第41話 アップルと別れ

「ジュライ! 私と分離しなさい!」

 アップルは、一心同体のナイトの神の使徒ジュライに自分を吐き出す様に言う。

「でも、そんなことをしたら、アップルが死んじゃうよ!?」

 ジュライは、アップルを吐き出すと、アップルは死んでしまう。

「このままでは、私だけでなく、あなたまで殺されてしまうわ!?」

「大丈夫だよ!? 僕がアップルを守るから!?」

 ジュライは、アップルを守りたかった。

「死ねえええええー! アップル!」

 ブルーベリー王妃がアップルの呪いの藁人形の心臓に爪を突き刺そうとする。

「私は、あなたを守りたい!」

 アップルは、自らジュライの体から自分の魂を切り離す。

「キャア!」

 ブルーベリー王妃の爪が呪いの藁人形の心臓を貫く。

「アップル!?」

 ジュライは、悲惨な光景を目の当たりにする。

「やったー! やったわー! 忌々しいアップルを倒したわ! ケッケッケ!」

 自分の娘を殺して、歓喜の喜びに震えるブルーベリー王妃。

「アップル!? アップル!? うわあああああー!?」

 ジュライは、悲しみに打ちのめされる。

「出来損ないのアップルが死んだぐらいで、大袈裟ね。世界のためには良かったのよ。不完全なものに用はないわ。」

 冷たくアップルの死を喜ぶブルーベリー王妃。

「な、なんだと!?」

 ジュライは、残酷なブルーベリー王妃を睨む。

「アップルは、出来損ないでも、不完全でもない!」

「出来損ないに出来損ないと言って、何が悪いのよ?」

「アップルは、アップルだ!」

 ジュライは、アップルを思う心で言うが、ブルーベリー王妃はビクともしない。

「それがどうしたの? 私がアップルに何を使用が許されるのよ。」

「おまえなんかに、アップルを殺す権利はない!」

「いいえ、あります。なぜなら、私は、母親だからです。」

 ブルーベリー王妃は、これでもアップルの実の母親である。

「母親!? 母親なら、アップルのお母さんなら、もっと娘に優しくするものだ!」

「どうして? 私には娘のストロベリーと息子のメロンがいるのよ? どうして出来損ないのアップルを可愛がらなければいけないのよ?」

「アップルは、アップルは、家族にドジっ子、ダメっ子、使えない子、いらない子と言われながらも、いつも笑顔を絶やさずに前向きに頑張って来たんだぞ! アップルには愛される権利がある!」

「分からないの? アップルのそういう所が嫌いなのよ。」

「なに!?」

「私の主人だったスイカ国王は、何人の人間を殺して、今の王位に着いた。そんな血塗れの手で、純粋なアップルを抱けると思う? 頭をナデナデしてあげられると思う? きっとスイカ国王は、娘を、アップルを見るだけで、気持ち悪くなったはずよ。汚れ無き純粋な瞳の自分の娘を見る度に、自分が国王になるために、多くの命を奪ってきたのですから、罪悪感に苛まれたはずよ。」

「そ、それは!?」

 ブルーベリー王妃の解く、亡き夫のスイカ国王の心情を妻の目線でブルーベリー王妃がジュライに語る。夫婦には夫婦にしか分からない領域がある。

「私にしても、そう。私も旦那に近づく女狐たちを、毒殺、暗殺、落とし穴にはめる。様々な手でライバルたちを蹴落として、私は、王妃という地位を得たのです。この手は既に汚れています。どうして、どうやって、この手で純粋なアップルを抱きしめられるというのですか!? 私が、ただ憎いから、アップルをいじめていたとお思いか!? アップルを見る度に自分の過ちを、自分がしてきたことの罪を感じるから、アップルに、アップルに優しくできないのです!」

 ブルーベリー王妃の目には少しの涙がこぼれていた。

「アップルが憎いから、いじめていた訳じゃない!? 自分が苦しいから、自分が腐っているから、自分が楽になりたいから、アップルをドジっ子、ダメっ子、使えない子、いらない子と、いじめていたと言うのか!? そんなことのために、他人を、アップルを、自分の娘を親がいじめていい訳がない! 」

 ジュライには、ブルーベリー王妃の言葉は汚れているように聞こえた。

「そんなの自分勝手な言い分だ! 自分が許されたいがために、罪の無い者を傷つけるなんて、人の、人間のやることじゃない!」

「そう、私は人間じゃない。私はアップルに食べられて、殺されたのだからな。子供が親を食べることは、いいのかい? 神様はお許しになるのかい? 神の使徒さんよ?」

「それとこれとは、意味が違うだろ!?」

「あら? 神様っていうのは自分に都合がいいんだね。」

「ああ言えばこう言う! そんなんだから、話合いもできないで、いじめや暴力で解決しようとしてしまうんだ! あなたみたいな自己都合で他人に自分の価値観を押し付けるから、人と人は戦いばかり繰り返すんだ!」

「人でないものが、もっとも人間らしいことを言うのね?」

「人間じゃないから、人間じゃないから、人間に憧れるんだ! 僕の憧れた人間は、おまえみたいな戦いを生み出す人間じゃない!」

 ジュライは、神様のチェスの駒のナイト。神様から命を与えられ神の使徒となったが、元々は自分の意志で動けなかったり、自由に言葉を話せなかった、物、

に過ぎなかった。

「人間は優しくて、人間は笑うことができて、人間は温かくて、人間は、人間は、僕が憧れた人間は、アップルだ! おまえなんか人間じゃない!」

 ジュライは、ブルーベリー王妃に宣戦布告する。

 つづく。

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