第7話
「ジル…貴方それ本気で言ってるの?」
リナは目を吊り上げながら僕のことを睨みつけていた。
「そうすることであいつらがここを去るならそうしたほうがいいんじゃないかって…思って。」
「…………。」
リナの隣にいるカーラは椅子に座ったまま、ただ床を見つめているだけで黙っているままだった。
「信っじられないっ。街のみんなは貴方に行って欲しくないから今まで匿ってきていたのがどうして分からないのかしら…。彼等は貴方のことを連れて行ったとしても、私達の街に何するかなんてわからないでしょ?今まで命令に従わずに貴方のことを匿ってきたんだから…。だから…私は反対よ。」
「でもそれじゃ、ジャンやみんなに危険がっ。」
「分かってるって言ってるでしょっ。私は絶対に反対よっ。貴方があいつらについて行くって言うのなら私は貴方を止める。それだけよ。」
リナはその場から立ち上がると玄関の扉の前に立つ。
「リナ…。」
リナの瞳は揺らぎ潤んでおり、肩は小刻みに震えていた。
「こっちに来たら張り倒すから…。」
彼女は震える声で僕にそう告げる。
僕はどうしたものかと思い、チラっとカーラの方を見る。
カーラは僕の視線に気づくと何も言わずに二階の奥を指差していた。
どうやら自分の部屋に戻れとのことらしい。
二人の威圧に負けた僕は彼女が言っていたように自分の部屋へ向かって歩いて行く。
廊下を歩いていると後ろから足音が聞こえてきた。
僕は立ち止まり、後ろを振り返る。
「私もリナさんと同じ考えなので、監視に来ました。」
カーラはそう言いながら僕の方へ近づき、ピッタリとくっついて来た。
「そんなにくっつかなくても何処へも行かないよ。」
「ええ、分かってますよ。これは私がくっついていたい為にやっている行為です。」
彼女は僕に微笑みかけてくる。
何だか少し照れくさくなり僕はすぐに顔を背けた。
これも彼女の作戦なのかもしれない。
こうして僕を惚れさせて彼女から離れさせなくするための。
とか気持ちの悪いことを考えながら僕は自分の部屋へ入り椅子に腰を下ろした。
彼女はというと今度は僕の後ろへ回り込み、床へしゃがみこむと頭を背中に預けて来た。
「…リナさんはよほど貴方のことがお好きなのですね。」
「ユージンにも同じようなことを言われたよ。僕にはあまり分からないけど…。」
「そうでなければあんなふうに貴方のことを止めようとはしないはずですよ。」
「君だってこうして僕のことを監視してるだろ?」
「ええ、それはそうですよ。同じですから。」
何が同じなのだろうか…、彼女の言葉の意味がわからずに僕は首を傾げていた。
「僕は…どうすれば良いのかな。」
「普通、それを私に聞きますか?まぁでもまずは街がどうなっているかを知るのが…いいかもしれませんね。」
「街の状況を知ること…。」
「ええ、そうすれば何か方法が見つかるかもしれません。ただ…その為にはリナさんを街に行かせるしか方法はありませんが…。」
それは危険すぎる。
リナはまだ15の少女だ。
彼女を一人で街へ行かせるのは僕は反対だった。
「貴方の考えも分かります。ですが今、動けるのは顔が知られていないリナさんだけでは?もちろん、私も着いては行きますが…街に詳しいのはリナさんだけなので…。」
「それはそうだけどやっぱり二人だけじゃ…。」
「大丈夫ですよ。私、貴方よりも強いですから。」
後ろを見ると腕を上げ力こぶを作っている彼女の姿が見えた。
なんとも可愛らしい姿だがやはり少し不安になる。
「やっぱり僕も…。」
「ダメです、貴方はここでユージンさんの治療に専念してください。私達なら大丈夫ですので。」
何処からそんな自身が湧いてくるのだろう。
でも、ここは彼女達の言うことを聞かなければ僕の考えも聞いてくれなさそうだから彼女達の言う通りにすることに決めた。
「…分かったよ、だけど絶対に無茶だけはしないでくれよ。二人が戻ってこないのは嫌だからね。」
「ええ、私も貴方と会えないのは嫌ですから必ず…戻って来ますよ。」
立ち上がると彼女は部屋を出て行った。
本当に彼女達で大丈夫なのだろうか。
しばらく座っていたが落ち着かずに立ち上がると部屋を出て行く。
玄関の方へ走って向かうと話し声が聞こえて来た。
「ってことは私達だけで街の様子を見に行くわけね、分かったわ。だけど少し心配ね、ジルがこの屋敷から出て行かないか…。」
僕は急いで隠れて二人の会話を盗み聞きしていた。
「それなら心配いりませんよ、私がきつく言っておきましたから。あの部屋から一歩でも外へ出たらリナさんとお仕置きをするってね。」
一瞬、カーラの目が僕の方をチラッと見た気がする。
「ふふふっ、それなら心配はいらなさそうね。」
「ええ、心配はいりません。それにしてもそこまで心配するなんてリナさんは余程ジルさんのことが好きなのですね。」
二人の方からガタッと音がなるのが聞こえ、すぐにリナの大声が聞こえて来た。
「ななななっ何を言ってるのよっ!!!わっ私はただあの人がっ!!」
「ふふっ、そんなに大声を出してしまったら聞かれてしまいますよ。」
本当に彼女は人をからかうのが好きなのだろう。
彼女の言葉を聞いたリナは大きく息を吸い、自分を落ち着かせていた。
「ふぅ…まったく、やめてよ。私はただあの人が私の弟を助けてくれたから…その…。」
「分かってますよ。ふふっ…ふふふっ…。」
「分かってなさそうだけど…。」
リナはもの言いたげな目でカーラを見ている。
カーラは僕が見ていることに気づき、僕とリナをからかって楽しんでいるようだ。
「話を戻すわよ。それで私は街に戻って様子を見て来たら良いのね?その時に弟を連れて来ても良いかしら。あの子はまだ身体の調子が良くないから。その…ちょっと心配で…。」
「私は全然、構いませんよ。一人で暮らすのにはちょうど飽き飽きしていましたので。」
「本当に…連れて来ても良いのね?ありがとうカーラっ!」
リナはすごく嬉しそうにカーラへ飛びついていた。
こうしてみると二人は仲の良い姉妹に見えてくる。
僕がそんなことを考えながら二階から覗いているとカーラは僕の方を向き、リナにバレないように手を振っていた。
やっぱりカーラには僕のことがバレていたようだった。
「ふふっ…ではそろそろ行きましょうか。夜が明ける前に街の様子を調べに。」
「朝みたいに明るい方がいいんじゃないの?」
「夜のが動きやすいですよ、見つかりそうになっても暗闇が姿を消してくれるので…。」
「そう…分かったわ。それじゃ、行きましょうか。」
二人は仲良く並びながら扉の前に立つ。
「ジルさんに挨拶はしなくても良いのですか?」
「あのバカを不安にさせたくないから…ね。パパッと行ってパパッと帰ってきて村は何も異常はなかったわって伝えて安心させてあげるの。」
「…そうですね、では行きましょうか。」
僕は隠れていた場所から顔を出し、二人のことを覗き込むとカーラが僕の方を見て口を動かしていた。
か な ら ず も ど り ま す。
そんなことを言っているような気がする。
だけど何故か心の中にモヤモヤとした感情が現れ始める。
あのまま彼女達を行かせても良かったのだろうか、やっぱり僕も着いて行くべきではなかったのか。
そんなことを今更になって考えているとユージンの部屋の方から声が聞こえてきた。
すぐにユージンの元へ急ぐとユージンは胸を押さえながら苦しんでいる。
僕はすぐに治療を開始し始めた。
そしてしばらくしてユージンは落ち着きを取り戻し、窓の外を眺める。
カーテンを開けた窓からは陽の光が入り込み、僕のことを照らしていた。
日が昇るまでには彼女達は帰ってくるはずだ。
だが次の日の朝を迎えても彼女達は帰ってこない。
彼女達のことが心配になり、彼女達の元へ向かいたかったがユージンのこともあり、屋敷から出ることはできなかった。
そして彼女達が街へ向かってもう3日目の夜を迎えようとしていた。
ユージンの容態は少しづつ良くなり、僕は彼の新しい義足を作りながら彼女達の帰りを待っていた。
ユージンの容態がもう少し良くなってきたら僕は彼女達のことを探しに街へ向かう予定だった。
僕は義足をユージンの枕元へ置く。
いまいちの出来だがしばらくはこれでユージンは歩くことができるだろう。
あとは彼女達を追いかける準備をするだけだった。
だが突然、屋敷の扉が開かれる音が聞こえ僕は玄関へ向かう。
「カーラッ、リナッ!!!!」
僕は二人の名を叫びながら玄関へ向かう。
そしてゆっくりと玄関の扉が開かれて行くのだった。
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