第9話 完了報告


 セシルはザイルの町に戻り冒険者ギルドへ向かう。町は行きかう人々が多く既に夕方の喧騒に包まれている。

 ギルドに到着したあと討伐完了の報告をしようとカウンターへ向かった。カウンターにいたのは昨日と同じ受付嬢のレーナだ。


「こんにちは、レーナさん。討伐完了の報告に来ました。これがゴブリンの魔石です。ゴブリンは雑魚が11体で、ボスのゴブリンロードが1体でした。合わせて計12体です」


 いつもより少し声のトーンを落としてレーナに告げたあとカウンターに魔石を置いた。彼女は驚いたように魔石を見てそのままセシルに目を向けた。

 今の場合もそうだがこれまでの周囲の反応を見る限り、どうやら自分のような子供がゴブリン討伐をするのはかなり稀なことのようである。昨日の『てんぷら』のようなトラブルを避けるためになるべく目立たないほうがいいと思った。

 揉め事は避けるのがベターだ。


「……C級のゴブリンロードと11体のゴブリンをあなた一人で倒したんですか!?」


 レーナが驚きの声をあげる。お願い、声を抑えて……。


「はい、なんとか……。できれば他の冒険者に分からないようにしていただけると助かります。僕みたいな子供が魔物の討伐をするとまた他の冒険者に絡まれるかもしれませんから。だからボスの首は解体場で出してきます」

「分かりました。……本当にセシルさんには驚かされてばかりです。なるほど。確かに目立たないようにしたほうがいいかもしれませんね。では奥の解体場へどうぞ」


 促されるまま解体場へ行き、デニスにゴブリン討伐の旨を伝えゴブリンロードの首を差し出す。ゴブリンロードの首の額にある刺青のような痣を見た途端デニスは驚いて声をあげる。


「おいおい、それはゴブリンロードか!? まさかまた一人で討伐したってんじゃないだろうな……」


 レーナさんと同じような反応に思わず苦笑してしまう。


「はい、僕一人でやりました。魔石はカウンターに出してきましたが、首はどうしましょうか?」

「いや、まあ首はゴブリンロードをやったって証明にはなるが特に素材になるわけじゃない。こっちで処分しておこう。特にゴブリンロード単体の討伐依頼が出ているわけじゃないから依頼完了報酬はそのままだな。だがこれはお前の討伐記録に記載しておこう。昇級が早まるかもしれん」


 ゴブリンがゴブリンロードに進化した場合ゴブリンの額に刺青のような痣が浮かぶ。これで首だけでもゴブリンロードのものだと判断できるのだ。

 それはともかく別に昇級はしなくてもいいんだけどな。ああ、でもランクが上がると今回のように人助けしやすくなるのかなぁ? うん、でもやっぱり今は目立ちたくないな。

 興奮したように話すデニスにちょっと逡巡して答える。


「いえ、特に今のままのランクでいいです。あんまり目立ちたくないんです。てんぷらがあるかもしれないので……」

「てんぷら? なんだそりゃ……。まあいいや。昨日のワイルドボアは解体終ってるから肉を持っていってくれ」


 そう言ってデニスが冷蔵室から5匹分の肉が入った袋を渡してくれたので、すぐにそれをアイテムバッグに入れる。

 カカシ村でギュンターさんに手持ちのお肉全部渡しちゃったからな。これだけあればソフィーにもたくさんお裾分すそわけできる。喜んでくれるかな?

 それをさっさかバッグに放り込んで解体場を出て受付カウンターへ向かった。




 受付カウンターでレーナさんと話す。


「セシルさん、こちらが依頼完了の報酬になります。大銀貨15枚になります。ゴブリンロードが居たということですので難易度はかなり高かったでしょうが、報酬は依頼時のものとさせていただきます。申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です。問題ありません」


 すぐに買取りのお金をバッグにしまいレーナにお礼を言って冒険者ギルドを後にした。

 カカシ村も救えたと思うし初めての依頼は成功した。そしてお金もお肉も手に入った。全てが上手くいってとても満足だ。

 もう既に辺りは薄暗くなっていた。急いで貧民街スラムへ向かう。ソフィーの家に着くと2人が笑顔で迎えてくれた。まるで自分の家のようでほっとする。そして二人の顔を見られてとても嬉しかった。


「ただいま、ソフィー、ベンノさん!」

「おかえり! 大丈夫? 怪我はない?」

「おう、おかえり! ゴブリン討伐はうまくいったかい?」

「うん、特に怪我はない。討伐も無事完了したよ。ただわたしが行ったときにはもう犠牲になってた人がいてね……」


 ゴブリンの犠牲になった若者と彼の死を悲しんでいた婚約者の女性のことを思い出しながら、カカシ村での出来事を二人に話して聞かせる。


「ふむ、なるほどな……。俺は魔物と戦ったことがないからあまり分からないんだが、ゴブリンはそんなに強くないのか?」

「ええ、単体はそこまででも。ただ奴らは基本群れで行動する習性があるんです。だから大体ゴブリンの集落へ行くと10体以上は居ることが多いんです。群れるとそれなりに工夫しないと無傷で討伐するのは普通は難しいと思います」


 セシルの話を聞いてソフィーが感心したように言った。


「セシルって本当に強いのね……。私を助けてくれたときも思ったけど、女の子で私と同じくらいの年でそんなに強い子なんて見たことないわ。ううん、大人でも見たことない」

「うん、そのことなんだけどね。ちょっと今回思ったんだけど、あんまり派手に動き回るとまたてんぷらになるでしょ? だからこれからはなるべく目立たないようにやろうと思うの」


 絡まれて人を傷つけるのは嫌だし時間も無駄にするしね。


「……う、うん、もう十分目立ってたような気がするけど、揉め事が起こらないようにするのがいちばんね」

「そうだなあ。冒険者ギルドには時々柄の悪い冒険者がいるからな。目立たないようにするのが得策だろう。出る杭は打たれるっていうしな」

「ええ、そうですね……」


 ただ冒険者とのトラブルを避けたいだけじゃない。あまり注目を集めて聖女の孫である自分の素性がばれるのが怖い。一応幻影ミラージュのペンダントで髪の色を黒髪に偽装してはいる。だけど自分は若い頃のおばあちゃんそっくりらしいので、目立って王国の間諜の目にでも留まったらきっと面倒なことになる。




 2人と楽しく会話をしながら夕食を済ませた。そのあと魔洗浄クリーンを自分にかけて体を綺麗にしてからそのまま寝床に入らせてもらった。

 ああ、浴槽を買ってきて置かせてもらうのを忘れてた。そんなことを考えながら横になった途端、多分かなり疲れていたのであろうセシルはあっという間に深い眠りについた。




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