第39話 アップルと告げ口

「実は、最近、ブルーベリーとストロベリー親子について、悪い噂を聞きます。」

「なんだ?」

 アップルが執事のアケビからブルーベリー親子の話を聞く。

「はい。どうもアップル様が目にかけていることを鼻にかけて、街の人々に傲慢に威張り歩いているらしいのです。」

「なに? それでは母上や姉上と同じではないか?」

 アップルに嫌気を感じる。

「母上、姉上。」

 アップルは、母親と姉に、いじめられていた過去の記憶を思い出す。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが。」

「大丈夫だ。昔のことを思い出していた。」

 アップルには、家族との思い出で良かったことなど、何一つない。


「ちょっと! オーナーを呼んでちょうだい! この高級バック! 傷がついているじゃない!」

「はい!? 直ちにオーナーを呼んできます!?」

 ブルーベリーとストロベリー親子の服装は、初期の質素なものではなく、全身、高級ブランドで金ピカになっていた。

「私はブルーベリー。私の娘はストロベリーよ。」

 まるで勝ち誇ったように振る舞うブルーベリーの態度は、亡きブルーベリー王妃、そのものであった。

「どうなさいましたか?」

 そこにオーナーがやってきた。

「このバック、傷がついているわ! どう責任を取ってくれるのかしら?」

「ええ!? さっきまで傷なんかついていなかったのに!?」

 もちろん傷はブルーベリーがつけた。

「お、お母さん、もう帰ろうよ。」

 娘のストロベリーは、母の様子が、最近、変わっていくことに恐怖を感じていた。

「ダメよ。ストロベリー。私たちは、高貴な王族なんだから、庶民が私たちに従うのは当然の、義務よ!」

 ブルーベリーは、避難民のはずが、いつの間にか王族の様な振る舞いをしていた。

「ケッ、アリコ人の分際で。」

 その時、バック屋のオーナーが、ブルーベリーに楯突いてしまった。

「聞こえたわよ。あなたの汚い言葉。」

「別にいいじゃないか! その通りだろうが! パンジャに助けられたのに、恩を仇で返すような振る舞いをしやがって!」

「いいわよ。悪い言葉。怒りに満ちた表情。あのお方がお喜びになるわ。」

 自分の思い通りの展開に、歓喜にゾクゾクするブルーベリー。

「おまえなんか、アップル様に罰せられればいいんだ!」

「アップル?」

 アップルと言われて、ブルーベリーの表情が憎悪に満ち溢れる。

「あの忌々しい小娘め! 許さんぞ! 絶対に許さんぞ!」

 ブルーベリーから邪悪なオーラが放たれる。

「誰だ!? バックに傷をつけたのは!? おまえたちはクビだ! 店から出ていけ!」

「そ、そんな!?」

 優しかったバック屋のオーナーの態度が激変した。いきなり店の店員たちをクビにしたのだ。

「ブルーベリー様、どれでも好きなバックをどうぞ。」

「あら? そう。じゃあ、全部いただくわ。請求書は、アップルに送っといて。ウフフフ。」

 不敵に笑うブルーベリーであった。

「いつものお母さんじゃない!?」

 娘のストロベリーは、母親の異変に気がついた。


「それでは、復興支援に行ってまいります。」

「頼んだわよ。アップル2、アップル3。」

「それでは行ってきます。アップル様。」

「お土産は期待しないで下さい。」

 パンジャ国から、滅んでしまったアリコとナイチャに復興支援という名の植民地政策が取られる。アップル2のノアの箱舟に、邪悪な人間2000万人を乗せて、まずはアリコに向けて出発する。

「チャンス!」

 その様子を物陰から眺める者がいた。

「神の使徒が3人もいた時は驚いたけれど、これでアップル1人きりになった。」

 ブルーベリーだ。

「パンジャの国中に、自分たちの国だと思う心の狭いパンジャ人のなんと多いこと。また形見の狭い生活に嫌気のさしている難民のアリコ人の多いこと。この国には不満をため込んだ、邪な人間が溢れている。」

 ブルーベリーは、他種族の文化が混ざり合い、混沌とするパンジャの現状を楽しんでいるみたいだった。

「自分のことがカワイイ、それが人間よね。もうすぐよ。もうすぐ、私は私の国を取り戻してみせる! アップル、おまえが私を食べたように、私もおまえを食べてやる。ケッケッケ。」

 もうブルーベリー親子のストロベリーの母親ブルーベリーの面影はなく、亡きブルーベリー王妃の怨念に体が支配されていた。


「アップル様!」

「どうした? ストロベリー。」

 アップルの元を泣きながらストロベリーが訪ねてきた。

「助けて下さい! お母さんを助けて下さい!」

「何があったんだい? ストロベリー。泣いてちゃ分からないよ。ほら、泣き止んで、詳しく話を聞かせておくれ。」

 アップルはストロベリーを泣き止ます。

「お母さんの様子が変なんです。急に怒り出したり、他人に命令したり、威張りだしたりするんです。」

「まるで邪悪な人間だな。」

 アップルはストロベリーの話を聞いて、嫌な予感がする。

「安心おし。ストロベリー。あなたの優しいお母さんを私が取り戻してあげよう。」

「本当? アップル様。」

「ああ、本当だ。約束する。だから悲しまないでおくれ。」

「アップル様! 大好き!」

 ストロベリーはアップルに抱きついて喜ぶのであった。

 つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る