第11話 初めてのパーティ


 今日セシルは一人で冒険者ギルドに来ていた。まだ朝8時くらいだがギルドの中は何人もの冒険者たちでざわめいている。ここは本当にいつ来ても活気がある。

 周囲の様子を伺いながら掲示板を見にいく。またどこかで魔物の被害にあっている人がいるんじゃないだろうかと不安になる。カカシ村のことを思い出すと今でも胸がきゅうっと苦しくなる。


 掲示板を見にいく。するとDランクの依頼のところにレーフェンの町への護衛というのがあった。護衛対象は薬師の商人の親子二人と書いてある。うん、普通の人だけで旅はつらいよね。魔物もいるし。依頼日がだいぶ古いようだけど受ける人が居ないのかな? 困っているんじゃないのかな?

 早速その依頼書を手に取ろうとすると後ろからポンと肩を叩かれ声をかけられた。


「その依頼を受けるんだったら俺も加えてもらえないか?」


 声の方へ振り返ると180センチくらいの長身で、筋肉質だけど細身で引き締まった体つきの若い男が立っていた。背中に大きな剣を背負っていて短い黒髪と黒い瞳が印象的な彼がにこにこしながらセシルを見ていた。笑顔が爽やかで好青年といった印象だ。

 感じのよさそうな人だと思ったので彼の提案を受け入れることにした。


「こちらこそよろしくお願いします。僕はセシルといいます。Fランクです」


 そう言って右手を差し出すと黒髪の青年はセシルの右手を握り返してにかっと笑って答える。


「俺はケントっていうんだ。Dランクだ。よろしくな!」


 ケントは何とセシルよりも2ランクも上の冒険者だった。足手纏いにならないか心配だ。

 ケントと握手を交わしたあと受付へ護衛の依頼書を持っていく。彼が受付のレーナさんに依頼書を渡す。


「この依頼をここにいるセシルと俺で受けたいんだが」


 そう言ってギルドカードを差し出すと彼女はカードを確認して答えた。


「Dランク冒険者のケントさんとFランク冒険者のセシルさんですね。お二人のみのパーティでよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「かしこまりました。依頼料は完了報酬で全員で大銀貨10枚です。ではこの町の『止まり木』という宿屋に行って、そこに宿泊しているマルコさんという方に会ってください」

「わかった。ありがとう」


 ケントはにっこり微笑んでレーナさんに答えた。

 ああ、なんだか大人の冒険者がいるとスムーズに運ぶなあ。いちいち過剰に反応されないし。彼の存在がありがたい。

 それから彼はセシルに向かって尋ねる。


「今からすぐ依頼人に会いに行ってもいいか?」

「はい、大丈夫です」




 それからケントと宿屋『止まり木』へ向かった。到着してすぐに宿屋の主人にマルコを呼び出してもらう。

 ロビーで待っていると、30代後半くらいの男とセシルと同じくらいの年のちょっと気の強そうな少女が2階から階段を降りてきた。


「貴方たちが冒険者の方ですか?」

「はい、ギルドで依頼を受けてきました。冒険者のケントです」

「同じく冒険者のセシルです。よろしくお願いします」


 挨拶をすると男はちらっとセシルの方を見たあと嬉しそうに話し始めた。

 やっぱりセシルが子供なのが気になるのかな?


「そうでしたか。私がマルコです。依頼を引き受けてくださりありがとうございます。最近近くの村でのゴブリン被害の話があり、護衛を引き受けてくださる方がなかなかいらっしゃらなくて本当に困っていたのです。この子は娘のアルマです」

「アルマといいます。よろしくお願いします。ねえ、貴方たちも親子なの?」


 アルマの唐突な言葉にケントは驚いて、少しむっとしたように言い返した。


「いやいやさすがに親子はないでしょう。俺は25ですよ。この子は冒険者仲間です」

「あら、そうなの……。貴方みたいな子供が冒険者……」


 アルマはそういうと繁々とセシルを見つめる。この反応にはもう慣れてきていたが少しむっとしてしまう。でも今日はケントが一緒だから依頼を引き受けるのに特に問題はないだろう。

 マルコが「失礼なことを言うんじゃない。」とアルマを諫めて話を続ける。


「目的地はレーフェンの町です。荷馬車で向かいますが一晩野営をしたとして大体1日半かかります。ここからだと途中で野営をすることになると思います。到着するまでの食事や毛布などはこちらで準備します」

「分かりました。出発はいつにしますか?」

「できるだけ早く出発したいので、貴方たちがよければ今から1時間後にでも待ち合せましょう。私が御者をやります」

「分かりました。それじゃ1時間後にまたここへ来ます。準備をよろしくお願いします」


 ケントはそう言ってセシルを連れて宿を後にした。




 宿を出たあと街の広場まで歩いていた。依頼の打ち合わせしてもらって助かったのでケントに向かってお礼を言う。


「ケントさん、ありがとうございます。打ち合わせしていただいて助かりました。ギルドの依頼を受けるときには子供相手だとあまりいい顔されなくて」

「さんづけも敬語もいらないよ。まあそうだろうな。子供が冒険者ってのは確かに目立つよな」

「そうなんで……そうなんだよね。初めてギルドに行ったときも『てんぷら』にあって大変だった」

「天ぷら? ああ、もしかしてテンプレか?」


 ケントはセシルの話を聞いてけらけらと笑った。


「他の冒険者に絡まれたのか。それでそのときはどうしたんだ?」

「剣を突きつけて脅したら逃げていったよ。連れの女の子に手を出そうとしてたから」

「へえ、やるじゃないか。しかし、その年でガールフレンドか……。そらお前絡まれるわ。俺なんかもう何年も彼女いないんだぜぇ。お前美少年だからなー、モテるんだろうなー。爆ぜろ」


 美少年て……。喜んでいいの? 爆ぜろって何?


「ガールフレンドじゃなくて友達……。そういうケントだって……いや、なんでもない」

「うぉい!」


 なんだかケントと話してるととても楽しい。お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな……?

 宿屋を出て彼と話しながら市場へ向かう。


「おい、なんか食ってこうぜ。早めの昼飯だ」

「まだお昼までに時間があるけど……なんかいい匂いだね。あ、串焼きおいしそう!」


 そんな話をしながら串焼きやらパンやらいろいろ買い込んだ。そしてケントと広場のベンチに座って串焼きにかぶりつく。なんか楽しいなぁ。

 あ、護衛任務は日帰りできなさそうだからソフィーに断っておかないといけない。黙って行くと心配させちゃうかも。

 2本ほど串焼きを食べたあと彼に向かって話す。


「まだ時間があるようだから、ちょっとお世話になってる家へ行って数日留守にするって伝えてくるよ」

「ああ、そんじゃ時間になる前に宿屋に集合な」


 一度ケントと別れたあとソフィーの家へ向かった。




 ソフィーの家に着くと彼女が一人で掃除をしていた。ベンノさんは今日から仕事に行っている。大丈夫だろうか。ちょっと心配だ。

 早速彼女に護衛の件を伝える。


「ソフィー、今日ギルドで護衛の依頼を受けて数日町を離れることになったんだ」

「えっ、そうなの。じゃあ、ご飯はお父さんと二人きりかあ……」


 ソフィーは寂しそうに俯いた。

 皆で食べる食事は美味しいもんね。そんな彼女と時間の許す限りお喋りをする。

 そしてあっという間に約束の30分前になった。


「それじゃ、ソフィー。行ってくるね! ベンノさんによろしくね。」

「うん、いってらっしゃい。絶対に絶対に気をつけてね!」


 そう言ってソフィーが笑って送り出してくれた。後ろ髪をひかれながら貧民街スラムを後にする。




 約束の時間の前に『止まり木』に到着すると既にケントが来ていた。


「ケント、もう来てたんだね。待たせてごめん」

「いや、まだ約束の時間まで少しあるしマルコさんはまだ来てないからな」

「そういえば護衛で何か気をつけることある?」


 護衛の仕事は初めてだから経験のあるケントにちゃんと聞いておきたい。


「そうだなあ。まず配置を決めようか。俺がマルコさんの横の御者席に座って前方と左右を見張る。セシルはアルマちゃんと一緒に荷台に乗って後方の見張りを頼む」

「分かった」


 うん、聞いててよかった。護衛って魔物退治と全然違うものね。


「それでお前は何が使えるんだ? 剣は使うようだが」

「僕は剣と魔法だよ。ケントはやっぱり背中のそれ?」

「おう、俺はこの大剣だ。腕力はあるからな。あと魔法は使えねえ」


 そういえばケントからは魔力を全く感じない。魔法を使う使わないに関わらずソフィーやベンノさんでも多少は魔力がある。全くないって人は初めて見たかも……。世の中にはそういう人もいるのかな?

 そんなことを考えているうちにマルコとアルマが宿から出てきた。


「お待たせいたしました。それでは行きましょう。お二人とも、よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


 マルコはそう言って幌馬車に乗り手綱を取る。アルマはひょいっと荷台に上がり荷物のチェックをし始める。ケントとセシルも馬車に乗り込む。

 セシルは少しワクワクしながら、これから長い道のりを経て向かう初めてのレーフェンの町に思いを馳せた。




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