第5話

「ケホッケホッ、うぅ…ずぶ濡れです」


白神・アルビーノ・歌燐がやっとの思いで大池から這い出すと、先に上がっていた宇佐美兄妹は各々、大きな赤帽子やウサ耳を雑巾絞りしていた。


「ったくカリンよ、もっと安全運転で頼みますぜー? いくら速く着いたって、着地がこれじゃあ客の命が幾つあっても

「どの口が言うのですかぁぁぁっ!」


ウサ耳を絞るために垂れ耳を持ち上げている瞬間を狙って、白神・アルビーノ・歌燐が一喝。

宇佐美湊兎の鼓膜がわんわん振動し、目の前に星が回る。


「いってぇー!何するんだよカリン、耳が命のウサギにこの仕打ちは無ぇんじゃねぇの!?」


痛む耳を押さえながら悪態をつく宇佐美湊兎。


「そのウサ耳にピアスやらタトゥーやらいれているのはどこのどなたですかっ!


ふんっ、と両腕を組んでそっぽを向く白神・アルビーノ・歌燐。


「カカッ、違いねぇ」


一本取られたと、さも愉快そうに笑う宇佐美湊兎。

白神・アルビーノ・歌燐は呆れながら眉間にシワを寄せる。


「まっ、今回はカリンの純白パンツに免じて、ドボンの件もウサ耳殺しの件もチャラにしといてやるよ」


「…はい?」


白神・アルビーノ・歌燐も聴力には自身のある方だった。

今だって別に聞こえなかったわけではない。

聞き逃したわけでもない。


「三分間、じっくり堪能させてもらったぜ。その透け透けのプロテクタースーツとやら越しにな」


バッと短いスカートタイプのプロテクタースーツを押さえる白神・アルビーノ・歌燐。

その様子も愉快だったのか、もう片側のウサ耳も絞りながらカラカラ笑う宇佐美湊兎。


「…こ、この発情ウサギさんがぁぁぁーっ! ! !」


そんな宇佐美湊兎に白神・アルビーノ・歌燐は、本日続けてのウサ耳殺しをお見舞いするのだった。


「ば兄ちゃん!」


完全に目を回し、フラフラする宇佐美湊兎を支える献身的な妹。

ただ献身的なだけでなく、 兄への愛が人一倍…否、クラゲ一倍強い彼女は兄を介抱する。


「さぁ、もうグズグズしてはいられません。アイトーポさんたちの元へ行きましょう」


カリンの号令にプルプルと頭を振って正気を取り戻す宇佐美湊兎。


「はいよ、カリンの指示に従いますさ。それがあの艦長とのお約束だからな」



**************************************



自然公園を出てみると、その先にある住宅街から何やら不穏な気配を感じる。


ある程度は住人達の避難は済んでいたようだ が、まだ逃げ遅れた人達の姿が見られる。


そしてその一人、初老の男性がアイトーポ達に捕まっていた。

その捕まった男性をよく観察してみると、トリモチのような粘着性のある物質で身動きを封じられている。

完全に動けない男性は、体調およそ三十センチメートル程のアイトーポ四匹に、滑車付きの台で運ばれていく。


「あいつら、いつもニンゲン攫いなんかやっているのか?」


アイトーポ達に気づかれないよう、建物の陰に身を潜める白神・アルビーノ・歌燐たち。

遠巻きにアイトーポ達の動きを把握していたところで宇佐美湊兎が白神・アルビーノ・歌燐に尋ねた。


「えぇ。どうやらアイトーポたちは人間を攫って集めているようです。収集グセというやうでしょうか? …あっ、見てください! ガリオットが来ました!」


滑車台で男性を運ぶアイトーポ四匹を狙って戦闘員たちがガリオットから飛び降りながら銃を撃つ。

凄腕戦闘員と呼ばれる彼らは、捕らえられた男性を見事に避けて滑車台の四隅を撃ち抜く。


だが、銃弾は滑車台の車輪を破壊しただけで、アイトーポ達は銃弾をかわし、素早く飛び退いた。

滑車台を放り出し、戦闘員達と銃撃戦を繰り広げる。


住宅街で、まだ避難もできていない住人達がいる中での戦闘は、ノアの戦闘員たちには不利だ。

アイトーポ達が他のニンゲンの事などお構い無しに銃を乱射する一方で、戦闘員達はなかなか思うように動けずにいる。


「おいおい圧されてるぞ? 出て行かなくていいのかよ」


戦況を目の当たりにした宇佐美湊兎が問う。


「出て行きたいのは山々なのですが、私を見つけるとアイトーポたちは一目散に逃げていってしまうのです。今のところ、この戦いは拮抗していると見てよいでしょう。となると、ここで逃してしまうよりも仕留められるなら仕留めてもらったほうが得策です」


「ふーん。そんなもんかねぇ」


「はい…ですから私は、あの男性を救出します」


そう言ってアイトーポ達が完全に滑車台から離れた瞬間、白神・アルビーノ・歌燐は物陰から飛び出し、捕らわれた男性を上手く掴んで再び戻っ てきた。


「ゲェッ。何でここに連れてくんのよ。くっ付いたらどうすんの?」


「なっ! アヒト!?」


本気で嫌がる宇佐美海月を無視して白神・アルビーノ・歌燐は、連れ帰った初老で小柄 な男性に話しかける。


男性はさすがに白神・アルビーノ・歌燐の事を知っていたが、まさかその歌燐にアヒトのいる物陰へ連れてこられるとは思いもよらず警戒している。


「大丈夫です。それよりこのトリモチはもう取れませんね。服を捨てましょう」


そう言ってタオルと新しいTシャツと短パンを具現化させる。

しかし男性は敵意むき出しといった面持ちで白神・アルビーノ・歌燐を睨みつける。


「こんな所で脱げるかっ! それに儂は他所様の命を着るなんてバチ当たりな真似はせん!」


痛烈な一言を浴びせた。


しかし、アイトーポのトリモチに捕われた人々に同じようなことを言われ続けてきた白神・アルビーノ・歌燐は怖気づかない。


「あなたの命がかかっています。はやくこの服を着てください」


「嫌だと言っとるだろ! 儂をお前と同罪にするつもりかっ!?」


怒鳴りながら白神・アルビーノ・歌燐に唾を吐く男性。


「貸せ、カリン」


静かに前へ出た宇佐美湊兎が、白神・アルビーノ・歌燐の手から具現化させた服を奪った。


「妹よ、ちと向こう向いてな」


ニヤッと口角を上げる宇佐美湊兎。

その目は笑っていない。

白神・アルビーノ・歌燐は嫌な予感がした。


「ミナトさん、なにを?」


「このアヒトめっ! あっちへ行け!」


立ち塞がる白神・アルビーノ・歌燐を避け、男性を見下す宇佐美湊兎。


「カリン、指示してくれ。俺は今回の任務でカリンに従うと艦長に約束しちまったから勝手なことはできねぇんだよ」


ただならぬ気配を発する宇佐美湊兎に怯える男性。

白神・アルビーノ・歌燐も、まだこの兄妹を完全に信用したわけではない。

再び男性と宇佐美湊兎の間に割って入る。


「安心しろって。俺はニンゲンが大好きなんだぜ。悪いようにはしねぇよ」


それでもまだ信用ならない。市民に何かあってからで は遅いのだ。

そんな白神・アルビーノ・歌燐の態度に、宇佐美湊兎は、小さくため息をつく。


「真面目だな、カリンは。こういう時こそ、コレの出番じゃねぇの?」


自分の首にガッチリと取り付けられた首輪を親指で引っ張ってみせる宇佐美湊兎。 白神・アルビーノ・歌燐は首に提げた小さな懐中時計を握りしめる。

もし、少しでも宇佐美湊兎が妙な動きを見せれば、この針を十二時に合わせれば湊兎の首が吹き飛ぶ。


命と引き換 えに買った信用の力を見せてもらう時かもしれない。


そう思い直し、白神・アルビーノ・歌燐は 道を開ける。


「お、おいっ!」


緊迫した空気の中、男性が怒りと恐怖の声を上げた。


「ミナトさん、絶対ですよ」


「はいはい。んじゃ、おっさん。失礼するよ。カリンもあっち行って後ろ向いてな。おっさんの裸なんて見たかねぇだろ?」


別に下着まで脱がす必要ないのだからそれほどまで気にはしないが、見なくて済むなら見たくないと思ってしまった白神・アルビーノ・歌燐は素直に後ろを向く。


背後で男性の喚く声がしばらく聞こえたが、


しばらくして男性は静かになった。


「よーし。二人とも、もういいぞ」


白神・アルビーノ・歌燐と宇佐美海月が振り返ると、 そこには服を持ったままの宇佐美湊兎の姿しかなかった。


「あれ、あの男性は?…まさかミナトさん!」


「おいおい、俺は草食動物の代表格ウサギだぜ?食っちゃいねーよ」


「そ、そうですか…ならさっきの方はどちらに?服はどうされたのですか?」


「あぁ、やっぱコレは着られねぇって言うから下着姿のまま走っていったぜ。見られたくないからってしばらく俺に口封じして。まっ、心配ねぇよ。服くらいどっかで拾ってくるだろ」


そうは言っても、ここは住宅街のど真ん中。近くの服屋までは結構な距離があるし、他所の家の洗濯物を拝借しようにも、ベランダが二階にある家が多いから、服なんてそうそう見つからないだろう。


白神・アルビーノ・歌燐は、強情な男性の性格を少々不憫に思い、男性が駆けて行ったであろう裏道に目を向けながらため息をついた。


「んで、カリンはこれからどうする? アイトーポに対してパターン化されたやり方があるならそれに従うぜ。アイトーポの襲撃は何度目だ?」


「アイトーポさん達は今回で五度目。初めは三ヶ月前でした。ここから私は、ガリオットや他の兵がカバーしきれていない区画に向かいます」


散らばったアイトーポたちは数も多く、一〇〇機のガリオットでも対応しきれていない。白神 ・アルビーノ・歌燐が出て行けばアイトーポ達に逃げられることが分かっていても、逃げ遅れた数体くらいなら、仕留めることができる。そうなればアイトーポ達の戦力を削ぐことに貢献できるだろう。


白神・アルビーノ・歌燐たちは裏道を縫い、アイトーポたちが占拠した区画に赴いた。

そこは もうアイトーポ達が灰色の波のように見えるほどに、家の屋根も、道路も、川辺も、橋も、アイトーポ達で埋め尽くされていた。


「では、私は行きます。この数ならもしかするとアイトーポさん達も撤退せず迎え撃ってくるかもしれません。ミツキさんはなるべく安全な場所に。ミナトさんはミツキさんをよろしくお願 いします」


言い切るより早く、白神・アルビーノ・歌燐は、ねずみ色の海へと飛び込んでいった。


「やぁぁッ!」


見たところ、この辺の住人は避難し終えたか、全員捕まって連れて行かれたようで、白神・アルビーノ・歌燐が暴れても危険が及ぶ場所に人は見当たらない。

白神・アルビーノ・歌燐はアサルトライフルを具現化し、一気に攻め込む。


アイトーポ達が一斉に飛びかかれば、流石の白神・アルビーノ・歌燐もひとたまりもない。

プロテクタース ーツの強度は新国防省の折り紙つきだが、トリモチで動きを封じられては厄介だ。


「退避、退避ーっ!」


しかし、予想に反してアイトーポ達の選択は撤退の一択。

ねずみ色の波が気持ち悪いほど一斉にワッと引いていき、あっという間に白神・アルビーノ・ 歌燐の周りからネズミの姿はなくなった。

道の真ん中に白神・アルビーノ・歌燐だけがポツンと取り残される。


「おいおい見事なしっぽの巻きようだな。カリンも随分と嫌われたもんだ」


手を後頭部にまわしながらノコノコと出て来た宇佐美湊兎は、いかにもつまらなさそうな口ぶりで皮肉 を言ってくる。


「ええ…先日のように小規模での襲来なら逃げられる事も想定内でしたが、一回目の襲来 といい今回といい、これほど大規模での襲来なら迎え撃たれるものと思っていましたのに…」


「まっ、向こうも数こそ腐るほどいるが、所詮ネズミってことだ。無駄に戦って戦力を消耗しちまうのは奴らのスタイルじゃねぇ」


確かにアイトーポの脅威は、その数だ。アヒトは細胞の作りからして強靭で、この世界にある銃や刃物ではほとんど効き目がない。

ミサイルや水爆を使えば話は別かもしれないが、それでは人間諸共ということになってしまう。


アヒトに対抗する方法は二つ。

一つ目は、アヒトモンドの物質を使用すること。

二つ目は生命エネルギーの力で対抗すること。

宇佐美湊兎の首輪に入っている爆薬や白神・アルビーノ・歌燐の力がそれに当たる。


「けれど私が出て、こうも逃げられてばかりいてしまっては、攫われた人たちの手掛かりすら掴めません。一方で現在まともな対抗手段がライフスペント作戦しか無い以上、私が出なければ被害は拡大する一方…あぁもうどうしたらいいのですかっ! 」


くしゃくしゃっとハーフツインテールの白髪を掻きむしり、不満を天にぶちまける白神・アルビーノ・歌燐。 その時だ。

一機のガリオットが白神・アルビーノ・歌燐たちの位置からおよそ八〇〇メートル ほど離れた位置で墜落したのが見えた。


その光景に「あっ」、と声を漏らした白神・アルビーノ・ 歌燐。


「思ったんだが、」


と、宇佐美湊兎。


「今までカリンがアイトーポ‘ ごとき ’を一匹も捕まえられなかったのは、カリンが生命エネルギ ーの節約をしていたからじゃねーの?」


えっ?

と、驚き振り返る白神・アルビーノ・歌燐。


「もし自分が力を過剰に使い、周りのニンゲンの命を使い果たしてしまったら…。そんな事を無意識のうちに考えてたんじゃねーの? って話だ」


言われてみれば、そうかもしれない。さくら総合こども病院の事件以降、白神・アルビーノ・ 歌燐は力を全力行使する事が恐怖となっていた。

だからアイトーポとは全力で殺りあったこ が無い。


「そうですね、そうかもしれません。しかし市民の皆様を守るために市民の皆様の命を吸い尽くしてしまっていては元も子もないので、結局は力をセーブするしか…」


「だーから、今はそんな心配する必要なんて無えだろっ?」


と、ここで一歩前に出たのは宇佐美海月だ。


「ミツキの事、忘れてんじゃねぇぞ。しっかり働けこのナマケモノ」


口の悪いクラゲの少女の頼もしい挑発に、白神・アルビーノ・歌燐の顔が晴れた。


今、白神・アルビーノ・歌燐が使っているのは宇佐美海月の命。

これは無限で尽きることがない。命を使うという事に変わりはないため多少抵抗はあるが、理論的には白神・アルビーノ・歌燐は生命エネルギーの搾取によって命を奪うことがなくなる。

そしてなにより、宇佐美海月本人が背中を押してくれているのだ。


「わかりました!ではガリオットの援護に向かいます!」


そう言って宇佐美兄妹の手を引こうと白神・アルビーノ・歌燐が手を伸ばした時、


「カリン、可憐な少女の手を握れるチャンスをみすみす逃すのは惜しいことだが今は緊急事態だ。急ぐならちゃんと腕振って走れよな」


ケケケッと笑う宇佐美湊兎。


「え、ええ。けれどお二人を置いて私一人ガリオットのもとへ行ってしまうのは…」


白神・アルビーノ・歌燐の心配を聞き流して宇佐美湊兎は海月をお姫様抱っこで抱きかかえた。


「まさか、俺がカリンに突き放されるとでも思ってるのか? カカッ、コニアの脚力ナメんなよ?」


と、言うが早いか、宇佐美湊兎が宇佐美海月を抱えて地面を一蹴り。

すると蹴ったところから 突風が発生し、宇佐美兄妹が一瞬にして消えてしまった。


「えっ、うそっ!?」


咄嗟に風のベクトルへ顔を向ける。すると遠くの方で宇佐美湊兎達と思われるシルエットがこちらに手を降っているのが見えた。


「ま、待ってくださいー!」


白神・アルビーノ・歌燐も負けじと地面を抉るように蹴る。


(体が軽い…命に質や量があるなんて思いたくは無いけれど、やっぱりミツキさんの生命エネルギーは…)



白神・アルビーノ・歌燐の思考が巡る前に、三人は墜落したガリオットの元へ駆けつけることができた。


姿を現したのならあとはスピード勝負。

凄まじい銃撃戦を繰り広げる戦闘の最中にそのまま飛び込む。

威力の高いコンバットマグナムを具現化し、アイトーポの盾に向かって連射。 ネズミ達は逃げる間もなく次々に吹き飛ぶ。


「そ、総員退…カハッ!」


司令塔と思われる軍服のアイトーポの指示も発せられる前に白神・アルビーノ・歌燐によって地面に叩きつけられた。

目にも止まらぬ速さに、誰も彼女の動きを捉えることが出来ない。


軍服のネズミが地面に這いつくばったまま辺りを見回すと、味方も地面にひれ伏しているのが映った。


「貴方がこの場のリーダーですね。いろいろとお聞きしたいことがあります」


白神・アルビーノ・歌燐が軍服のアイトーポに、具現化手錠をかけた。


ギリギリと悔しそうに歯を食いしばる軍服のネズミは、なかなか端正な顔立ちの青年だが、大きな丸耳と小さな口は、やはりネズミ顔といったところだ。


「お前たちに話すことなど何も無い!」


威嚇のつもりか、細い尻尾をピンと立てて体を大きく見せようとしてくるが、体長三十センチメートルの四頭身の体では子供の虚勢にしか見えない。


「ふーむ、それは困ったなぁ」


と、イタズラっぽい笑みを浮かべた宇佐美湊兎が出てきた。


「んなっ、なぜコニアなんかがこんなところに!?」


「大人しく白状するの」


続いて宇佐美海月も出て来る。


「ジュ、ジュエティア……様!?」


軍服のアイトーポは、宇佐美兄妹を見るなり、つぶらな瞳を目を丸くする。


ニンゲン側にアヒトが二体もいたら、そうなるのも無理はない。


クッと歯を食いしばった後、抵抗するのをやめた。


「白神さん!」


と、墜落したガリオットの山から戦闘員たちが数名、白神・アルビーノ・歌燐達のもとへ駆け寄ってきた。

声をかけたのは襲撃前、ノアの廊下で歌燐と鉢合わせたあの戦闘員の少年だ。


「ご無事で!」


白神・アルビーノ・歌燐も歓声の声をあげる。


「はいっ、おかげさまで。今もこうしてホワイト・ヴィクトリアは我々に微笑んでいます」


と、まだあどけなさの残る笑顔を見せる。


そう言われ、白神・アルビーノ・歌燐は少々気恥ずかしくなり顔を赤らめる。


「それにしても、さっきのは凄かったですね。一体何をしたのですか?」


「それについてはまた後ほど。それより、こちらで司令塔のアイトーポを捕らえました。ノアまで送還していただけますか?」


「お安い御用です。すぐにガリオットを寄越しますのでお待ちください」


そう言って少年は無線で何やらやり取りをする。


「なぁ、」


と、宇佐美湊兎が白神・アルビーノ・歌燐に耳打ちする。


「コイツは俺達に抵抗はないのか? あの艦長から連絡が回っていたとしても、俺達アヒトを 自分たちの船に快く乗せてくれるとは思ってなかったんだが」


宇佐美湊兎はノアまで自力で帰ることになるだろうと踏んでいた。

少年は捕虜と白神・アル ビーノ・歌燐だけを乗せて自分たちはハブられると思っていたのに、無線の内容を聞く限りどうやら宇佐美兄妹もガリオットに乗せてもらえるらしい。


「彼は地方の出身で、ご家族もご健在とのこと。アヒトへの抵抗はそこまで強くはないという事でしょうし、彼の人柄もそうさせているのでしょう」


「なるほどね、確かにお人好しって感じの面してるぜ」


うんうん、と納得したように頷く宇佐美湊兎。 “お人好し”という表現が些か引っかかるが、彼なりに少年を認めているのだろうと、ここは苦笑い一つで返すこととした。


「お待たせ致しました。ではご案内いたします」


少年は軍服のアイトーポを他の戦闘員に預け、白神・アルビーノ・歌燐、宇佐美湊兎、宇佐美海月をガリオットまで案内する。

ガリオットは白神・アルビーノ・歌燐たちがエリア一三六六へ向かう際に不時着した自然公園の広場に用意されていた。


「では、僕は現場での仕事がまだ残っていますので」


「ご苦労様です。あとはお願いします」


少年と白神・アルビーノ・歌燐は互いに敬礼を交わし、歌燐はガリオットの中へ、少年は現場指揮へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る