第46話 アップルとラズベリー

「これは邪神である私からの贈り物だ。受け取るがいい。」

 邪神は、何かを始めようとする。

「ストロベリーお姉様!?」

 ストロベリーの亡骸が動き出した。

「ブルーベリー王妃も動き出した!?」

 同じようにブルーベリー王妃の亡骸も動き出す。

「お姉様!? お母様!?」

「いったい何をする気だ!?」

 アップルとジュライは、邪神が何をしようとしているのか分からなかった。

「さあ! 邪悪を極めた邪悪の化身たちよ! 一つになり、蘇るがいい!」

 邪神の言葉にストロベリー王女とブルーベリー王妃の2つの体が1つになっていく。

「邪神様。生き返らせて下さり、ありがとうございます。」

「おまえの名前は、ラズベリーだ。今日から、邪神の使徒として生きることを許す。」

「はは。ありがたき幸せです。」

 邪神の邪悪な力により、ストロベリー王女とブルーベリー王妃が合成され、邪神の使徒ラズベリーが誕生してしまった。

「邪神の使徒!? ラズベリー!?」

 アップルは、邪悪であっても家族であった母と姉が別人に作り変えられてしまったことにショックを受ける。

「邪神! お姉様とお母様を返せ!」

「何を言う? おまえは私に感謝するべきだ。」

「感謝?」

「そうだ。私は死んだ、おまえの家族を生き返らせてやったんだからな。感謝はされても、非難される理由はない。」

 邪神は、悪びれることも無く、邪神が故に、本当に自分がアップルに感謝されることが当然だと思っている。

「おい、おまえ。邪神様に対して失礼な口をきいていると、私があなたを殺しますよ。」

 ラズベリーには、アップルが娘であり妹であることが分かっていない。

「ブルーベリーお母様! ストロベリーお姉様! 私です! アップルです! 分からないのですか!?」

 アップルは、必死にラズベリーに呼びかける。

「私は、ラズベリーだ。ブルーベリーでも、ストロベリーでもない。おまえなんか私は知らない。」

 ラズベリーには、アップルの記憶はなかった。

「そ、そんな!?」

「邪神め!? なんて酷いことをするんだ!?」

 アップルとジュライは、邪神に怒りを覚える。

「それでは、そろそろ帰ってお茶にでもするかな。今日は、なかなかに楽しかったぞ。アップル、おまえの名前は特別に覚えてやろう。神にも、よろしく言っておいてくれ。では、さらばだ。」

 邪神は、空間を歪めて、この場から去って行く。

「待て! 逃げるな! 邪神!」

 ジュライの声は邪神には届かない。

「おまえたちを生かしておくのは、邪神様のご配慮だ。ありがたく思え。」

 そう言うと、ラズベリーも歪んだ次元に消えて行った。

「お母様!? お姉様!?」

 手を伸ばすアップルの手は、ラズベリーには届かなかった。

「邪神は、なんて酷いことができるんだ!?」

「どうしたらいいの!? どうすれば、お母様とお姉様を助けることができるの!?」

 アップルとジュライは、邪神の登場により苦境に立たされる。

「申し訳ありません! アップル様!」

 その時だった。アリコ人で避難してきて、アップルがブルーベリーと名付けた母親がアップルに謝罪する。

「アップル様! 私がいけないのです! 私が娘のストロベリーが、アップル様に気に入られているので、このままお金持ちで幸せに暮らせて良ければいいなっと欲を出してしまったために、邪神に心の隙間に付け込まれてしまったのです! 申し訳ありません! アップル様!」

 泣きながらブルーベリーは、アップルに謝罪する。

「そ、そ、そんなに謝らないで下さい!? ブルーベリー!? 私も家族が恋しくて、亡くなったお母様とお姉様の名前を、あなた方、親子につけてしまったのが悪かったのかもしれません!?」

 アップルは、必死にブルーベリーをなだめる。

「いいえ!? この責任は、私が自らの命で償います!」

 ブルーベリーは、そこら辺に落ちているナイフで自分の心臓を突き刺そうとする。

「何を!? ジュライ! ブルーベリーを止めて!」

「うん! やめるんだ! ブルーベリー!」

 ジュライは、ブルーベリーの手を何とか止める。

「離してください!? 私は死んで、アップル様にお詫びします!?」

 ブルーベリーは、ジュライが止めに入っても抗う。

「やめて! お母さん!」

 そこにブルーベリーの娘のストロベリーが現れる。

「ストロベリー!?」

 娘の登場に、ブルーベリーの手が止まる。

「お母さん! もう止めて!」

 ストロベリーが泣きながらブルーベリーに訴えかける。

「私は、ストロベリーから、お母さんの様子がおかしいと相談を受けて、おまえの様子を見守った。すると、様子がおかしいかった。まさか、私のお母様に憑りつかれていたり、邪神が出てくるとは思わなかったがな。」

 アップルは、娘のストロベリーから母親の様子がおかしいことを聞いて知っていたのだった。

「そ、そ、それでもダメです!? 私は死んでお詫びを!?」

 ブルーベリーは、まだ死のうとする。

「バカ者! この子を1人にするつもりか!」

 アップルの言葉が、再びブルーベリーの手を止める。

「亡くなった家族は戻ってはこない。お前が死んだら、ストロベリーは家族がいなくなってしまう。ストロベリーのためにも生きるんだ。」

「ストロベリー。」

「お母さん。」

 ブルーベリーの手から力が抜けていく。手に持ったナイフを落とす。

「ごめんよ! ストロベリー!」

「怖かったよ! お母さん!」

 ブルーベリーとストロベリーの親子は泣きながら抱きしめ合い親子の絆を確かめ合う。

「良かったね。アップル。」

「そうね。悲しんでいる場合ではないわね。だって私は、女王だから。」

 アップルは、邪神との新たな戦いに挑むのであった。

 つづく。

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