第45話 アップルと邪神様
「邪神様!?」
アップルとジュライは、予想外の邪神の登場に地に足が着かなかった。
「母と姉を殺す妹。しかも自分が食べた者たちが生き返り、再び自分で殺すのだから、邪神として、こんなに面白い家族間殺人を見たのは初めてだ。実に愉快であったぞ。カッカッカ。」
人が死ぬ。家族間で殺し合う。邪神様には、面白いシチュエーションであった。
「あなたがお母様とお姉様を生き返らせたの?」
「そうだ。私だ。」
「どうして、そんなことを?」
「神とは、退屈な生き物でな。願えば何でもできてしまうのが、神だ。遊び道具が自分よりも弱い人間しかない。」
「人間は、おもちゃ変わりだというの!?」
「その通り。面白いぞ。人間は。一生懸命に生きても願いが叶わない者が多い。無駄な努力だ。それに比べ、コネやお金のある者は、何の努力もせずに欲しい物や地位を得ていく。お金持ちや権力者は、弱者を食い物にするのに、弱者は、人間とはきれいな生き物だと強情を言うから、死を選ぶ。この地上で、人間の命程、面白いショーはないな。カッカッカ。」
邪神は、アップルの質問に神として答えを返す。
「く、悔しい!? 確かに、その通りだわ!? 言い返せない。」
アップルは、無念だが邪神も神であると認めざるを得ないと感じさせられた。
「あなたは邪神なんでしょ?」
「いかにも。私は、邪神だ。」
「どうして、邪神なのに神様と同じ外見をしているのですか?」
邪神の姿形は、純粋な人間が好きな神様と同じであった。
「それは、私も神だからだ。私は、神が純水を保つために追い出した、神の邪悪なる心だからだ。」
「神様の邪悪な心!?」
邪神の正体は、神様の神であるために、自身から邪悪な心を追い出したものが、邪神になったのだった。
「そうだ。悪いのは、神だ。神が自分の私利私欲のために、私を切り離し、地上に邪悪な人間を生み出したのだ。」
今明かされる、地上の不幸の根源。
「そ、それでは!? 世の中に邪悪な人間が生れたのは、神様の性だというのか!?」
「その通り。神が私を切り離さなければ、私は存在しない。私が存在しなければ邪悪な人間も存在しないのだ。神が純粋でいようとすればするほど、神以外の者が邪悪になっていくのだ。」
「あ、まさか!?」
アップルは、邪神の話を聞いて、何か思う所があった。
「気づいたか。そのまさかだ。」
邪神は、アップルが何に気づいたのかを理解していた。
「おまえと、おまえの家族の人間関係だ。アップル、おまえが純粋できれいな存在でいればいるほど、汚い血で手を汚してきた、おまえの家族たちは、純粋な存在の、おまえを嫌うだろう。例え、家族であってもな。かわいい娘、かわいい妹であっても、おまえを見る度に自分の罪を思い出すからだ。」
邪神は、アップルと家族の人間関係を言い当てる。
「そして、自分の罪から逃れたい一心で、さらにおまえに危害を加える。一度汚れた者は、二度と純粋には戻れない。」
「そ、そんな。」
「おまえの家族も、おまえを見る度に自己嫌悪に襲われて、苦しんでいたのだ。おまえは、自分がいじめられていることばかりに目を向けて、自分は悪くない、自分は悪くないと自分を正当化した。そのことによって、家族のおまえに対する怒りが増幅し、より激しい、いじめになっていったのだ。」
「では、いじめられていた私に、いじめをしている者に救いの手を差し出せというのか?」
アップルは、いじめられていた側なので、邪神の話に納得がいかない。
「それもいいかもしれない。だが、自分で罪を犯したことのない純粋な者など、簡単に邪悪な人間に呑み込まれ、邪悪な人間になってしまうだろう。アップル、おまえも家族を見習って、邪悪な人間になれば良かったのだ。」
「私に邪悪な人間になれというのか?」
「そうだ。そうすれば家族全員、邪悪な人間になり、円滑なコミュニケーションがとれ、家族でいじめ合わないで、自分の地位や権力を利用した、いじめの対象が自分よりも弱くて、自分に従わない者になる。家庭の外に敵を作れば、家庭の中は家庭円満になるというのが自然の通りだ。」
「クッ!?」
アップルは、言い返せなかった。なぜなら、邪神の言っていることに嘘はなかった。なぜ、いじめが生れるのか、なぜ、家族なのにケンカするのか、を理路整然と言っているからである。それに間違いはないとアップルも認めさせられている。
「間違ってる! それは間違いだ!」
その時、黙って話を聞いていたジュライが口を開いた。
「ジュライ!?」
邪神の言葉に邪悪に呑み込まれようとしていたアップルは、ジュライの声に、ふと我に戻る。
「あなたが言っているのは、邪悪な人間側の都合のいい話ばかりだ! 神様は、神様は人間の平和を願っている。仮に自分が切り離した邪悪な心が、邪神になって、邪悪な人間を生み出しているとしても、それでも神様は、人間が幸せに生きていけることを願っている! あなたが言っていることは間違いだ!」
ジュライは、神様の生み出した神の使徒として、どこか心に純粋で温かいものがある。
「そ、そうだわ! ジュライの言う通りよ! やっぱり悪いのは、自分を正当化するために他人を傷つける邪悪な人間よ!」
アップルは、一人ではない。もし一人だったら邪神の言葉に呑み込まれていただろう。
「惜しいな。もう少しで邪悪に取り込めたものを。これも純水と邪悪の立場の違いか。それで、おまえたちは、あくまでも神である私に歯向かうというのか?」
「ええ! 戦うわ! もし私一人だったら、邪悪な人間になっていたかもしれないけど、私にはジュライがいるもの! 神とだって、戦える!」
「僕もだ! あんたが神であっても、アップルをいじめる者は、僕が全て振り払う! 温かくて優しくて純粋なアップルの笑顔は、僕が守る!」
「ジュライ、ありがとう。相手は邪神でも神よ。いいの?」
「二人なら、アップルと一緒なら、相手が神でも倒せるよ!」
「いこう! 二人で!」
アップルとジュライは、純粋に相手を思いやる心が爆発する。
「これも人のサガか・・・いいだろう。おまえたちに面白いものを見せてやろう。」
邪神は、何かをするつもりだった。
つづく。
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