第2話 幸福パフォーミングタイム
——なるほど、面白い話を聞いた。
とある喫茶店で、1組の男女の会話を、興味深そうに聞いている男がいた。
男は隣にいた工事の仕事の休憩中だという男性との会話を切り上げ、コーヒーの代金を支払い、店を出た。
理論とは、実験をもって、確立されるものである。
欲と幸せの関係を知るため、男はまず、幸せを用意した。
男は、魔法使いだった。
そして魔法使いは、世界で1番無欲な人間を探した。
N国にいる男性だということがわかると、男は早速、N国へむかった。
その男性は、ヤギの世話をしていた。魔法使いが声をかけると、男性は「少し待ってください」と言い、家に引っ込んだ後、しばらく経って再びでてきた。
「何か用でしょうか?」
「突然ですが、あなたにこれを」
魔法使いは、開いた手を、手のひらが上に向くように差し出した。手の上が、ほんのりと光っていた。
「これは?」
「幸せです」
男性は目を丸くした。しかし、この男性は人を疑うということを知らなかった。
「それなら、私より必要としている人がいるでしょう。恵まれない方に、あげてください」
「いえいえ、きちんと皆さんに配っていますよ。今回、あなたの番だっただけです」
「そうなんですか」
魔法使いは嘘をついたが、男性は信じた。
「では、ありがたく」
魔法使いが、男性が差し出した手の上に光を乗せると、光は男性の中に入っていった。
「どうですか?」
「最高ですよ!こんな幸せな気持ち初めてです!こんなものがあったなんて!」
男性は、幸せな気持ちでその日の残りをすごし、満面の笑みで眠った。
次の日、魔法使いが昼食の準備をしていると、男性が駆け寄ってきた。
「どうされました?なにか不備でも?」
「いいえ、あれは素晴らしかった!あんな幸せを知らないなんて、私は損でしたよ。一生、不幸に過ごすところでした」
「それは良かった」
「ところで、まだ幸せはありませんか?」
男性は、そんなことを聞いてきた。
「はい?」
「いえ、私はあの生活が最高に幸せで、それ以上欲しいものは何もない、そう思っていたのです。しかし、そうでないと分かった。なら、あなたから貰った幸せを全身で感じていること今より、もっともっと、幸せな生活もあるんじゃないか、と思いまして」
魔法使いは興奮した。無欲が幸せを産んだのに、幸せは欲を産んだのだ。
「いえ、今はもうありません」
「そうですか……」
「では僕は、これで」
魔法使いは、知りたいことをしれたため、昼食を放って帰ることにした。
「さ、最後に一つだけ!どうしたらもっと幸せになれると思いますか!?」
「さあ。僕にはわかりかねますが、お金があればもっと暮らしは良くなると思いますよ」
「……お金、ですか。ありがとうございました」
「それでは、お元気で」
突然の烈風に男性が目をつぶり、再び開けると、魔法使いはもう、いなかった。
「……お金、か」
誰もいない空間に、その独り言はよく、染み渡った。
しばらくしてN国では、手口が同じ窃盗が相次ぎ、警察の懸命の捜査の結果、一人の男性が逮捕された。
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