第14話 アップルと他の王族
「あれがアップル様か。」
「まだお若いな。フルーツ家は大丈夫なのか?」
「噂では、ドジっ子、ダメっ子、使えない子、いらない子とご家族からも浮いていた存在だったと聞いている。」
国葬が行われていた。アップルは黒い喪服を着て、父親のスイカ国王、母のブルーベリー王妃、姉のストロベリー王女、弟のメロン王子の遺影の横に立っている。
「これで次の国王は私のものだな。」
「やめろ、今は国葬の最中だ。多くの国民が見ているぞ。」
「おっと、王位については明日の会議で話合うことにしよう。」
そして、国王が亡くなったことを悲しむどころか、次の王の座を狙って、他の王族たちが国葬の裏で暗躍するのであった。
「私は喪主を務めます、亡き国王の二女アップルです。本日は私の父であり、この国の全ての国民の父でもあったスイカ国王の葬式に、お忙しい中、参列して下さった皆様に感謝申し上げます。これだけ多くの国民が父を慕ってくれていたのだと知れば、天国の父も笑顔で喜んでいるでしょう。」
アップルの喪主の挨拶が始まった。
「私の家族は国の王ではありますが、私にとっては普通の父、母、姉、弟でした。いつも笑顔で明るく元気で前向きな、とても仲の良い家族でした。」
「・・・。」
「シクシク。」
アップルの家族を慕う言葉に、葬儀という静寂の中に涙を流す者も多数いた。
「なんと堂々とされていのだ!?」
「どういうことだ? 聞いていた話とアップル様のイメージが違うぞ?」
「国王の子は、王女ということか。」
他の王族たちは、喪主として凛々しく振る舞うアップルの姿に、抱いていたアップルのだらしない子というイメージを改める必要に迫られていた。
「今回の大虐殺事件で皆様も心を痛めたり、日々の生活に不安を感じられていることと思います。そこで私から、国民の皆様にご報告したいことがあります。今回の国王、国王の家族を殺害の犯人を倒しました。」
「おお!」
「犯人を倒したんだって!?」
「国王を殺した犯人を、あんな小娘に倒すことができるのか!?」
アップルの発表に、葬式会場の国民たちは憶測や不安からヒソヒソ話でザワザワする。
「犯人は、人間ではなかったのでしょう。私が剣を突き刺すと姿は消滅していきました。」
「嘘をつくな!」
「そうだ! そうだ! 小娘に何ができる!」
アップルの話に一部の国民から卑怯なヤジが飛ばされた。
「生き残った私が証人だ!!!」
「!?」
少し言葉を荒く怒鳴ったアップルの声に、会場のヤジが静かになる。
「私は倒さなければ、犯人に殺されていた。無我夢中で、家族の敵を討つというより、自分が生き残るだけで必死だった。」
演説をするアップルの手足は緊張からか、それとも家族を殺された所を思い出しているのかと国民に想像させるように声まで震えていた。
「私は私の父が大切にしていた国民の皆様の不安を拭えるのならと、敢えて勇気を振り絞って発表することとした。この国に殺人犯は、もういない! 皆さんは、今まで通り安心して暮らしてください! 愛する家族と共に!」
「おお!」
「アップル様は、なんて勇気があるんだ。」
「ありがたや、ありがたや。」
「良かったね。お母さん。」
アップルの発言に、民衆は今まで通り暮らしていけることに安心と喜びを感じる。
「皆さん、私の新しい家族になってくれませんか? 私はお父様の意志を継ぎ、この国の女王になります!」
「おお!」
「なんて可愛らしい女王様だ!」
「アップル様は家族を殺されて、一人ぼっちなんだね。」
「よし! 私たちがアップル様の家族になろう!」
「アップル女王様! 万歳!」
「アップル! アップル! アップル! アップル!」
葬式会場は、国民のアップル新女王就任を祝う会場へと変貌した。多くの国民が自分よりも年下で、家族を失った、カワイイ娘に同情し、自分が新しい女王様を支えるんだという気持ちが芽生えた。
「ありがとう! みんな! 私、がんばる!」
笑顔で手を振り大衆の期待に応えるアップルは、多くの国民から支持を取り付けることに成功したのだった。
「なんというカリスマ性!?」
「あっという間に国民の支持を得たぞ!?」
「これでは簡単に王位から退ける訳にはいかなくなった!?」
「何を弱気な。あんな小娘如きに。」
「そうです。次に王の座に着くのは、我々5人のうちの誰かです。」
明日の会議で一波乱を起こしそうな王族たちであった。
国王家族の国葬も無事に終わり、帰路を馬車で帰るアップル。
「ああ~疲れた。」
「アップル、お疲れ様。」
「ありがとう、ジュライ。お葬式って、意外と大変なのね。人が死なないようにしなくっちゃ。」
「それにしても、ビックリしちゃった。アップルって、演説が上手なんだね。どこかで勉強したの?」
「してないわよ。勉強も練習も。ただ、人は英雄を求める生き物なのよ。」
アップル、英雄にまで上り詰める。
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