第74話 ルーンの助言


 セシルは街の中に倒れている人々を治癒しながら悪鬼を倒していく。だがこのままこんなことを続けていても埒が明かない。

 ディアボロスを何とかしないことには際限なく湧いてくる悪鬼を止めることができない。


「お姉ちゃん、あいつを何とかしようか。」


「ルーン!?」


 突然声をかけてきたのは銀髪の少年ルーンだった。相変わらず神出鬼没だ。


「なんとかってどうやって? 力も速度も魔法も桁違いに強くて歯が立たないんだよ。」


「僕は悪魔だから本当なら同族の倒し方を教えるなんてことはしないんだけど、お姉ちゃんのためだから教えてあげるよ。あいつも悪魔だからきちんと手順を踏まないと力押しでは勝てないよ。」


「一体どうすれば……。」


「悪魔は聖女が苦手だ。なぜか分かる?」


「ううん。」


 その理由を考えはしたけどどうしても分からなかった。ゆっくり考える余裕などなかったが。


「えとね……」


 ルーンがディアボロスの倒し方を説明してくれる。あの悪魔が聖女を嫌う理由はちゃんとあったのだ。そしてそれはとてもシンプルで納得できるものだった。


「あいつは僕よりも完全体だ。この王都で今も着々と人々の魂を食らって強くなり続けている。だからなるべく早く決着をつけたほうがいいよ。」


「分かった。ルーン、教えてくれてありがとう。」


 にっこり笑ってルーンに礼を言うと赤くなってそっぽを向く。


「いや、いいよ。本当に調子狂うなあ、お姉ちゃんは。この王都には闘技場がある。そこなら多少でかい精霊術を使っても周りに被害がいきにくいと思う。」


「闘技場……。」


「うん。だから僕が奴をそこへ誘う。お姉ちゃんは闘技場へ向かって。お姉ちゃんの仲間にも後で合流してもらうように伝えるから。」


「分かった。でも大丈夫なの? 誘うってどうするの?」


 セシルにとってルーンはどうしても自分よりも年下の幼い少年に見えてしまう。ディアボロスを誘うなんて何をするつもりなんだろうと思うと心配だ。


「大丈夫。奴と話すだけだよ。聖女が闘技場で待ってるって。あいつは聖女を嫌っているから必ず来る。」


「そう……無理はしないでね。」


「うん、ありがとう。それじゃまたね。」


 ルーンはそう言って地面から浮き上がりそのままディアボロスのところへ向かった。


「嘘……。ルーン、空を飛べるんだね。」


 人間が空を飛ぶという現実離れした光景に一瞬目を疑う。だがこうしている場合じゃない。気を取り直しセシルは闘技場へ向かうことにした。




◆◆◆ <ルーン視点>


 ルーンは上空へ飛んでディアボロスのところへ近づき対峙した。ちなみに今は黒髪で見た目20才くらいのヌルの姿だ。既にラフィを憑依済みである。


「お前悪魔なのか……? まさかこんな所で同族に会うとは思わなかったぞ。」


 ディアボロスが怪訝そうにこちらを見ながら尋ねてくる。自分以外の悪魔が珍しいのだろう。


「うん、僕もだよ。この町の地下に同族が封印されているのは感じていたけどまさか出てくるとはね。それにしても派手にやってるみたいだけど楽しい?」


「ああ、楽しいぞ。この町の人間の魂は全部私のものだ。お前にはやらんぞ。」


「へえ、魂に固執するなんて不自由だね。」


「不自由、だと……?」


「うん。魂を取り込んでまで強くなりたいのはなぜ? 怖いからじゃないの?」


「何が言いたい……。」


 ディアボロスが険しい表情を浮かべルーンを射殺さんばかりに睨みつける。

 セシルはもう闘技場へ到着したかな? そろそろ頃合いだね。艶然と微笑みながらさらに話を続ける。


「君の大嫌いな聖女から伝言。全力で君を止めるから闘技場へ来いだってさ。」


「なんだと……?」


「僕は何にも執着しないから毎日楽しい。だから不自由な君を気の毒に思うよ。じゃあね。」


 ルーンはディアボロスにそう言いおいて悪魔の目の前から飛び去った。




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