第10話 買い物と魔道具製作 <ソフィー視点>
ソフィーの朝はいつも早い。日の出前に起きて顔を洗ってそれから朝食の準備を始める。
まずは玉ねぎとソーセージのスープを作る。
昨日セシルからもらったワイルドボアのお肉を昨夜のうちに塊のまま焼いて味つけして煮こんでおいた。
味の浸みたそれを薄切りにしてほうれん草と炒める。それをお皿に盛りつけパンとスープと一緒に準備する。
「お父さん、セシル、朝ごはんだよ!」
「……うん、……おはよう、ソフィー」
セシルとお父さんを起こす。
「お父さん、体の調子はどう?」
「ああ、セシルとソフィーのおかげでもうだいぶ体力も戻ってきたよ。今日一日休んだら明日からは仕事に行くよ。あまり長くも休んでいられないからな」
「もうお父さんたら。あんまり無理してまた悪くなったらどうするの?」
ソフィーはまだ安心できない。ベンノはすぐ無茶をするからだ。
「ベンノさん、あんまり無理しないほうがいいですよ」
「そうよ、お父さん。セシル、もっと言って!」
「まあ大丈夫だ。仕事仲間に迷惑かけちまってるからな。早く復帰しないと。それじゃ、食べるか。ソフィー準備ありがとうな」
「「いただきます!」」
セシルは女の子にしてはすごくよく食べる。お父さんと同じくらい食べるかも。それが強さの秘密なのかな?
最初に助けてくれたときは彼女のことを男の子だと思った。すごく強かったし。でもそのあとに大丈夫?って微笑んでくれたときすぐに女の子だって分かった。とても可愛かったんだもの。
黒髪に金の瞳ですごく睫毛が長くってびっくりするくらい綺麗だ。なんで皆が男の子だと思うのか理解できない。
そして彼女はとても優しい。ゴブリンの討伐だってお金のためじゃなくって村人を助けたかったからだって言ってた。
ベンノを助けてくれたときもそうだったけど本当に優しい。
強くて、綺麗で、優しいなんて最高じゃない?
「セシル、パンとスープお替りする?」
「うん、する!」
それでいてほんと可愛いんだから。
朝食を終えたあとセシルが食器を洗ってくれた。そのあと何かを思いついたように話しかけてきた。
「ソフィー、今日は何か予定がある?」
「特にないけどどうしたの?」
「うんとね、お風呂入りたいから浴槽を置かせてもらえないかと思って。もし邪魔ならわたしがいる間だけでもいいんだけど」
お風呂かぁ。高い宿屋にはあるって聞いたことがあるけど使ったことないな。でもどこに置いたらいいだろう?
「それは全然構わないけどどこに置いたらいいかな……」
「んーとね、浴槽を周囲が水に濡れないようにするための防水の結界を張る魔道具にするから、周りから見えない所なら大丈夫」
お風呂かぁ。入りたいなぁ。思い切ってセシルに聞いてみよう。
「セシル、お風呂ができたらわたしも使わせてくれない……?」
「いいよ! じゃあさ、あとで一緒に買いにいこうよ」
「うん、わたしも買い物があるし、一緒に行こう」
家事を終わらせたあと、ベンノに留守番してもらって家を出た。そしてセシルと一緒に商店街へ向かう。
商店街に到着した。商店街は広場の西にある通りにあって路地を挟むようにいろんなお店が立ち並んでいる。市場は1本北の通りだ。生鮮品はいつも市場で買っている。今の時間はそれほど混んでいないみたいだけどいつも人でいっぱいだ。
セシルからもらったワイルドボアのお肉をどうするか悩んでいた。
たくさんお肉をもらったけどうちは冷蔵できないから彼女のバッグにまだ入れてもらってるのよね。
そうだ、お肉屋さんに行ってベーコンとソーセージに加工してもらおう。
「ねえ、セシル。先にお肉屋さんへ行ってもいい? 貰ったお肉をベーコンとソーセージに加工してもらおうかと思うの」
「うん、いいよ。そうだ! ねえ、冷蔵庫作ってあげようか?」
「えっ、何それ!?」
冷蔵庫って何!? 初めて聞く言葉だ。なんだか今日はびっくりすることがいっぱいね。
「浴槽作るときに一緒に作ってあげるよ。炊事場に置いておくといいよ」
お肉屋さんでワイルドボアの肉の加工を頼んだあと、セシルと一緒に浴槽が売っているお店へ向かった。
浴槽が売っている店に到着した。店はかなり高級な感じで身分の高い人が出入りするんだろうなという内装だった。
店員さんも高級な燕尾服を着ていたけど案外丁寧に対応されてほっとした。汚い客は来るなって言われなくてよかった。
セシルはいろんな浴槽が並んでいるのをしばらく見ていた。そのあとライムストーンとかいう石でできた薄い茶色のマーブル模様の浴槽を選びお金を払ってバッグに入れた。大銀貨30枚もした。あんな大金見たことがなかった。
大きなものをバッグにしまうのを見ると店員さんがびっくりするかと思った。初めて見たときはソフィーもびっくりした。だって大容量バッグなんて普通の人は持っていないもの。
ただ店員さんが言うには、この店では浴槽を買うような人は結構お金持ちで大容量バッグ持ちが多いのであまり珍しいことではないそうだ。
本当にセシルっていったい何者……?
浴槽のお店へ行ったあと、別のお店でセシルは1辺70センチくらいの箱を買った。密閉性の高い蓋つきの箱である。
そのあと食材をいくらか購入して家へ戻った。
家に到着してすぐにセシルはバッグから購入した箱を取り出して目の前に置いた。箱を目の前にしてセシルがワキワキしているように見えるのは気のせいだろうか。
「じゃあ、先に冷蔵庫を作ろうか。この部分に魔法をかけるんだよ」
セシルはそう言って買ってきた箱の蓋を外し、本体の上辺周りに手を当てている。どうやら触りながら魔法をかけているようだ。
「……よし、これでできた。この中に保存したい食材を入れてね。少しは長持ちすると思う。本当は時空間魔法をかけたほうがいいのかもしれないけど、うっかりソフィーが落ちちゃうと危ないからね」
冷蔵庫もうできたの! 思わず驚いてしまった。箱の中に手を入れるとひんやりする。
せっかくだしさっき買ってきた野菜を入れよう。早速買ってきた食材を纏めて冷蔵庫に入れて蓋を閉める。
「次は浴槽を作ろう。まずは場所を決めようか」
そう言われてセシルを家の奥の倉庫へ連れていく。ここなら人目に持つかないしいいかもしれない。
「入口からも見えないし水が漏れないならここでいいと思う」
「じゃあここに置くね」
セシルはそう言って買ってきたライムストーンの浴槽をその場所に置いた。それから浴槽に手を当てて目を瞑る。
「まずは防水の結界。そして洗浄魔法………これでよし」
彼女が魔法をかけると浴槽が一瞬光ってすぐに元に戻った。
「次にこれ」
彼女はバッグから直径3センチ程の大きさの魔石を2個取り出した。
「これに温水を出す魔法を込める。で、こっちには排水する魔法」
彼女は魔石にそれぞれの魔法を込める。温水魔石は浴槽の上10センチほどのところに埋め込み、排水魔石は浴槽の排水栓のところに埋め込んで再び栓をする。
「温水魔石は水に浸かると、魔法が止まるようにしとく。排水魔石は栓を開けると水が全部石に吸い込まれる。お風呂にお湯を貯めたい時は、この魔石に触るとお湯が出てくる。もう一度触ると止まる。お湯の温度の調整はできないけど、魔石がお湯につかっている間は最初の温度を維持してくれる」
なんだかすごく高機能で驚いてしまう。知識も技術もセシルは凄い。
「なんかすごいね……。魔石や道具に魔法を込めるってどういう仕組みなの?」
「うんとね、対象に魔法で見えない魔法陣を書き込むんだ。工程が多ければそれだけ複雑な魔法陣になる。例えば水を生み出す魔法陣と、その水を加熱する魔法陣を重ねると、温水が生み出される。発動や停止するきっかけについての魔法陣も重ねる。全部おばあちゃんに習ったんだ」
魔法陣とかソフィーには全く分からないけど、なんだか難しそうなことを簡単にやるセシルって本当に凄い。
「セシルもすごいけど、セシルのおばあちゃんもすごいのね……」
「うん、おばあちゃんはすごいんだ! あとすっごく強いんだ」
セシルは満面の笑みでそう答えた。ソフィーは彼女の顔を見ていたらおばあちゃんを大好きな気持ちが伝わってきて胸がほわりと温かくなった。彼女のおばあちゃんってどんな人なんだろうな。いつか聞いてみよう。
「早速お湯を張ってみよう」
セシルはそう言って温水魔石に触れる。すると魔石からお湯が出てきた。モクモクと蒸気が上がっている。
「これずっと同じように使えるの?」
「うん、魔法っていうのは体内の魔力を使うんだけど、実はこの大気中にも魔素っていう魔力のようなものがあってね。魔素を取り込む魔法陣を書き込んだ魔石や魔道具は、空気中の魔素を取り込んでエネルギーを貯めるんだ。魔石にはもともと多少の魔力はあるけど無限じゃないからね。大きな魔石は蓄積量が多いし、一度にたくさんの魔法陣を行使することができるから価値が高い。言ってる意味わかる?」
「うん、なんとなくは。ずっと使えるってことね」
よく分からないので笑って答えた。セシルはお風呂のお湯に手を浸してしばらく考え込んだ後もじもじしながら恥ずかしそうにソフィーに尋ねた。
「ソフィー、あのさ。お風呂、先に入っていい……?」
ソフィーはそんなセシルを見て、ほんとに可愛いんだから、とまた心の中で呟いた。
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