第10話 アップルと神様
「行くよ。アップル。」
「はい。ジュライ。」
ジュライは、鎧騎士の背中についている羽を大きく広げ、地面を蹴って、大空に羽ばたく。
「キャア!?」
アップルは、空を飛んだことが無いので、空を飛ぶという行為に恐怖を感じて目をつぶる。
「大丈夫。怖くないよ。アップル、目を開けて。」
「う、うう・・・う!?」
初めて見る空の景色の雄大さにアップルの恐怖心は吹き飛んだ。
「うわ~あ! きれい! 空からの景色なんて、初めて見たわ!」
アップルが初めて空を飛んで自分の目で見た景色は美しかった。地上に生きる人間には見ることのできない景色が自分の前に広がっていたのだった。
「すごいでしょ。僕は神様から空を飛ぶことを許されているんだよ。」
「ジュライって、すごいのね。」
「エヘヘッ。」
「人は空を飛べないから、ソワソワしちゃう。ねえ、落ちたりしないよね?」
「落ちないよ。僕がアップルを落とすはずがないだろ。アップルとなら、どこまでも飛んで行きたいな。」
「私も。ジュライと一緒なら、空でも、宇宙でも、世界の果ての果てまで飛んで行きたい。」
その時、アップルがジュライの変化に気がついた。
「ジュライ。」
「なに?」
「さっきから自分のことを僕って言ってるよ?」
「変じゃないよ。カッコイイ。」
「僕は男になる。アップルが女だから、僕が男になって、アップルを守るんだ。」
「ありがとう。私を守ってね、ジュライ。」
「はい。」
二人は天空に舞い上がりながら愛を確かめ、スピードを加速させていく。
「いざ! 神様の元へ!」
アップルとジュライは、神様の住む別世界へと進む。
「来たな。ジュライ。」
次元を超えるとアップルとジュライは、神様の目の前に着いた。
「ただいま戻りました。神様。」
神様は具合が悪いのか、ベッドの上で読書をしていた。
「どうやら顔と声を手に入れたようだな。」
「はい。神様の言いつけ通り、人を食べて手に入れました。」
ジュライは、アップルを食べて、アップルの顔と声を手に入れた。
「そうだろう。地上の人間は醜くかっただろう。自分のことばかりで、他人を思いやる心を捨てて、私利私欲のために、剣だの、戦車だの武器や兵器を作って争ってばかりだ。自分たちの生活のためなら木を切り倒し、森を破壊してしまう。森に住む動物や鳥のことは何も考えない。それが人間という生き物だ。増えすぎた人間の人数を減らさなければ、この世界は滅んでしまう。」
神様は、長年、地上の人間の残虐な姿を見てきて、人間の数を減らすことを決断して、神の使徒を地上に送り出した。
「神様って、よっぽど人間が嫌いなのね。」
「そうだよね。」
「な、な、な、な、な!? 人間がしゃべった!?」
神様は予想外の出来事に驚いた。自分の作った神の使徒と人間が喋っているのだ。
「んん?」
アップルは不思議そうな顔で神様を見つめる。
「ど、どういうことだ!? なぜ人間と会話ができるのだ!? ジュライよ! 私に分かるように説明しろ!?」
「え? 僕は神様に言われたように、人間の数を減らすために、いっぱい食べました。人間の女の子を食べたら、顔と声を手に入れました。」
「それは分かる! そうなることは分かっている! 私が知りたいのは、なぜ私の作り出した神の使徒に、人間の意志があるのか!? ということだ!」
「顔と声を手に入れると同時に、アップルの意志も僕の中に現れたんです。」
「アップル?」
「アップルです。初めまして。ニコッ。」
鎧騎士のフルヘイスのマスクを開けて素顔を晒したアップルは、結婚する旦那の両親に挨拶するように、作り笑顔でにこやかに挨拶をする。
「これは驚いた!? 私が作った神の使徒に、醜い人間の意志が存在するなど、有り得ない!? あってはいけないのだ!」
神様は、神の使徒の中にアップルの意志が存在することに不快感を示す。
「神の使徒の意識も奪い取ろうとする悪しき人間よ! おまえの意志など、私が消し去ってくれるわ!」
「やめて下さい!」
その時、ジュライは親でもある神様に反抗する。
「なぜだ!? なぜおまえは、私の行動を止めるのだ!?」
「アップルは、僕の友達です!」
「友達? 神の使徒が人間と友達になれる訳がなかろう!?」
「僕はアップルと結婚します!」
「け、結婚だと!?」
神様の予期せぬ出来事を、神の使徒ジュライと人間のアップルが巻き起こしていた。
つづく。
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