、彼女には彼氏がいて、違う大学に行ってしまったらしい。

 見たこともないモエの彼氏にはちょっと嫉妬していたので、逆にあまり詳しく聞く気にもなれなかった。

 私はまるで、モエの彼氏が雇ったボディガードかよ? と言いたいところだったが、

ボディガードはなんかお洒落な感じがするので、あえて「管理人」と言っておいたほうがいいのかもしれない?

 とにかく、私のことを彼氏と勘違いして、明らかに悔しそうな顔している男達の目線が、私に刺さってくる。ある意味男達が、気の毒でしょうがなかった。

 悪い言い方をすれば、これらの男達は、彼氏のいる小悪魔な小娘に翻弄されているからだ! 私もその一員かもしれないのだが?

 こういう感じだったので、だいたい休日にモエと遊ぶ時にはお互いの友達を連れてきて4.5人で会う事が多かった。

 だいたい私が連れてくる男友達はモエに「付き合おう」と言って撃墜されていき、だんだん私が誘う男達がいなくなっていった。

 結局、私一人でモエの家に遊びに行き、そこでモエの友達に会う形に変わっていった。 

 モエの家は多分というか、間違いなくお金持ちで、海辺にある高級住宅地の一角にある見晴らしのいいアパートの上の方にアパートを借りていた。

 どう考えても家賃が1000ドル近くはありそうで、一人で簡単に住める金額ではないはずだった。おまけに自分の車も持っていたので彼女の家に集まることが多かった。

 免許はハイスクールの時にアメリカで取ったそうだ。私は日本で免許をとったので車の右側通行は怖い感じがするが、金持ちでアメリカデビューの彼女には一切関係無いようだった。

 会合の名目は勉強会だったのだが、テレビゲームをしたり、なんか一緒に料理を作ったり、21歳以上の友達が買ってきた酒を飲みながら語り合ったり、カードゲームをしたりして日曜日まで彼女のアパートで過ごす。女達は大きなベッドをシェアして男達はソファで寝る。ほとんど勉強などしないのが我々のスタイルだった。

 

 ある土曜日、約束どおりモエが車で寮に迎えに来た。私は車を持っていないので、いつも彼女は迎えに来てくれる。車に乗り込むと、彼女はふつうの顔で、

「今回は友達呼んでないよ」とサラリと流暢な英語で私に告げた。

 why、と聞きなおそうとしたが止めた。

 なぜなら今聞くと、やっぱり今日は止めよう!みたいなことになりそうな気配がしたからである。

 今聞かなくてもモエは後から話すだろう。明らかに今日の彼女はいつもと違った。

 なぜなら、とにかく急発進と急ブレーキが多い。なにか嫌なことでもあったんだろう。そしてその愚痴でも今から聞かされるのだろう。

 たぶん彼氏と上手くいっていないのではないだろうか?

 それならそうで、私的にはいささかうれしかった。半年前から、もうすぐ彼氏が遊びに来るとうれしそうに言っていたのだが、その続きの話を聞いたことがなかった。

 モエには最初から惹かれていた。しかし二人の間には曖昧な友情の壁ができ、まったくその壁を突き破れそうになかった。

 ただ、今、何かが変わりそうな気配だった。

 とにかく私は、溜まりに溜まった欲望をひたすら隠すことに専念した。

 今、脳内で何回も連呼されている彼女の一言「今回は友達は呼んでいない」の影響を受けても、顔はにやけないようにしないといけないし、勃起してズボンの股間が膨らまないようにしないといけない。

 なぜなら私は童貞だからだ!

 私の頭の中で今夜は最高の夜になる勝算があった。 

 モエが「家になんでもあるので何も買わなくてもいい」と言った時も私は表情を崩さなかった。

 いつも買出しに行くスーパーには、今日、同じ寮生のジョーがレジで働いているのを知っていた。彼は先月モエにフラれたばかりで未練タラタラなのは知っていた。スーパーに立ち寄れば絶対に割り込んでくる。

 地下駐車場へのゲートが開き、車が猛スピードで滑り込み、彼女のアパートについた。 

 駐車場から彼女の部屋にエレベーターで上がっていく。いつもは彼女の綺麗な発音のテンポの良い英語でペラペラと話しかけてくるのだが、今日はいっこうに喋ってこない。

「今日運転荒かったね?」

 とりあえず話しかけてみた。

「本当に?」

 彼女はそれしか言わずに、ため息を吐きながらエレベータの天井を見つめた。

 部屋に着いた。彼女はホテルのようなカードキーをドアに刺して部屋をあけるとさっさと部屋に入っていく。

 ここで中から誰かが「サプライズ」と叫んで飛び出してきても不思議ではなかったが、本当に誰もいないようだった。

 モエはリビングルームのでっかいソファの水平にも寝れる部分にもたれかかり、またため息をついている。

「どうしたの?」

「別に」

「つかれてるやん?」

「大丈夫」

「熱でもあるの?」

「ない」

彼女に会話を進める意思がないらしい。何を聞いてもちゃんと返ってこない。

 だいたい人を呼び出しといて失礼だとは思うのだが、ここは優しくしないといけないのは童貞の私でも分かった。

 とにかく話しかけても無駄そうなので、彼女が付けたテレビを見てるフリをした。留学前に本屋で立ち読みした、女にもてる為の自己啓発本曰く。

 「女は追いかけると駄目。一度追いかけた後、そのまま放っておけばよい」と書いてあったのを思い出した。そうだ、そのままにしとけば良いのだ。

 案の定、数分もたたないうちに、モエは話しかけてきた。

「ねえ、私ってどんな感じ?」

 曖昧で、どんなふうにもとれるし危険な質問だ。

「人気あるし、美人だし、あかるいね」

 無難に答えて様子をみる。たぶん彼女にとって、いまいちの返しだったのだろう。

 彼女は「ふーん」と言ったきり何も言わなくなった。 

 「ねえ、飲んでいい?」

 私は、キッチンのカウンターの上にある、誰かが残していったジャックダニエルズを指さした。実は緊張が止まらなかったので、なんかを使ってごまかしたかった。

 彼女は「いいよ」と言って冷蔵庫から氷をとって、アイスペールに移し変えて持ってきてくれた。私がロックで飲むのが好きなのをモエは覚えていた。いい娘である。

 グイグイ飲み始めると程よく酔いがまわり、質問がしやすい状態になってきた。

「ちゃんと言ってよ。今日明らかに機嫌悪いよね?」と覚悟を決めて突っ込むと、彼女はしばらく答えにくそうにした後口を開いた。

 「彼氏が浮気をしていると思うの」

 ある意味泣きそうな、それでいて怒ったような顔をしている。

「勘違いじゃあないの?」

「違う! 親友が本当だって言ってるから」

 怒りに満ちた声であんまり勢いよく返されるので、

「そう なんだ」と呆気に取られる。

「私にも飲ませてよ!」

 モエは私が作ったばかりのジャックダニエルズのグラスを横取ると、水でも飲むようにゴクンゴクンと2回で飲み干した。

「お前が飲んだら誰が俺を送るんだよ!」と突っ込みたかったが、あえてそんなことはしなかった。そんな余計なことを言えばモエは正気に戻ってしまう。

 正直今日はここに泊まって何かが起こるのを待ちたかった。 

 しかし、そこからが面倒くさかった。いつもは軽いお酒しか飲まない19歳のモエは未知の領域に飛んでいったようで、そこからいっそう饒舌になり、知りたくも無い彼のことをベラベラと喋りだした。それも1時間以上。

 正直なところ好意を持っている女性が、現在付き合っている彼氏のことをあからさまに話していくのを、黙って聞いてやるのがこんなに苦痛だとは思わなかった。

 なのでなるべく聞き返したり詳しく聞いたりするのを止めた。

 モエは彼氏を「アイツ」呼ばわりで話をしていくのだが、いつどこでそれが、「ジョン」になるのか「タカシ」になるのかが心配だった。

 何も知らない方が良い。付き合っている女性の過去の男性遍歴なぞ、その当時から聞きたくないと思っていた。

 とにかく、たぶん、アメリカのハイスクールで男女交際をしていたという100パーセント非処女だと思われるモエが、その彼氏とのセックス話なんぞを、酔った勢いでペラペラしゃべりだすものならば、それはとても耐えられない気がしたし、私自身が発狂するのは目に見えていた。

 そういう理由で結構人の真剣な悩みをいい加減に聞いていた。

 彼女は私が親身になって聞いていないのを不満に思うのだろう。 

「ねえ、聞いてるの?」と酔っ払ってバシバシ叩いてくるのが痛くてしょうがなかった。

 最終的に「アイツが」と100回くらい愚痴った後、モエは下を向いて黙り込んだ。

 涙がこぼれていた。必死で声を抑えて泣き始めた。

 下心いっぱいの私の心はここでようやく挫けそうになった。

 マンツーマンで聞くのがつらい。泣きたいのは自分だよ!と心の中で叫びたかったが出来るはずが無かった。

「聞いてないよね? 聞こうとしてないよね? 日本語じゃあないと心にひびかないよね! そうだよね?」

 モエは矢継ぎ早に3つ質問すると「もう頭にきた!日本語で話す!」と始めて日本語で話した。

 始めて聞いたモエの日本語だったが、英語と違って、思ったたより甘ったるい声だったのには驚いた。英語で喋る彼女はすごく頭が良くてなんでもバリバリできるエリートな感じの雰囲気なのに、同じ人間なのに、使用言語でキャラクターがここまで変わるのだから。

「ゲン君ってさ! 女のこと付き合ったことないよね! 絶対そうだよね!」

 甘い声なのに、どんどんモエは攻撃してくる。

 正直な話、この「付き合ってないよね」の一言が予想以上に私の心に入り込んだ。

 できればそこは英語で言ってほしかったくらいだ。

 それに加えて、ゲン君って言われたのが不自然だった。

 名前が田坂元で(はじめ)なのでクラスメイトが発音できないので、GENで英語では通していたのだが、そのままゲン君と日本語で呼ばれるのに大きな違和感があった。

「失礼だな! あるよ! 俺は20だよ!」

 19の子供になめられたくないので、迷わず私は付き合ったことがある人のキャラクターを演じることにした。

「うそ! だって人の気持ちとか全然わかってくれないし、それに日本語で喋ってみるとそこまでもてなさそうだし」

 モエも何らかの違和感を私の声に感じたのだろう。この辺は英語だろうが日本語だろうが生意気で失礼だった。

 しかし、こいつは多分アメリカの悪いところも留学で学んだのだろう。日本語で話すときに年上にリスペクトをしていない!

「あのね、俺はもてるの。日本に帰れば彼女が待ってるんだから俺のこと!」

 自分で恥ずかしくなるくらいのドヤ顔で言い切った。

「じゃあ、もうエッチしたことあるの?」

 彼女のすでに酔って赤くなってる顔が一段と赤くなった。

「当たり前じゃないか そんなんモエだってやってるだろ」

 何言ってんだこいつ馬鹿にしやがって、と内心思った。

「私処女だよ」

 モエはすごく真剣な表情で言った。酔っていても真剣に答えているのが分かった。「え? アメリカのハイスクールでしょ?」

「アメリカのハイスクールで付き合ってたら、処女ではなくなるの? うちは両親厳しいから、そんなに簡単じゃあなかったの」

「そうだったんだ!」

 聞いた瞬間、消えかかりそうだったモエへの気持ちが、再度高鳴るのが分かった。

 私は彼女が処女だったことにとても喜んでいるのだ。そしてそれと同時にモエが私の先を越してないことに安心したのだ。

 そうなのだ、僕とモエは童貞と処女なのだ!

 ここはやるしかない! 

 ここで自分の中の変態ギアがトップに入っていくのが分かった。

「ねえ、初めての時ってどうだった。今の彼女が始めてなの?」

 モエは私が童貞でないって言うのを聞いて、断然年頃の娘の好奇心が爆発したらしく、目をキラキラさせて質問してきた。

 いまさらじつは僕も童貞です、そして今からあなたと一発やりたいです、なんて言える訳が無かった。

 しょうがないので、たいして友達でもない学食で会った大学のチャライ奴が、偉そうに処女と寝たと自慢げに言ってた話を参考に、リアル感溢れる作り話をした。

 モエは目を丸くして、今までの中で、最高の尊敬の眼差しを向けて、私の話をうなずきながら聞いた。

 処女膜のことや痛さなど細かいことも聞いてくるのだが、その辺は日ごろの情報収集力が役に立った。モエは必要以上に感動するので話は8割増しくらいの話になってしまい。 まるで自分は、女のことは全て知っている大人の中の大人と言う感じだった。

 

 やがて二人とも眠くなってきた。

 少し言うのが怖かったが、「じゃあ、俺はソファで寝るから」とモエに言うと、いつものようにソファベットを開き毛布をかぶり寝始めた。

 彼女は戸惑ったように寝室の方へ歩いて行った。私の計算ではモエは一緒に添い寝してと言ってくるはずだったのだが、、、

 彼女が寝室に行ってもう20分くらい経つのだが、彼女が戻ってくる気配はなかった。 

 ソファの上でブランケットをかぶり、私は深く後悔していた。

 なぜ、私は正直になれなかったのだろうか?

 なぜ、私は見栄をはったのだろうか?

 なぜ、私は童貞だと言えなかったのだろうか?

 なぜ、私は正直にモエが好きだと言えなかったのだろうか?

 なぜ、私は今ソファに一人でねているのだろうか?

 だんだん酔って意識がなくなりかけてきたころ隣に気配を感じた。

 最初は幽霊かもしれないと思ったが、気配にかすかな熱気がありそうでないことに気付いた。

 目を開けていないが、モエが隣で私の寝顔を見つめているのに間違いなかった。眠かったのに一気に目を覚ました。

 やがて、モエが布団の中にゆっくりと入ってきた。

 私の寝ている右側に私に背中を向けて横たわった。目を開けて飛び上がり喜びたい気持ちを抑えて、まだ寝てるふりをした。

 真横にピタリとくっいて来たので彼女の体温が心地よい。寝ぼけているふりをして少し身体を反転させ、左手を自然に彼女の身体の上に、まるで上半身を抱きしめるように置いて反応を確かめた。

 幸い彼女は私の左手を払いのけなかった。

 この先どうすればよいのだろう? 私は童貞だ。

 彼女は、どこまで覚悟してこの狭いソファベットの私の隣に来たのだろうか?

 まさか彼女に聞くわけにはいかない。そんなダサいことはやるべきではない。

 女性は厄介な生き物なので、ただ寂しくて隣に寝たいだけなのかもしれない?

 いや、彼女は今夜処女を捨てる気で隣に来ているのは間違いない。

 頭の中にグルグルと、ゴーかバックか、どうするべきかの判断がかけめぐる。

 なかなか判断ができない私の決断を、硬直する下半身が助けてくれた。

 モエは今日処女を私に奪って欲しいと思っているに違いない。

 私は左手をスライドさせ胸の前まで伸ばすと、左手に力を入れて彼女の身体を反転させ、

仰向けにした。

 顔をおこしてモエの顔を覗き込むことをしなかった。私はまだ寝たフリをしているのである。

 寝ている感じの呼吸をして、あくまで寝ぼけて左手で引っ張ったことにした。目をつぶっていても、彼女が私の目を確認するように覗き込むのがわかった。

 左手が彼女の胸の上部のふくらみの上部のところにとどまっている。少し下にずらせば胸の頂上の柔らかさを確かめることができるのだが、脳から「動かせ」と言う命令がない。女はその迷っている左手をはねのけることはしなかった。

 彼女の胸の鼓動が左手に伝わってくる。

 お互いドキドキしているのは間違いなかった。

 胸の鼓動だけではなく彼女の息遣いまでが聞こえ始めた。

 私の呼吸さえも速くなっていることに気づいた。

 もはや寝ぼけているフリが通用しなくなった。

 思い切って目を開けた。

 モエがゆっくりと私を見る。

 20いや30センチメートル向こうに彼女の大きな瞳が見える。

 ちかい! ちかすぎる! 

 彼女はまっすぐに純粋で潤んだ瞳で見返してくるのがまぶしかった

 中指と人差し指で彼女のちょうどいい高さの鼻をなでた。

 彼女はゆっくりと目を閉じた。チャンスだ! 

 上半身を起こし彼女の唇にゆっくりと顔を近づけた。

 彼女にかわす気配はなかった。

 くちびるとくちびるがゆっくりと触れていきその面積が増えていき、それと同時にあたたかい湿った感触と彼女の熱い息が心地よい。

 実は20歳にもなってキスするのも初めてだった。

 確かめるわけにはいかないが、ひょっとしたらモエは既にキスをしたことがあるのかもしれない。それを考えると、下手くそにキスをするわけにはいかなかった。

 あまり下品にならないように、かつ、技術がないと思われないように夢中で、やさしく動かし、彼女のクチビル包み込んだ。

 舌を少し入れてみる。ピクリと彼女の身体が動いた。今度は大胆に舌を入れ込んだ。興奮してためらう暇はなかった。モエは強く反応せずそれを受け入れた。そしてだんだん彼女も激しく反応しはじめた。

 舌を絡めあうのがこんなに気持ちがいい事だと初めて知った。

 上唇や下唇をまるで飲み込むようにキスで包みこむ。お互いの唾液が交換されていく。モエの舌はやわらかく絡みついてくる。

 キスをずらしていき、顔中にキスをしまくり彼女の耳たぶをを甘噛みすると、我慢していた彼女は思わず声をだした。

 そんなことをやりながら、頭の中では「あるモノ」があるかどうかを気にしていた。

 この前キャンパスで、HIV撲滅キャンペーンをやっていてコンドームの配布を行っていた。こんなもん使う相手もいねえよ、と心の中で呟きながら無造作に通学用のバックパックの中に投げ込んだ。その投げ込んだコンドームがバックパックの底を探せばみつかるはずである。それはソファの隣にあることを確認した。中断してその中をゴソゴソしてもしょうがないので、コンドームは絶対にあることを信じた。

 見とれてしまいそうな、うるうるした瞳を見つめながら、彼女のセーターをゆっくり脱がし、ミニスカートのホックを外しスカートを剥ぎ取った。

 薄いブルーのブラジャーと、それにお揃いの色のパンティが見えた。パンティの繊維の生地が薄く肌の色や中身が想像でき、そこから伸びる白い肌の綺麗な足、それがさらに私の興奮に火を注ぐ。

 私はブラジャーを外す前に、モエを安心させる為にシャツとズボンを脱ぎトランクス一枚になった。

 童貞だと気付かれたくないのでブラジャーのホックを上手く外したい。

 頭の中で今まで見たエロビデオ等を高速で思い出す。

 ホックの形状とずらし方をすぐに判別するのがポイントだ。

 綺麗なあごの先にやさしくキスしながら左手を彼女の後ろにまわして、ブラジャーのつなぎ目を確認する。指で触って確認したところ一般的なブラジャーだと思える。

 できれば経験者のように片手で外したい。

 親指人差し指で挟んでグッと力を入れると、あっさりとブラは外れた。

 首から鎖骨のあたりを手でなぞり、口で愛撫しながらゆっくりと肩紐を外す。

 モエは恥ずかしそうに目をつぶる。

 左肩の肩紐も外し右側も外すと「白く光る丘」が見えた。最近見たエロビデオと違って少しこぶりのおっぱいに小さめの綺麗な乳首がついている。

 この状況になると段取りというよりも、本能的にそのかわいい先端にやさしくしゃぶりつく、先端は固くなっていてその周りを舌で絡めたり突いたりすると、我慢していたモエがまた声をあげる。

 左の乳首から右にかえて今度は胸の全体を舐めまわす。

 あいている右の乳首は指でやさしくトントンと触る。

 乳首はいっそう固くなり声も段々大きくなる。

 舌をだんだん舌におろしていきおへそをキスした後パンティに手をかけた。

 モエは既に濡れていて薄い生地が透けてあそこがくっきりと分かる。

 パンティをずらし始めると、恥ずかしいそうに少し腰をあげて脱がしやすくしてくれた。 そしてモエは全裸になった。

 トランクスを脱ぐと、下半身はビンビンで上にそりたっていた。


 いそいでバッドの横のほとんど空のバックパックを右手でさぐった。いつも教科書やノートをぎっちり詰めているので、それらに挟まっていなければ良いのだが、と思いながら必死でまさぐるが指にあたらない。早くしないとしらけてしまう。

 バックパックをひっくり返して!

 さがして、さがして、さがした!

 探し物はバックパックの外側のポケットの中にあった。

 時間はたいして長く無かったと思ったのだが、すごく待たせた気がした。

 モエの横に戻り横たわると、勢いよくコンドームの袋を開けた。

 コンドーム自体はセックスするときの練習を一人でしたことがあって上手につけることには自信があった。空気が入らないように装着すると、いよいよ念願の脱童貞と脱処女の儀式が恥じまる。


 挿入する前に、待たされて冷えたモエの身体を温めなおすかのごとく抱きしめ、左手を下におろし濡れ具合を探った。モエのあそこは一度拭きとっても良いくらいにびしょびしょになっていた。

 ゆっくりとモエの脚を開くと、その中に身体を入れて正常位の体制になった。しっかり目をつぶっている彼女に、興奮している自分のモノを触らせた。モエは固くなっているモノに少し驚いてピクリと動くとコンドームを確かめるように触った。

 先端を彼女の入口にあてた。ぐっと押し当てて入れ込もうとするが、なかなかスルリと入らない。

 角度が合わないのか? 

 もっとグッと押さなければいけないのか?

 未経験の私には良く分からなかった。

 やってみる! 入らない!

 そしてまた

 やってみる! 入らない!

 こんなことを何回も繰り返す。汗がこぼれてきた。

 モエもどうしたら良いのか分からない感じだった。そしてまた繰り返す。

「ねえ、ゲンはあたしのこと好きなの?」

 動きがピクリと止まった。心が動揺した。

「好きだよ」

「でも彼女いるんでしょ?」

「あ、うん」

 一瞬何を言いだしたのか分からなかったが、私には彼女がいることになっていた。

 さすがにあれは嘘だったとは言えなかった。

「こういうことって、大丈夫な彼女なの?」

「そんな訳無いだろ!」

「じゃあ 駄目じゃん!」

 なかなか返事ができなくなるところまで追い詰められる。

「でも、俺はおまえに興味があるし」

 その同級生のチャラ男曰く、彼女がいるけど浮気をする場合は、興味があるを連発すれば良いと言っていたのを思いだした。

「興味か? 興味ね?」とだけモエは返すとしばらく黙り込んだ。

 どうやらモエのように賢い女の子には「興味がある」と言う口説き方は効果的ではないのではないかと気付いた。

 なんで自分は正直に、今までに彼女さえもいたことが無い、と言えないのか?

 私の心の中での葛藤が続いたが、正直に話すというところまではなかなか行きそうに無い。賢くて英語も流暢でお金持ちで何一つ私が勝てそうにも無い完璧な女性に、自分がモエよりも先に経験しているとどうしても誇りたかった。

 「このまま寝ようか?」

 私が葛藤にもがいていると、モエはあっさりと結論を出した。

「そうだね」と私はあくまで格好つけて返事すると、モエはティッシュの箱をとって濡れすぎた部分をさっさと自身で拭き出した。

 私は哀しい気持ちで、固くなっているモノに悲しく覆いかぶさっている、たった1つしかない既に乾いたコンドームを外し、ティッシュに包んでモエが捨てたゴミ箱に捨てた。

 それは作戦の失敗を意味していた。涙が出そうだった。 私達二人は再度全裸で毛布に包まった。モエは背中を私のほうに向けて私は後ろから軽く彼女に抱きついた。

 「後ろに何かあたってますけど?」

 モエは振り返り微笑みながら、まだ勃起している私のモノが背中に当たっていることを茶目っ気たっぷりに注意した。

 「ごめん。そのうちにおとなしくなると思うから」と当分はおさまりそうも無い下半身のお詫びをすると、また沈黙になった。

 個人的に、、、なんか欲求不満だけが残るし、、、

 それに、どんな反応されるかも興味があったので、固くなっているモノをグッと背中におしつけて左手でおっぱいを揉むと、モエは左肘で私を思い切り小突いた。

それが横腹に入り、思わず仰け反って咳き込んだ。

 その間にモエは仰向けに寝ると、同じく仰向けに寝ている私の右手の指を1本ずつ交互に指を絡めるようにつなぎながら言った。

 たぶん、彼女は甘えんぼなのかもしれない。 

 そして「ちょっと残念な反面、少し安心してるの。やっぱり彼女に悪いからね。私すごくゲンのことは好きになってるんだけど、私にもまだ彼氏がいるしね。お互い恋人いない時に好きだったらしようね?」

モエの言うことは、一切のクモリもなくまっとうな事だった。

 私は「うん」と力無く返事するしかなかった。

 とは言うものの、その夜は諦めきれずに、あと2回ほどおっぱいを触りに行ったが、肘打ちが痛くてそれ以上は何もできなかった。


 その翌日から、モエとは何もなかったように学校では英語で話し、家であう時も複数で合った。そしてあのような絶好なチャンスはもう二度と巡ってこなかった。

 なぜなら、そのちょうど一週間後、彼女の親父が単身赴任でやって来て、モエは起用列な監視下に置かれたからである。

 帰国してもモエとはしばらくEメールで連絡をとりあっていたが、メールアドレスを変えたときに自然と連絡は取り合わなくなった。

 噂では彼女は弁護士になったらしい。

 やはり私には女運が無いと言わざるをえない。 結局、私が童貞を捨てたのは23歳の時で、お恥ずかしながら就職した会社のギャンブル好きの先輩におごってもらったソープランドでだった。

 ある意味私にはお似合いの場所だったのかもしれない。

 先輩と私は、ソープランド街にある江戸城という名前の中の上のお店を目指した。

 先輩はハンドルを握りながら得意げに「ソープランドは入浴料とサービス料を分けて書き、だいたい入浴料1万円の場合はサービス料がその2倍になり総額は3万円になる」ということを教えてくれた。

 その他、細かくソープ嬢の取り分とかいろいろなことを教えてくれたが、頭の中は「脱童貞」のことしかなかった。

 ソープ嬢は28歳のベテランで、長い茶髪のお姉さんだった。

 すごいテクニックで、特殊なイスに座って洗われるやいなや、そのソープ嬢はおしりを向けてきて、いきなりバックで私とつながった。

 グングンと締め付けてきて数十秒でイってしまった。

 後で先輩に教えてもらったのだが、早漏は風俗嬢に愛されるらしい。

 そのうえに、自分は「童貞です」と言ったので、何回も発射できるだけさせてくれた。

 バックで1回、騎乗位で1回、正常位で一回、あと挿入もしていないけれど、マットで1回暴発と、90分で4回も発射した。

 それでも時間があまり、サービスでお姉さんが髪を丁寧にシャンプーしてくれた。

「早撃ちマックよく頑張ったね」

 お姉さんが最後にこう声をかけてくれた。

 お姉さん曰く、時々サービスが良くなるように童貞のフリをする悪い人がいるらしい。

「あんたはまちがいなく童貞やったね!」とお姉さんにはお墨付きまでいただいた。

 帰りに、その決してイケメンではないが世話好きの先輩と、ステーキを食べながら報告会になった。まづ、先輩による克明な先ほどの情報を聞かされた後、彼は根掘り葉掘り私の話を聞いてきた。

 先輩は私が充分満足したことを知ると、満足したように「ここも俺がおごる」と言って、そのステーキ店の1万円程の食事代さえも奢ってくれた。

 太っ腹である。しかし、そのグレートな先輩は、5年後に会社のお金の横領が発覚して退職することになる。


 それからも、合コンやいろいろな会合にでて努力はしたつもりだったが、相変わらず良い女性とはめぐり合えなかった。

 この子は良さそうと目星をつけても、だいたい3回目のデートでもう会いたくないと思うような嫌な過去がでてきたりすることが多かった。もちろんその反対もあり、服のセンスが私のイメージではないと会って10分後に言われた時もある。

 その中で、なんとか交際して、セックスまでたどり着いた例を列挙してみたら、その人数はわずか2人にしか満たない。


 1人目

 性格のいい子だったが、セックス中に「うん、上手、うん、上手」と言うセックスをするのが、とても引っかかる女性だった。

 まるで、その人はセックスの先生みたいだった。やはりその女性はセックスの先生レベルで、体験の仕方がインターナショナルだった。

 いろんな国の男達と寝てるらしく、あなたはセックスの上手さが18位中6位です。

 とまじめな顔で言われてしまう。交際期間はわずか1年だった。

 別れは衝撃的で、セックスの後突然泣き出し、

「やっぱり前のアフリカンな彼氏の方がセックスが良かった」という捨て台詞を残し去っていった。


 2人目

 最高の女性だった。優しくて、思いやりもあり、真剣に結婚しようと思っていた。

 結婚のプロポーズをしたら彼女は泣き出した。あまりにも泣き方が激しいので、

「なぜそんなにうれしいのですか?」と聞いた。

 彼女は自分がずっと嘘をついたことを詫びた。人妻の遊びだった。

 とにかくこういう人達と出会っていたらあっという間に30歳を超えている自分がいた。 そして、ようやくこのような不遇な経験の後、ようやく志穂という最高の妻と知り合えたのである。

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