第32話 アップルとアップル2の意志

「アップル2!?」

 アップルを攻撃した目的は、倒れているアップル2から引き離すことだった。

「神の使徒は、どんな味がするんだろうな?」

 マーチは、アップル2を口にニヤニヤしながら咥えて、よだれを垂らしている。「アップル2を放しなさい!?」

「嫌だね。俺は神の使徒を食べて、さらに強くなるんだ! ああ! そうさ! 俺は神の使徒の精神を食いつくした人間の魂だ! 1体食おうが、2体食おうが関係ない! 全て食いつくしてやるぜ! キャッハッハ!」

 邪悪なる人間の意志がマーチの体を支配している。

「いただきます。」

「キャア!?」

 マーチがアップル2を丸飲みして、グチャグチャと口の中で噛み砕いている。

「アップル2!?」

 アップルは、アップル2を助けるためにマーチに飛び掛かる。

「キャッハッハ!」

「うわあ!?」

 しかしマーチは、アップル2の力を取り込み眩しい光を放ち、アップルを弾き飛ばす。 

「うまい! これが神の使徒の味か! なんて美味しいんだ! 力が漲ってくるぞ! 俺はクイーン以上の力を手に入れたのだ! そう、いうなれば、私は、キング・クイーンだ! キャッハッハ!」

 マーチの枯渇していたエネルギーは回復し、アップルに斬られた傷口も塞がっていた。

「アップル2が食べられちゃった!?」

「アップル!? マーチの傷が塞がっちゃってるよ!?」

 アップルとジュライは、目の前の想像を超える事態に手も足も出なかった。

「そうだ。おまえも確か、出来損ないの神の使徒だったな。2体の神の使徒が融合して、これだけの力を手に入れることができるんだ。」

「何を言っている!?」

「おまえも食べてやろう。」

「なんだと!?」

「俺の養分に慣れることを感謝するがいい。さぞ、3体の神の使徒の融合は、更なる力を俺に与えてくれるはずだ。この世界は俺が征服して、みんな、みんな、滅ぼしてやる! キャッハッハ!」

「こいつ完全に壊れている!?」

「人間の塊だ。欲望や野心、自分勝手、自己中、サイコパス、なんていったらいいのか分からないほど、邪悪な人間の集合体になってしまったんだ!?」

 人間は、存在自体が罪なのかもしれない。

「ねえねえ、ジュライ。」

「なに? アップル。」

「あいつを食える?」

「オエーッ。」

 アップルの問いかけに吐き気を催すジュライ。

「やめてよ!? あんなの食べたら、逆に僕とアップルの意識も食べられちゃうよ!?」

「チッ、やっぱり無理か。」

 悔しがるアップル。

「何をぶつくさ言っている! 死ね! 食ってやる!」

「食われてたまるか!」

 マーチが8つの口でアップルを攻撃する。

「早い!?」

「さっきまでのマーチとは比べ物にならない位、口のスピードが速くなっている!?」

「どうだ? これが神の使徒2人分の力だ! おまえを食って、俺はもっと強くなるのだ! 人間の欲望に限界はないのだ! キャッハッハ!」

 マーチの攻撃に、どんどん追い込まれていくアップル。

「こうなったら。本体である奴を直接攻撃して倒すしかない。」

「分かった。一か八かの作戦だね。」

「いくわよ! ジュライ!」

「おお!」

「愚かな。フンッ。」

 アップルとジュライは、決死の覚悟でマーチを攻撃する。

「覚悟!」

 アップルは剣を構えて、マーチの懐に飛び込む。

「甘いな。俺がキングも食べたことを忘れているんじゃないか?」

「なに!?」

「俺には9つ目の口があるんだよ!」

 マーチの体からキングの口が現れる。

「しまった!?」

 大きなキングの口は、アップルを呑み込んでいく。

「いただきます。これで俺に3体目の神の使徒の力が宿るのだ! キャッハッハ!」

 グジュグジュ音をたてながら、アップルはマーチに食べられていった。


 マーチの体内の精神世界。

「ああ~食べられちゃった。」

 アップルはマーチに食べられてしまった。

「なんて悲しむと思ったら大間違い! 既にジュライに食べられたことのある私には何の意味のない攻撃だわ。」

「予定通り食べてくれたね。」

「そうね。外から倒せないなら、中から破壊する。名付けて、神の代理人、アップル寄生虫大作戦!」

「ちょっと残念なネーミングだね。」

 アップルとジュライは、マーチに食べられることは計算のうちだった。

「アップル2、準備はできた?」

「はい。アップル様。私の中にある、アップル様の意志を細菌として、マーチの全身にバラまいておきました。」

「ありがとう。こいつを倒したら私が神の名において、必ずあなたを甦らせるから安心してね。」

「約束ですよ! 食べられる時、本当に怖かったんですから!」

「私も食べられる瞬間は嫌だなあ。口の中で舌がまとわりつく感じが嫌だな。」

「分かる。僕もアップルと一緒に混ぜられるのはいいんだけど、ミンチに噛み砕かれるのはゲッソリするよ。」

 そう、アップルは自分が食べられることに慣れていたのだった。

「邪悪なる人間の魂か、神の使徒だけなら全て食べ尽くせたかもしれないけど、1番の誤算は、アップルがいたことだね。」 

「覚悟しなさい! 邪悪なる人間の魂たち! 神様に認められた純粋種の私の恐ろしさを教えてあげようじゃない。神の偉大さを思い知るがいい! ウッシッシ。」

「アップル、笑い方が怖いよ。」

 マーチに食べられたが、逆にマーチの体を乗っ取った10億の邪悪なる人間の魂との戦いが始まる。

 つづく。

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