第6話
全長三〇メートル、全幅一〇メートルの小型航空軍船ガリオット。
ほんの六分間の乗船を三 人は甲板で風を浴びながら過ごすことにした。
「わぁー! 実は私、動いているガリオットに乗るのは初めてなんですよ。入隊した日に一通りノアに搭載されている戦艦一式、見学はさせてもらったんですけどね♪ ガリオットには銃や剣だけでなく、ロケットランチャーや手榴弾といった武器がありまして、ガリオットは歩兵さん達のための船と理解したことを記憶しています。因みに、さっき私達を案内してくださった六部レイさんは、歩兵部隊のトップなのですよ!」
広々とした甲板を、両腕を広げてくるくると回る白神・アルビーノ・歌燐は得意げに宇佐美兄妹に説明をする。
主に歩兵の移動手段として役割を果たすガリオットは、一隻に口径の小さい大砲を各一〇門しか搭載しておらず一見シンプルな作りだが、その分多くの歩兵と武具を載せることができる。
「へぇー、あの若いのがねぇ。ところで歩兵があるってことは、あと砲兵と騎兵もあるのか?」
「はい♪ 我々、新防衛省は三兵戦術を採用しております。と言っても、旧式のものから大幅に改変した形式となっていまして…それは後ほどノアでお話しましょう」
そんな事より今はこの船旅を楽しみましょう♪ と、白神・アルビーノ・歌燐は甲板中をまるで子供のようにはしゃぎながら走り回り、街がもうあんなに小さくなっている! だとか、雲を突き抜けました! だとか、大騒ぎだ。
「ったくよ、もうこの艦船よりカリンの方が速いわけだし、雲なんて珍しくもねぇだろ?」
宇佐美湊兎は、あまりの白神・アルビーノ・歌燐のはしゃぎっぷりを愉快そうに眺め、宇佐美海月は退屈そうに欠伸をしている。
「自分で飛ぶのと、こうして乗せてもらっているというのは、また違った味わいがあるものなのですよ♪」
閑散とした甲板には、白神・アルビーノ・歌燐、宇佐美湊兎、宇佐美海月の三人しかいない。 他の者達は怪我人の介抱や船内任務で忙しいのだろう。
本来なら白神・アルビーノ・歌燐も そういった仕事をやるはずなのだが、まだ他の者達に宇佐美兄妹の現状を把握させきれていないまま二人に船内をウロつかれては、余計な不安を怪我人たちに助長するだけだ。
そういった監視の意も込めて、宇佐美兄妹は死角の無い甲板に連れて来られたという訳だ。
そんな簡単なことに、宇佐美湊兎が気が付かないはず無かった。
「なぁ、カリン。監視役がそんなにはしゃぎまくってて、俺達が何か悪い事したらどうすんだ?」
と、呆れたように言う。 監視の対象に忠告されてハッとなる白神・アルビーノ・歌燐。だが、こんな単純な所で同じ過ちを繰り返すほど彼女も頭が回らない訳ではない。
「その時は、この懐中時計の針を十二時のところまで回すだけですっ」
ふふんっ、と鼻を鳴らしながら答える。
「やっと学習したか。人類の命を任されたニンゲンが正真正銘のアホじゃなくて安心したぜ」
カッカッカッと笑う宇佐美湊兎。
アホと言われてちょっとむくれる白神・アルビーノ・歌燐。
だが、宇佐美湊兎はスッと真剣な表情になると宇佐美海月の手を引き、白神・アルビ ーノ・歌燐に近づく。
「そしてカリン、お前は俺ら二人の命も握っているということを忘れるな」
首輪を指でピンッと弾き、くるくると回転させる。 宇佐美海月もバーナクルの入ったロケットを首にかけたまま手の平に乗せる。
「俺とミツキは命と引き換えに、お前の“信用”と“最悪の死”を手に入れたんだ。カネが商売における繋がりの証であるように、ロケットも、首輪も、懐中も、俺達の繋がりだ。分かるな?」
「え?ええ…」
「ば兄ちゃん、カリン絶対わかってない」
うっ、
と小さく呻く白神・アルビーノ・歌燐。図星だったのがまるわかりの態度だ。
「つまり、商売が成り立たなくなった時はキッパリ繋がりを無くすことを恐れるなという事だ。 カリンは人類という社員たちの命を最優先する義務があるからな」
商売のことは正直、日本育ちの十六歳で新防衛省の訓練ばかりを受けてきた白神・アル ビーノ・歌燐には正直よく分からなかった。
けれど、大金を払ったのならそれなりの物が買える。
買った物が不良品なら返品をするという事くらいは分かる。
それが会社同士での取引なら、生産業社から買った不良品をそのまま販売業社が消費者に売ってしまえば、その販売 業社の経営は悪化、ヘタをすれば倒産。社員達は皆、クビにならざる負えなくなるということも分かった。
「けれど、互いの会社は商売が成立しているうちは、繋がりを保とうと努力するはずです。共に協力し、高め合う仲間として、私達は繋がりが切れることを考える前に繋がりを強固にする事を考えなくてはならないのではないでしょうか」
白神・アルビーノ・歌燐は力強く、自分の気持ちを伝えた。
裏切られることを前提にではなく、 彼女は二人と仲間になりたいと。
さっきまで一緒に真剣な空気を演出していた宇佐美湊兎だったが、いきなり盛大に笑いだした。
ポカンとした白神・アルビーノ・歌燐に無表情な宇佐美海月。
笑うことをやめた宇佐美湊兎はニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「そうだな。奇しくも俺ら三人は首という共通点で繋げられた関係だ。せいぜい互いの“クビ” が飛ばないように、お互い仲良くやりましょや」
と言いながら、手の平を地面に向けて差し出す。
宇佐美湊兎の意図を汲みとった白神・アルビーノ・ 歌燐が手を重ねる。最後に宇佐美海月も白神・アルビーノ・歌燐の上に手を置いた。
「んじゃ、俺達の“首掛け同盟”がここに成立したことを祝福して!」
えいえいおー! と、こういう時にするに適しているのかよく分からない掛け声を、白神・アルビーノ・カリンは元気いっぱいにあげたのだった。
ロケット、首輪、懐中時計。ニンゲンとウ サギとクラゲの、 “首”をかけた絆がいま、ここに結ばれたことを祝福して。
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「はいっ! ミナトさん、ミツキさん、こちらにご注目ください♪」
およそ六分間のガリオットでの空旅を終え、一度白神・アルビーノ・歌燐は部屋に戻って通常の制服に着替えると、早速宇佐美兄妹にノアの艦内を案内することにした。
「こちらが、先ほど私達を乗せてくれた航空軍艦ガリオットです! その昔、中世ヨーロッパで 用いられていたガリオットは、一般的に、口径の小さな大砲を二門から一〇門、戦闘員を一 五〇人程度乗せる軍艦として用いられていた小型のガレー船でした。十七世紀以降、旧ネ ーデルランド共和国では、これらに丸い船底を持たせ、さらにスタビライザーを備えることで 小回りを良くし、さらにさらに船底を重くする事で横転防止の性能を付加されました」
「つまり、遠心力に強いダルマって事か」
「はい♪ 荒波にも強くなったガリオットは旧ドイツとの交易に用いられ、大活躍したそうです!」
白神・アルビーノ・歌燐たちはガリオットからのびるハシゴを登り、甲板へと降り立つ。
「そして、ガリオットはその機動力とバランス力を買われて現在、海上を旅する小型軍艦から、 空の上を飛び回る小型航空軍艦として生まれ変わり、外観はほぼ旧式のまま、フィンスタビライザーが新たに採用され、流体力学の応用で船体の安定化と高速化に成功。平均時速六〇〇キロメートルと、二十一世紀旧日本が開発に成功したリニアモーターカー並にまで速度を上げました。一隻につき乗れる戦闘員数は旧式と同様一五〇名、搭載される大砲は一〇門 とその他武器が選り取り緑!ノアから派遣される歩兵さん達はこのガリオットに積めるだ けの武器を積んで乗船し、各支部局に設置された軍の戦闘に加わるのですっ!」
言いながら今度はガリオットの艦内、武器保管庫へ案内する。
「ふーん、なるほどな。地上で火薬やらナンヤラをこんなに置いといて、もしアヒトにそこが攻められれば住人たちの避難が済む前に大爆発。武器も同時に無くなる。そうならないよう、 後から戦闘力を補充する形でガリオットの出番。かつ、同時にカリンも到着して事態の収束を図るということか」
それから宇佐美兄妹は、艦内に備えられた燃料タンクやら機関室やらを見て回りながら、 ガリオットが如何に軽量化に特化した構造となっているかについて白神・アルビーノ・歌燐 に熱弁された。 そしてガリオットから降り、オート化された櫂を見上げていた時だ。
「やぁ、御三方。ガリオットのご見学ですか?」
「陸部さん。はい♪ ガリオットの説明がてら、こちらのガリオットの点検もさせていただきました」
白神・アルビーノ・歌燐は先程から記入していたチェック項目のある紙を挟んだボードを陸部レイに提出する。
「ご苦労様です。では、これで全艦点検終了ですね。今からガリオットの収納を行いますが、 宜しければ見ていかれますか?」
「いいんですか! !」
白神・アルビーノ・歌燐はいつに無く喰い気味で目を輝かせる。
歩兵リーダー陸部レイは、 その気迫にも動じず、笑顔で対応する。
「ええ。ノアのガリオットはここからが一番面白いところですからね。二階のギャラリーのほう がよく見えますので、そちらへ行きましょうか」
ガリオット一〇〇隻を上から一望できる特等席で身を乗り出しながら、これから起こることに 一番興味津々なのは、白神・アルビーノ・歌燐だ。陸部レイは通信機でコントロール室へ指 示を出してから、三人に説明する。
「今からガリオットの収納を行います。ガリオットは一隻につき大量の火薬や爆弾を積んでいますので、ほんの僅かな火種で大爆発を起こしてしまいます。そうならない為に、ガリオットを今から巨大冷蔵庫へ移します」
─D'accord.やってくれ。
陸部レイは無線でコントロール室に合図を出す。
「今ガリオットが着地している床はベルトコンベアになっていて、隣の倉庫へとガリオットを押し出して行きます」
ガガガッと大きな音がして、謂わば巨大冷蔵庫の扉が上へと開かれる。
次にベルトコンベア 式の床が動き始め、ゆっくりとガリオットが横移動していく。
「今見えている隣の倉庫の床はローラー式になっていますので、一気にガリオットが移動できます。そしてあの中はノアの高度一八〇〇メートルの外気を利用して冷蔵庫状態となるのです」
「はい、質問」
と、ここで宇佐美湊兎が手を挙げた。
「どうぞ」
「外気温を利用するとなると、冷蔵庫の絶縁体には何を使ってるんだ? 一般的に電気が流れやすい物質は熱も流しやすい。カーボンナノチューブなんかは低温になると超電導性を持つようになるしな。つまり、外の気温をよく伝えるような素材にしちまうと電気も通しやすく、 その電気が発火の原因になっちまって危険じゃないのか? ノアだってずっと高度一八〇〇メートルの場所にいるわけじゃないんだろ? 地上に降りる時とか、誤って雷雲に触れ てでもみろ、床が雷の電気を通して着火。危険物をたんまり保管してある冷蔵庫はノアを巻 き込んで跡形も無く粉砕されちまうぜ?」
宇佐美湊兎は冗談でも言うかのような口ぶりで肩をすくめる。
「まさか、アヒト戦以降の不景気が続く中、この大面積の床に超高価な熱伝導性絶縁体の素材を注ぎ込んだわけじゃあるまいし」
確かに、一〇〇隻ものガリオットを収納するとなると、単純計算でも三平方キロメートルになる。それだけの面積を埋めるとなると、なかなかに値が張る。
国の防衛のため仕方ないとい えば仕方ないのだが、値段の前にそれだけ大量の絶縁体が今現在の日本で採掘され、流通しているのかどうかすら怪しかった。
「それについては問題ありません。素材は熱をよく逃がし、電気は通さない放熱用の絶縁材料であるAlNをエポキシにフィラー粒子として混ぜた物を用いています。このような熱伝導の優れた樹脂を用いることで、コスト面も大幅に削減できているのですよ」
「ほほー、なるほど納得いった」
宇佐美湊兎と陸部レイとの間では問題が解決したようだが、傍から聞いていた白神・アルビ ーノ・歌燐は専門外で、これっぽっちも話についていけなかった。
宇佐美海月も眠たそうに欠伸をしていた。
「そうだ、まだ僕あなたちに名乗っていませんでしたね」
と、ここで改まったように陸部レイが宇佐美兄妹に自己紹介を始める。
「僕は陸部レイと申します。大陸の“陸”に部門の“部”で“リクベ”。レイはカタカナです。フランス人の母親と日本人の父親を持つハーフです」
「おーけー、俺は宇佐美湊兎。コニアだ。気軽にミナトって呼んでくれ。んで、こっちが俺の妹の、」
「宇佐美海月。ジュエティア」
陸部レイは優しい色の金髪頭に斜め四十五度の角度で敬礼を添え、
「それでは僕もミナトとミツキと呼ぶことにします。よろしくお願いします」
二人にニッコリと笑った。
「陸部さんは、私と同じ十六歳でジェネラルとノアのケプガンに任命された、とても優秀な方なんですよ!」
と、白神・アルビーノ・歌燐が付け加える。
ジェネラルとは、陸軍における大将のことで、転じ てノアにおける歩兵のトップを指す軍隊階級のことだ。ノアの船上員は若者ばかりだが、十代でジェネラルとケプガンの二役に任命されたということは、陸部レイの実力が並大抵でないことを表す。
ケプガンはガンルーム、つまり武器庫の番人という役どころだ。
「では、僕は艦長に報告がありますのでここで。このあとはどちらの方に?」
どちらというのは、砲兵管轄部を見学に行くのか、それとも騎兵管轄部を見学に行くのかという事だろう。
新防衛省専用艦隊ノアが所持する戦力の柱は、白神・アルビーノ・歌燐以外に 三つ、 “歩兵”・“砲兵”・“騎兵”だ。
「次はドレッドノートを見にいこうかと思ってます」
「なら、先に海星さんの所ですね。もう自室に戻っているか聞いてみましょうか?」
と言いながら陸部レイは通信端末を取り出し、素早くメッセージをフリック入力していく。
ノアの船上員で携帯端末を持ち歩いているものは少ない。
だが、この三柱は、ある一人の柱 が電子機器に並々ならぬ情熱を注ぐタイプの人間であるため、自作の端末をあとの二柱にも携帯させているのだ。
因みに白神・アルビーノ・歌燐も携帯するようにせがまれたが、端末 は自室の隅っこに転がっている。
「あっ、返信が来ましたよ」
宇佐美兄妹は端末に興味津々と言った感じで画面を覗き込む。
それは二十一世紀初期に登 場した携帯機器用OSを備えた携帯電話、通称スマホにそっくりだった。
それから技術の進歩により端末は更に小型化、空間画面表示に時代は進歩したと聞くが、アヒト戦の際にそういった端末の電波管理局は破壊され、日本の携帯端末機は機能を失ったまま復興に至っ ていない。
だからこの自作端末はノアの電波機能をほぼハイジャックして個人同士のやり取りを可能にしているわけだが、その仕組みについて、白神・アルビーノ・歌燐含めた三人に詳細は知らされていない。
「あー、海星さん今ちょうど深道さんの部屋にいるみたいです」
と、なぜか苦笑いする陸部レイ。
白神・アルビーノ・歌燐も親指と人差し指で両目尻を掴むようにして頭を抱えた。
陸部レイとここで別れ、白神・アルビーノ・歌燐たちは残りの二柱が待つ一室へ足を運んだ。
「こんちには、深道さん、海星さん」
白神・アルビーノ・歌燐はノックをしたところで反応がもらえないことは分かりきっていたの で、いきなりドアを開けて中へ入る。
部屋の中は、まだ夏の午後四時だというのに真っ暗で、明かりはテレビ画面に映る格ゲーの光だけだった。
そしてそれをプレイする、ヘッドフォンを装着した二人の少女。
「オラオラオラオラーッ! 今!そこだっ、殺れっ! 死ねぇーッ!」
一人は何やら物騒なことを言いながらゲームに熱中している。
もう一人の方は一切表情を動かすことなく、ただ指先だけが物凄い速さで動いている。
「あのー! こんにち 「コナチキショー! イケイケイケイケそこだーーーッ!」
白神・アルビーノ・歌燐が二人に向かって声を張り上げるも、二人の耳には全く届いていない。
ムッと顔をしかめた白神・アルビーノ・歌燐は背後から近づき、ヘッドフォンを引っこ抜 くようにして取り上げた。
あっ、という声が二人から同時に漏れる。
「海星さん、深道さん、ゲームをするなら部屋の明かりをつけて画面から離れてプレーするようにといつも言ってるじゃないですか!」
そこかよ、と突っ込みたくなるような台詞で白神・アルビーノ・歌燐は二人を叱りつけた。
「おわっ! 出たなアヒトっ! これでも喰らえー!」
と、白神・アルビーノ・歌燐をスルーしてゲームのコントローラーのAボタンとBボタンを交互に 連打する青髪ポニーテールの少女。
しかし、現実の世界ではそんな事で何かが発動するはずも無く、テレビ画面の向こう側で気合の入ったキャラクターが必殺技を繰り出している だけだ。
「海星さん、おバカなことをやってないで、ゲームを止めてくださいっ」
白神・アルビーノ・歌燐に怒られて渋々ログアウトする。もう一人の少女もログアウトし、こちらを向く。
「ご紹介します。こちら、宇佐美湊兎さん。コニアです。そしてこちらが妹の海月さん。ジュエティアです。これからお二人はノアの戦闘員として共に生活することになりますのでご挨拶に参りました」
白神・アルビーノ・歌燐に紹されて、軽く手をあげる宇佐美湊兎。海月は相変わらず興味がなさそうだ。
「じゃあ、こっちも自己紹介。あたしは海星マリ。カイは、漢字で海の方ね。ノアの三兵戦術において“砲兵”を担当する。役職はアドミラル。よろしく!」
海星マリと名乗った青髪ポニーテールの少女は白神・アルビーノ・歌燐より少し背が高く、歳は同じか一つ上といったところだろう。
「それでそれで、こっちの中二病真っ盛りのチビちゃいのは深道クロエ。深い道って書いてシンドウ。三兵戦術の“騎兵”担当で役職はジェネラル。まっ、レイ含めたあたし達みんな同じ階級ってことになるね」
海星マリに紹介された深道クロエという少女は、ど派手なポップアートパーカーのフードを深く被り、紫色のボブヘアーを小さく揺らして会釈する。
「んでんで、あたしのドレッドノートを見学したいって聞いてるんだけど、合ってる?」
「はい♪ ノア唯一の超ド級軍艦をお二人にもお見せできたらなと思いまして」
さっきまで膨れっ面だった白神・アルビーノ・歌燐はドレッドノートという名前を聞いた途端、機嫌を直して両手の指先を軽く合わせる。
「その後はドローンも幾つか見学したいのですが、よろしいでしょうか?」
白神・アルビーノ・歌燐はヒョコッと体を斜めにして、海星マリの体越しに深道クロエに向か って尋ねると、彼女はグッと親指を天井にむけて突き立てた。
そして自分の出番がまだ先だと分かると、直ぐさまログインし直し、ソロプレーでピコピコやり出した。
「では、またあとで来ますね」
そう言い残し、白神・アルビーノ・歌燐たちは深道クロエの部屋をあとにした。
「それでは参りましょう。ドレッドノートの保管庫は屋上にあるのですよっ」
「屋上?」
「はい♪ ドレッドノートは全長一六〇メートル、全幅二五メートルもあり、軽量化よりも一発あたりの火力と命中力を重視したものとなっていますので、細かな操縦が難しくなってしま います。そこで比較的車庫入れしやすい屋上に保管庫を設けているのですよ」
「それもあるし、」
と、白神・アルビーノ・歌燐の説明に海星マリが付け加える。
「ドレッドノートは艦首から前向きに巨大レーザーの主砲塔を一基配置しているんだ。だから屋上でその主砲塔だけ覗かせれば、いざという時ノアの一部として直接レーザービームを撃つという使い方ができるようにってのもあるんだよ」
なるほど、と感心する白神・アルビーノ・歌燐。
そうこうしている間に荷物用のエレベーターに乗り、四人はドレッドノートの保管庫に到着した。
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「わぁー、いつ見てもドレッドノートは迫力ありますね!」
ドレッドノートを前にうっとりとした声を出す白神・アルビーノ・歌燐。
四人の目の前に超ド級の軍艦が現れると、先程の話しに出た巨大レーザー砲塔が堂々と そびえ、そこから甲板よりも一段高められた上部構造物の上に司令塔となっている箱型の 艦橋が配置されているのが見えた。
「じゃあ、まずは艦橋にいってみましょー!」
艦橋の中にはレーダー・操舵装置・テレグラフなどが備わっており、四人で入って丁度のスペースしか無い。
「ここはドレッドノートの中枢部。この後ろに二本の煙突が立っていて、見張り台と繋がっているんだよ。見張り台からの報告とレーダー等から様々な情報をあたしが処理して、ここから常に指揮を執ってるんだ」
「えっ?」
得意そうな海星マリの説明に、白神・アルビーノ・歌燐は疑問の声を上げる。
「けれどこの前、海星さんが主砲の真横で斉射命令を叫びながら高らかに笑っているところをお見かけした気が…?」
初めてアイトーポが大規模に襲撃をかけてきたその日、アイトーポの戦艦を撃ち落とすことを目的としたドレッドノートからの一斉射撃命令。
その火力を蓄えるための時間稼ぎとして白 神・アルビーノ・歌燐はノアから真っ先にドレッドノートの援護に向かう最中であったのだが、 歌燐が到着する前に砲撃は開始され、危うく戦火の嵐に巻き込まれるところであったのだ。
その時目撃したのが、自ら砲手の役割を担い、物騒なことを叫びながら歯を剥き出しにし、 爆風にポニーテールをなびかせる海星マリの姿であった。
「まさかとは思いますが、司令塔をほっぽり出して自ら発射を行ったのではないでしょうね?」
じーっ、と疑うような細い目つきで海星マリを睨む白神・アルビーノ・歌燐。海星マリは反論 もできず、ただ笑って誤魔化している。
「ま、まぁそんな事はどうでもいいじゃァありませんかっ!」
歌燐に睨まれて緊張したのか、海星マリはカタコトの敬語口調になってしまいながら、目線を泳がせる。
「そ、それより歌燐、ドレッドノートの役割について解説してあげたら?」
苦しいこの話題転換も、戦艦オタク白神・アルビーノ・歌燐には効果があったらしく、水を得た魚のように、ドレッドノートについて語りだす。
「はい♪ ドレッドノートといえば、中間砲・副砲を装着せず単一口径の連装主砲塔五基を装着したという、これまでの戦艦の概念を一変させた革新的な艦ということで有名ですね! 古 くからドレッドノートは海戦において重要な“距離の支配権”を握れるということを意味してき ました。ですから海星さんの役職は海軍大将の意味があるアドミラルなのです。先程の解 説でドレッドノートは一発あたりの火力と命中力を重視したもので、操縦が難しいと解説いたしましたが、だからといって決して鈍足というわけではございません。むしろ、蒸気タービン艦の構造を採用したことにより大出力が可能となり、高速を得ることができたのです!」
「へぇー。つまり動けるブタみたいなもんか」
なるほど、という顔をしながら頷く宇佐美湊兎はドレッドノートをその迫力と意外な俊敏さからブタと評した。
しかし、宇佐美湊兎にはなんの悪気も無いことは白神・アルビーノ・歌燐と宇佐美海月には分かっても、海星マリにそうはいかない。
「ブ、ブタ…!?」
「た、確に見た目によらず俊足の持ち主という意味で、最高時速およそ三〇キロメートルで走るブタさんはカカ、カッコイイですよね!」
“ブタ”というワードにピクリと眉を釣り上げた海星マリ。
それを見て慌てた白神・アルビーノ・ 歌燐は“カッコイイ”という語を強めてフォローを入れる。
咄嗟のフォローだったため若干苦しい表現となっているが、これが白神・アルビーノ・カリンの精一杯だった。
なぜこんなに白神・アルビーノ・歌燐が慌てたかのか。
それは、大艦巨砲主義者であり、ノアにお いてその象徴であるドレッドノートを、ただブタ呼ばわりするという行為は、戦場の女神と呼 ばれし我らが砲兵のアドミラルのプライドを傷付けかねないからだ。
本来、砲兵に当たる戦場の女神は具体的には示されていないが、ノアの仲間内では、海星マリの性格から、ギリシア神話で“勇敢”と“暴力”が擬人化したとされている女神ビアと囁かれている。
つまり海星マリの性格は、”そういう事”なのだ。
しかし、同時に海星マリは単純でもある。 “カッ コイイ”というワードに素直に反応し、もうすっかり機嫌を取り戻した。
「ハラショー! ドレッドノートは最高にカッコイイ、あたしの相棒っ! ドレッドノートは雷撃機でもあるんだよってことで、次は魚雷型ミサイルも見に行ってみよう!」
「そそ、そうですねっ! カッコイイドレッドノートの魚雷型ミサイルを見に行きましょー!」
ホッと胸を撫で下ろす白神・アルビーノ・歌燐。
宇佐美湊兎は歌燐の苦労も知らず、呑気に 掛け声を合わせている。
こうして宇佐美兄妹および白神・アルビーノ・歌燐はドレッドノートの隅から隅まで海星マリによって案内され、なんだかんだでたっぷり一時間を過ごした。
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