Climax/無敵の女友達
気がつくと、私は暗い部屋ではりつけにされていた。
とりあえず叫んでみる。
「私にエッチなことするつもりでしょ!?エロ同人みたいに!」
常套句だが、はっきり言ってそれならまだましだ。
「
果たして、予想はその通りだった。
それより驚きなのが、私がいつの間にか海を越えていたことで、さらに驚きだったことは……
私たちの
ニコラ博士の声は、しばらく会わないうちにおぞましく枯れ果てていた。
ニコラ博士は語る。
自分が“
この前私たちを襲った尖兵――ホムンクロイドは彼の作品であること。
彼が
あの日、屋敷に火を放ったのは博士自身で、観測機の反応から
だが、彼自身も花蓮が反射防衛的に放った
そして、その結果全身をサイボーグ化した強大なボディを手にしたこと――
「博士、あなたは善良な心の持ち主だと信じていたのに」
吐き捨てるように私が言う。
それに対して、マッド・ニコラはこう答えた。
「科学者にあるのは善でも悪でもない、真理への興味だよ。君も、あの石のことを調べている間はワクワクしただろう?」
しばらくして、花蓮がホムンクロイドに連れられてやって来た。
「……だから嫌だったんだよ。もし私がヒーローなら、ヒロインは絶対雛里だってわかってたから」
花蓮の目は、まっすぐ私を見つめていた。
胸部のアミュレット――スーツにペンダントは流石に似合わなかった――の示すアルカエストの容量はかなり減っており、傷が激しい戦闘を思わせた。
マッド・ニコラが鋭利なアームを伸ばして花蓮の顔を持ち上げる。
「ようやく私の元に来たな、“
ニコラは優しく言った。だが、その優しさは花蓮ではなく花蓮の中の石に向けられていた。
「さあ、月並みな言葉だがこう言おう。あの女を殺されたくなければ、抵抗するな」
私の前に、ビーム発射口を構えたホムンクロイドが現れた。
が、私が考えているのは別のことだった。
「大丈夫よ、花蓮」
私は不敵に微笑んだ。
もうそろそろ、時間だ。
「最近のヒロインは強いのよ、知らなかった?」
轟音を立てて、室内に端末が落下する。
『
端末がレーダーで花蓮のアミュレットを捕らえ、信号を送る。
信号を受けたアミュレットからプラズマが放出され、端末へと供給される。
「殺せ!」
ニコラが叫んだ。
「無駄よ。『現実は、私の思い通りになる』」
その言葉と共に、端末が変形し右手がガントレットに覆われる。
フルアーマーじゃないのはただの技術力不足だ――どのみち、エネルギーコートを展開するからそこまで関係ないのだが。
拘束を引きちぎり、私を監視していたホムンクロイドたちをダウンさせる。
「花蓮!さあ!」
後顧の憂いは絶った。あとは私のヒーローの出番だ。
合図と共に花蓮が戦いをはじめる――アルカエストの容量は減っていたが、それでもこれぐらいを相手取るのは余裕だった。
やっぱり、スーパーヒーローの相手はスーパーヴィランじゃないとね。
花蓮は瞬く間にホムンクロイドたちを倒し、私を助け出した。
残るは博士だけだ。
「これで逆転よ、ニコラ博士」
私が宣言する。
「ふん、私がこれまで何も学ばなかったとでも?」
不気味な宣言と共にニコラ博士が窓から飛び降り、その直後巨大な鋼鉄の手が殴り込んできた。
巨大アーマーはちょっと想定にはなかったな……。
部屋に大穴が出来て視界が広くなったことでわかったのはここが廃ビルで、場所がニューヨークだということだ。
あの人、町中で何てもの出してるんだろう。
ニューヨーカーは落ち着き払ってた。
映画か何かだとでも思ってるのかな。うん。
「どうしよう、雛里?」
花蓮が問う。
「ニューヨークはヒーローの巣だから大丈夫……って言ってもその前にやられそうね。もうすぐマーク3が来るから、それまで頑張って耐えましょう」
ヴィランがいたのだから、ヒーローもいてほしい。
是非とも。
だが、それを言うなら私たちがすでにそのものだった。
廃ビルはすさまじい早さで解体されていった。
花蓮はその崩れ行くビルの瓦礫を軽快に飛び回り、隙を見て殴り付ける。
だが、ニコラのアーマーは一瞬崩れるものの、すぐ再生する。
ナノテクは最初の敵としては強すぎだ!
「花蓮!物理は効かないわ!」
そう結論付けるしかない。なるほど、物理無効ってこういう耐性なんだな。私の妙に現実離れした部分がそう思った。
花蓮は回り込み、アーマーの背中をプラズマブラストで貫く。
だが、これも照射が終わればやはり復元した。
「対策をしなかったとでも?」
ニコラが問いかける。
そりゃそうだ。私だってそうする。
そうこうしているうちにニコラの手がこちらに伸び、慌ててガントレットで殴り付ける。
思ったより手応えあるな。ナノテクっていうぐらいだからもっとぐにっとした……
「これ、ホムンクロイドが組体操してるだけじゃない!」
気付く。ナノテクでも何でもない。
とんだ子供だましだ。
「だが、そんな子供だましにもお前たちは勝てない」
ニコラが花蓮を強く叩きつけ、彼女が私のもとまで降ってくる。さらに、止めを刺そうとビームを撃つ構えだ。絶体絶命ってやつか……。
そんなことをふと考える。
その時だ。
待ちに待ったマーク3がとうとう届いた。
「時間を稼ぐから、その間に着替えて!」
あいにくワンタッチでは装着できない。
時間が必要だった。
ガントレットを展開し、障壁を構築する――あいにく、花蓮と違って私のエネルギー効率は悪い。
ニコラのビームが放出される。想定より強い!
ガントレットのパワーを引き上げ、どうにか耐える。
だが、徐々に限界を迎えつつあった。
……ニコラのビームはともかく、ガントレット自身のバリアの出力に耐えきれないのだ。
正面を見て、せめてニコラを睨む。
すると、彼の秘密に気づいた。彼のビームからホムンクロイドが避けている……組体操に組み付かれているニコラ博士の本体以外にはプラズマが効くのだ。
その時。
「もう大丈夫だよ!」
マーク3の装着が終わった花蓮が立っていた。
勝利のプランは組上がった。
「マーク3なら正面からビームの出力に勝てるわ!やっちゃって!」
そう合図しつつ、深呼吸をする。
精密作業だ。
ビームの発射と共にガントレットで私の身体をはね上げ、そのまま翻ってビームの射線上の本体を殴り付ける。
答え合わせをしよう。
ニコラ博士本体に物理耐性はなく――、私のガントレットはプラズマに強かった。
前回適当なガントレットでプラズマを触ったときの反省を活かしたのだ。
マッド・ニコラの野望は討ち果たされた。
どうにか倒したニコラの前で呆ける私に、いつの間にか降りてきた花蓮が声を掛ける。
「……なんとかトロンじゃ、なかったね?」
ああ、そういえばそうだ。
絶対なんとかトロンだと思ったのに、『
「何か
私が訊くと、花蓮はこう答えた。
「じゃあ、黒幕を倒した後抱き合うやつやりたい!」
やれやれ、仕方ないヒーローだ。
それぐらい勝手にやってくれていいのに。
「
パシャ。
その後、私たちは何故か撮影会をしていた。
単純に、こそこそと日本に戻る方法がなかったのだ。
やはり新作の映画だと思われているのか、サインまで求められた。
そのゴタゴタのなか、オーディエンスの一人が言った。
「
困窮する私に変わり、花蓮が言った。
「
この世界には、スーパーパワーが存在するし、スーパーヒーローもいる。
ただ、残念ながら、悪役もだ。
だが、ヒーローは勝利する。
なぜなら私たちは、
結局その日は、ニューヨークに滞在することになった。
今晩の宿は決まっているの?という質問に決まってないと答えたら、親切なメリーが泊めてくれると言ったためだ。
彼女はふと思い出したように言った。
「貴女たち、撮影じゃないでしょ?」
彼女はそう言って、壁の絵を押す。
するとそれが回転して正体を現した。
メリーは言った。
「あたしもなの。ねえ、いいチームを知っているんだけど……」
イモータル・ガールフレンズ/無敵の女友達 ペトラ・パニエット @astrumiris
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