第36話 アップルと久々の休日と謎の声

「ふあ~! 良く寝た。」

 アップルは、クイーンの神の使徒マーチに扮した10億の邪悪なる人間の魂との戦いに勝ち、自宅のフルーツ城の自分のベットで久々に寝ることができた。

「狭い。」

 なぜか、アップルのベットで、アップル2とアップル3が寝相が悪く寝ている。

「ぐああー! ぎゃお―! zzz。」

「ギシギシ! ガチンガチン! zzz。」

「どうして可憐な私のコピーなのに、いびきと歯ぎしりをしているの?」

 この状態で眠れたアップルは、かなり疲れていたのだろう。

「こいつらも疲れているのだろう。眠らせておいてやるか。」

 アップルは、アップル2、アップル3を、そのままにして着替えて身なりを整えて自分の部屋を出ていく。

「ジュライ、もう起きてもいいわよ。」

「見てないからね!?」

「はいはい、分かってるって。」

「ジャニュアリーとマーチも、アップルにしばかれればいいんだ!」

 ジュライは、アップルの着替えを除くと殺されるので、いつも寝たふりをして、自らの安全を確保している。


「おはようございます。アップル様。」

「おはようございます。アップル様。」

「おはようございます。アップル様。」

 アップルのフルーツ家の執事アケビとメイドのアセロラとアボカドが朝の挨拶で主人を迎える。

「おはよう。みんな、元気だった?」

「はい、何の代わりも無く平穏に暮らせております。」

「アップル様こそ、少し痩せたんじゃありませんか? ご苦労なさってるいるのですね。」

「あの、そろそろ夏のボーナスの金額のご相談を。」

「みんなが相変わらずなのが、よく分かったわ。」

 普段通りの3人の態度にアップルは安堵する。

「アップル様、お二人がお待ちですよ。」

「そうね。みんなで朝食にしましょう。」

 アップルは、食卓に進む。


「おはようございます。アップル様。」

「おはようございます。アップルお姉ちゃん様。」

 なんとアップルを出迎えたのは、ブルーベリーとストロベリーのアリコ難民の名前をご褒美にもらった2人だった。

「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」

「はい。おかげさまで。娘と、いえ、ストロベリーと久しぶりに安心して眠れました。」

「お布団もフカフカモフモフだったよ。」

「そう、それは良かったわね。ニコッ。」

 楽しそうに笑うアップルを執事とメイドたちは見逃さなかった。

「アップル様は、あのアリコ人の親子に、亡きブルーベリー王妃様とストロベリー王女の名前を差し上げたというのか!?」

「なんて恐ろしい!? あの二人は真実を知っているのかしら!?」

「きっとアップル様は、本当の優しい家族が欲しかったんでしょうね。今まで、ダメっ子、ドジっ子、使えない子、要らない子って、散々、家族にいじめられてきましたからね。」

「アボカドにしては、まともなことを言うのね?」

「だって、ボーナス査定がかかっていますから。エヘッ。」

 メイドのアボカドの思考は、あくまでもビジネスライクだった。

「そう、それは良かったわね。今日はお母さんと一緒にパンジャの街並みを見てくるといいわ。」

「うん。ありがとう。アップルお姉ちゃん様。」

「アップル様、ありがとうございます。」

「本当は、私が案内をしたいんだけど、今日も会議が目白押しなので。オッホッホ。」

 アップルは、人生で初めて楽しい食事の時間を過ごした。


「これが楽しい家族の食事の時間か。」

 席を立って会議に向けて歩いて移動中のアップル。

「ドジっ子、ダメっ子、使えない子、いらない子。本当の家族からは、ずっと蔑んでゴミの様に扱われてきたのに、他人の家族の方が温かさを感じる。血の温もりを感じる。いったい家族って何なんだろう?」

 アップルは、自分をいじめていたスイカ、ブルーベリー、ストロベリー、メロンの血のつながりのあった家族を思い出していた。

「今までの私の家族と過ごした時間は、人間とは醜く邪悪な生き物だと教えてくれているようだ。私をバカにする人間は、家族じゃない。例え、血のつながりであっても、他人よりも遠い。それが私の血のつながった家族か。私の家族は普通の人間ではなかったんだ。私の家族は、笑ったり楽しんだり優しい家族ではなかった。私に食べられて当然の人間だったんだ。」

 多くの人々と触れ合うことで、血のつながった自分の家族が邪悪な人間であることが分かったアップル。少し寂しくも感じる。

「泣いているの? アップル。」

「あれ? おかしいな。悲しくないのに、どうして涙がこぼれてくるんだろう。」

 アップルの中で、本当に血のつながりのあった家族は死んだ。アップルは、もう過去の家族を振り返ることはしないだろう。


「お母さん! 早くショッピングに行こうよ!」

 アップルに促されたようにブルーベリーとストロベリーの親子は、パンジャの街にお買い物に出かけようとする。

「はいはい。直ぐに行きますよ。」

 この時、名前を手に入れて、お城に住まわしてもらって、母親のブルーベリーに心の変化があった。

「このまま順調にいけば、私の娘をパンジャの王族にできるのではないか?」

 純粋な子供のストロベリーと違って、大人のブルーベリーは、色々と世の中を知っている。

「力無くして、奴隷の様に低賃金で死ぬまで働かされる日々は嫌! どうせなら、このままお城で暮らし、アップル様の妹のように可愛がってもらえば、私の娘は、ストロベリーは私のように苦労する生活を送らなくていい。」

 ブルーベリーの思いは、ただ娘の幸せを考えたものだった。

「一層のこと、娘を女王にしてみない?」

 その時、ブルーベリーに悪魔が囁きました。

「え?」

「簡単よ。アップルを殺せばいい。」

「なに!? どこから声が!?」

「私は、あなたの心。私が、あなたの娘を王女にしてあげるわ。」

 ブルーベリーは、周囲を見渡すも誰もいない。

「アップル! おまえだけは絶対に許さない!」

 謎の声には、アップルに対する憎しみがこもっていた。

 つづく。

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