第31話 アップルとマーチの正体。

「な、なに!? 出来損ないだと!?」

 マーチは、自分に剣をさしているアップルを汚いものを見るような目で蔑んで見る。

「出来損ないはおまえの方だ。マーチ。」

「ギャア!」

 アップルは突き刺した剣でマーチの体を切り裂くように剣を抜く。そして、アップルはノアの箱舟の船上に降り立つ。

「皆さん! ここは危険です! 船から降りて下さい!」

「おお!」

 アップル2の頑張りでノアの箱舟は、パンジャ国の海岸にたどり着いていた。

「国だ! パンジャの土だ!」

「まさか生きて帰ってこれられるなんて!」

「お母さん! 早く行こう!」

「ええ! そうね!」

 一斉に船に乗っていた人々がノアの箱舟から降り始めた。

「アップル2、よく私との約束を守ってくれました。」

「・・・。」

 アップルは倒れているアップル2に寄り添うが、力を使い果たしたアップル2は返事をしない。

「人とは自分さえ助かれば、助けてもらったことに感謝もしない生き物だ。だから私が言おう。ありがとう。アップル2。」

 アップルは、アップル2に感謝して抱きかかえる。

「こらー! 私を斬りつけておいて、私を無視して話を進めてるんじゃないぞ!」

 流血のマーチが、アップルに怒鳴りつける。

「マーチ! よくもアップル2をいじめてくれたな! あなただけは絶対に許さないわよ!」

「なにをこしゃくな! おまえも、そのボロボロの神の使徒と同じ目に合わせてやる! 全てを壊して、全てを食いつくしてやる! 私は絶対に勝つのだ! 絶対に負けはせんぞ! 私こそが最強の神の使徒なのだ! キャッハッハー!」

 マーチは、執念深く、アップルに剣で斬られたのに戦うことをやめない。

「汚れたものね。」

「なに?」

「本来、純粋であるはずの神の使徒が。破壊や殺戮を好むなんて。」

「人間如き虫けらが、神の使徒である私に歯向かうというのか!?」

 マーチは、自分のことを誇り高き神の使徒であり、人間のことを蔑んでいる。

「その見下した人間に呑み込まれたな?」

「な、何を言っている? 私が、神の使徒である私が人間如きに呑み込まれたというのか? キャッハッハ! そんなバカなことがある訳ないじゃないか! 私は完全完璧最強の神の使徒なのだからな!」

 アップルは、マーチが人間に意志を呑み込まれているというが、マーチは、それを否定する。

「あなた、神の使徒を人間を食べたわね。」


 ここは、パンジャでも、アリコでもなく、滅びる前のナイチャ国に戻る。

「なんだ!? あれは!?」

「ば、化け物だ!?」

 ナイチャの空にクイーンの神の使徒マーチが現れた。

「く、口だ!? 口がたくさんあるぞ!?」

「ギャア!」

 そしてクイーンは8つある口を大きく広げ、神様の命令通り、邪悪なる人間を食べ始めた。

「やめろ!? 来るな!? 化け物!?」

「ギャア!?」

「こ、こいつ人を食ってるぞ!?」

「い、嫌だ!? 死にたくない!?」

「逃げろ!? 食われちまうぞ!?」

「うえ~ん!? お母さん!?」

「この子だけは、助けて下さい!? キャア!?」

 次々とナイチャの人々を食べていくマーチ。あっという間に人口13億人のナイチャの人口は3億人に激減した。

「死にたくない。」

「俺は偉いんだぞ!」

「なによ!? あなた何様なの!?」

「ここはどこ? お母さん!? お母さん!?」

「娘を返せ! 娘を食べたな! この化け物め!」

 クイーンの神の使徒マーチの意識に、たくさん食べて処理しきれなくなった人間の無念の意志が割り込んでくる。

「なんだ!? なんなんだ!? 私は神様の言いつけ通り、世界を滅ぼす人間の数を減らしただけだ!? なんなんだ!? この無数の邪悪な人間の意志は!?」

 マーチは、偉大なる神様が作った完全なる自分の中に、食べた人間の意志が無数に蠢いているのが分かった。

「これが人間だ。」

「人間?」

「そう、神すら食いつくすのが人間の業というものだ! キャッハッハ!」

「やめろ!? やめてくれ!? 私は神様の作った神の使徒だぞ!?」

「いただきます。ニヤッ。」

「ギャア!?」

 マーチは、自分の食べたはずの人間に、逆に意志を邪悪なる人間に食べられてしまったのだった。


 回想が終わり、元に戻る。

「おまえ、人間だな。」

 アップルは、クイーンの神の使徒マーチの正体は、人間だという。

「キャッハッハ! よくぞ見破った! そうだ! 俺は、人間だ! ナイチャ人の意志の集合体だ!」

 マーチの正体は、食べられた10億人のナイチャ人の意志の集合体だった。

「意志の集合体!?」

「そうだ。こいつが10億という膨大な同胞を食べやがった。しかし、食べ過ぎは良くねえよな。食あたりを起こして、逆に食べた人間に食われてやるんだからな! キャッハッハ!」

「何という、罰当たりな!?」

「よく言うな! おまえだって、神の使徒を食べたから、人の意志が残っているんだろうが?」

「違うわ! 私は神の使徒と共存している。邪な、あなたたちと一緒にしないで!」

「大して変わらないぞ! 俺はこれからも、人を殺して、人を食べて、世界を征服するんだ! 死んでも滅びない! それが人間の意志というものだ! 俺を殺した世界だけを残しはしない! 俺がいなくなる時は、世界が滅びる時だ! キャッハッハ!」

「なんて傲慢な!? これも人という生き物か!?」

 さすがのアップルも邪悪な人間の意志の集合体に嫌悪感を覚える。

「あなたは、あなただけは、私が倒す!」

「倒す? 俺を倒すというのか? 10臆の邪悪な人間の意志を?」

「エネルギー破も尽きて、体も剣で刺されて負傷している。今のあなたなら私でも倒せるわよ。観念しなさい!」

 確かにマーチは、エネルギー切れで、アップルに斬られて重傷である。

「それはどうかな? 俺には10臆の人間の頭脳がある。これならどうだ?」

 マーチは口で、アップルを攻撃する。

「まだ抵抗する気!?」

 アップルは、攻撃を回避する。

「かかったな。俺の狙いは、こいつを食うことよ。」

「しまった!?」

 マーチは、倒れているアップル2こと、キングの神の使徒ジャニュアリーを食べ始めた。

 つづく。

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