第11話 アダムとイヴ

「どういうことだ!? 神の使徒に人間の意識が混在しているだと!? 神の使徒と人間が友達になるだと!? 神の使徒と人間が結婚をすると言うのか!?」

 神様は、畳み掛ける想定外の事態に、混乱を極めていた。

「神様、僕とアップルの結婚を認めて下さい。」

「私からも、お願いします。」

 神の使徒ジュライと人間のアップルが、神様に二人の交際の許しを請う。

「こんな人間が!? 食われた人間が!? 私の作った人間如きが!?」

 神様はアップルの顔を見て、神の理解できない出来事を、神である自分の不知の出来事を引き起こした人間に怒りが込み上げてくる。

「消してやる。どうやら、おまえは欠陥品のようだ。人間に意識を乗っ取られるとは。神の使徒が人間に取り込まれようとは。情けない。その邪悪な人間もろとも、おまえを消し去ってくれるわ!」

 神様は、アップルの意志を消すために、自分で創った神の使徒ジュライごと消し去ることを決めた。

「邪悪な人間じゃない! アップルは、邪悪な人間じゃないぞ!」

「なに?」

「アップルは純粋な人間です! ドジっ子、ダメっ子、使えない子、いらない子と言われ続けても、いつも笑顔で元気に前向きな、人と争うことをしない純粋な人間です!」

「なに!? それは確かに純粋な人間だ。」

「そこで納得されると、私は複雑なんですけど。」

「神様! 僕のことは消し去っても構いません! ですが、アップルだけは、お救い下さい!」

「ダメよ!? ジュライ、私はあなたのいない世界で一人で生きていくなんて、悲し過ぎるわ。神様! 消し去るというなら、私とジュライ、二人一緒に消してください!」

「いつも、いつまでも一緒だよ。アップル。」

「はい。あなたのいる所が私の居場所です。ジュライ。」

 神の前でも、ジュライとアップルの愛は揺るがなかった。

「ムムムムムッ!? これはどういうことだ!? 私の作った神の使徒が私に歯向かうだと!? この人間の娘の言葉も嘘はついていない!? んん!? まさか!?」

 神様は、一つの結論にたどり着いた。

「純粋種!? 純粋な人間だというのか!? この愚かに腐りきった邪悪な世界を滅ぼす存在の人間が星の数ほど犇めく中で、この娘は汚れ無き純粋な心を保っていたというのか!? 信じられん!? 純粋な心を持った人間など絶滅危惧種だぞ!?」

「ジュライ。私よりも1分でも1秒でも長く生きて。」

「どうして、そんなことを言うの?」

「愛する人のいない世界は残酷すぎるから。」

「アップル。約束するよ。僕はアップルより長生きする。」

「ありがとう。」

「あ!? 今の約束は無し!」

「どうして?」

「死ぬ時は一緒だから。アップルが死ぬ時は、僕の死ぬ時だから。」

「クスクス。」

「なぜ笑うの!?」

「きっと私たちは、あの世でも幸せね。私にはあなたがいるから。」

「うん。僕も幸せだよ。アップルに出会えて。」

「なんだ!? なんだというのだ!? これこそ純粋な愛!? 私が人間に期待していた、愛し愛される仲睦まじい人間の姿だ!? まるで、この二人は、先代の神々が幸せな世界を作ることを望んで地上に産み落としたという、初めて生命を宿した人類!? アダムとイヴとでもいうのか!?」

 ジュライとアップルの互いを思いやる姿を見て、争ってばかりの人間を嫌っていた神様の心境に変化が現れた。

「人間、おまえは何者だ!?」

「私は、ジュライの妻にです!」

「なんと!? 人間、おまえは神の使徒の妻になるというのか!?」

「はい。」

「その者は、おまえを殺した者だぞ!? おまえを食べたものだぞ!? それでもおまえは神の使徒に嫁ぐというのか!?」

「はい。食べられてみないと分からないこともあります。私は、初めて食べられて、愛を感じたんです! 私はジュライを愛しています!」

「ムムムムムッ!? やはり人間という生き物は、創りし神の想像を遥かに超える生き物のようだ。いいだろう。おまえたちの交際を認めてやろう。」

 遂に人間嫌いの神様は、ジュライとアップルの愛し合う心を信じることにした。

「それでは!? 僕とアップルを許していただけるのですか!?」

「やったー! やったわー! ジュライ! 私たち助かったんだわ!」

 笑顔で手を取り合って喜ぶジュライとアップル。

「ゴホン。」

 軽く間を取るように神様は咳払いをして、ジュライとアップルの視線を自分に向ける。

「神として問う。おまえたちは、生きて何をするというのだ?」

「エデンを作る!」

 ジュライとアップルの貫き通す意志は、神の国、理想郷を作るというのだった。

 つづく。

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