第3話
ノアの艦内、機関室。
「かりん!まぁまぁまぁ、よくぞ無事で返って来てくれた! 今日は少し遅かったから心配したのじゃぞ 〜♡」
機関室の鉄扉が開くなり、待ち構えていた安藤輝子が白神・アルビーノ・歌燐に飛びついた。
そして彼女は白神・ アルビーノ・歌燐の体に密着するなり、体中を弄るようにして腕を動かしだした。
「むふふ…やはり歌燐の体はええのぉ♡まるで玉のようじゃ!」
「て…輝子さん! ちょっ、悪ふざけはおやめっ…」
安藤輝子の艶かしい指先が、白神・アルビーノ・歌燐の首筋に触れ、背筋をなぞり、腹部に沿い、未成熟な部分を撫で回す。
「て、輝子さ…ん…きゃふんっ…!」
遂に安藤輝子の強烈な愛撫に耐えかねた白神・アルビーノ・歌燐から甘い声が漏れ出た。
「いや、その…今のは!」
自分でも驚くほどエッチぃ吐息を漏らしてしまったことに、白神・アルビーノ・歌燐は顔を真っ赤にしてしまう。
言い訳も思い浮かばず、黙って俯いてしまった。
「おぉー、ニンゲンってのはそんなにエロい声で鳴くのかー。…ん?いやでも待てよ。鳴き声も去ることながら、カリンのこの表情…」
そこへ自称、エロをこよなく愛する紳士が白神・アルビーノ・歌燐の体が拘束されているのをいいことに、彼女のあごを持ち上げてマジマジと観察する。
「ほほぅ?…おぬし、さては見抜いたな?」
未だ白神・アルビーノ・歌燐の体にまとわりつきながら安藤輝子がニヤリとネコのように笑う。
「ああ。この顔は…」
と、宇佐美湊兎が何か言いかけたところで安藤輝子が堪えきれず、先の言葉を遮った。
「そう!これぞまさしく歌燐だけが成せるエロの技! まだ幼い儚さと生涯持ち続けるであろう美しさのダブルパンチ…我はもう、 これの虜よ! 何度見ても聞いても感じてもクセになりおるわい!」
安藤輝子の熱弁に、少々圧されて呆れ気味に鼻から息を吐くが、宇佐美湊兎の悪ノリもダテではなかった。
「ふーむ、これは録画して毎晩再生一〇回…いや、一〇〇回は必至の喘ぎだな」
肉球のない、半獣半人といった表現がふさわしい不思議な指がフレーム枠を作り、窓から白神・アルビーノ・歌燐を覗く。
しかし、がんじ絡めで動けないはずの白神・アルビーノ・歌燐がいきなり宇佐美湊兎のフレーム枠内から外れた。
安藤輝子が庇うようにして、さらに強く白神・アルビーノ・歌燐を抱きしめ直したのだ。
「何を云うておる戯け! 」
ピシャリと響いた声に、鋭い視線が宇佐美湊兎に刺さる。
「て、てりゅこひゃん…」
宇佐美湊兎の、悪ノリが過ぎた行動を叱りつけた安藤輝子。
その力強い腕に守られると聞こえる、安藤輝子の胸の鼓動。
白神・アルビーノ・歌燐は安藤輝子からの大きな愛を感じながら自分の鼓動も早くなるのを感じた。
「このエロは生だからこそ価値がある! 」
「…は?」
白神・アルビーノ・歌燐は思わず素っ頓狂な声を出す。
それに構わず、安藤輝子は続ける。
「見よ、この薄紅色に染まっていく美しい白肌の変化を! 確かめよ、この波打つ脈が速度を早めていくその様を! 感じよ、 鼻孔を通って本能を内側から刺激する可憐な少女の香りを! これらを余すこと無く堪能せずしてこの喘ぎの真の素晴らしさは ─
ガツンッ!
またもや安藤輝子の頭上に白神・アルビーノ・歌燐の肘が落とされた。
それも至極当然。
白神・アルビーノ・歌燐が感じた‘ 愛 ’は、彼女の期待していたそれとは違うものだったようだ。
「もう! 何を言っているのですか輝子さんは! …というか、なに自然に会話しちゃってるんですかお二人は! !」
頭にできてしまったタンコブを押さえながら涙目になっている安藤輝子。
飛びつかれた勢いで尻餅をついてしまった白神・アルビーノ・歌燐の真上から、尚めげずに彼女の谷間を覗きこむ自称紳士。
そんな光景をゴミでも見るかのような目で一歩引いて睨みつける宇佐美海月。
「可哀想なカリンちゃん…」
この奇妙な光景に、艦内の船上員たちはあっけに取られるなり、額を押さえては安藤輝子に呆れるなりと、騒然としていた。
「おぉ、誰じゃお主らは!」
と、ここでようやく安藤輝子は我に返る。
「今更遅いです!」
そして白神・アルビーノ・歌燐から叱責を受けると、少し嬉しそうにニマッとした。
「やぁやぁ、これは申し遅れました。俺は宇佐美湊兎、コニアだ。んで、こっちが俺の可愛い妹、宇佐美海月、ジュエティアだ。よろしく!」
頭の上で二本指を飛ばして軽々しくご挨拶。
アヒトの方からこんなにも気安くフレンドリーに人間へと近寄ってくる事象は前代未聞だったため、艦内は騒然。
そんな中、安藤輝子がコホンと一つ咳払い。
それを合図にヘンタイモードから艦長モードに切り替わると、機関室の中央に設置されて いる艦長席へと移動し、ゆっくりと腰掛けた。
ピリッとした空気が艦内に走り、鋭く光る黒い眼光が宇佐美兄妹を釘付けにする。
「歌燐、一体これはどういうことか説明してもらおうか」
視線を宇佐美兄妹に向けたまま白神・アルビーノ・歌燐に尋ねる。
安藤輝子のキリリと引き締まった目元と口元。それに威厳のある強い口調。白神・アルビーノ・歌燐の身が引き締まる。
「はッ! この者たちは先の出動に当たり私が遭遇したアヒト二体。この者の言うとおり、ウサギ型アヒト、コニアとクラゲ型アヒト、ジュエティアと思われます」
ビシッ、と背筋を伸ばし、ハキハキした物言いで答える。
「それで、こいつらは何者で、何故ここまで連れてきたのか、その経緯と意図を聞こうか」
ここで白神・アルビーノ・カリンは、ある‘ 設定 ’を安藤輝子に語る。
「この者たちは元奴隷の身分から自由を求めて地球にやって来た、アヒトモンドからの逃亡者です。逃亡中、地球に奇襲をかけていたアイトーポたちに見つかることを恐れ、アイトーポ から匿ってほしいと身柄を渡してきたので捕虜として捕獲しました」
白神・アルビーノ・歌燐たちがノアに帰還するまでの間に、三人は口裏を合わせていた。
白神・アルビーノ・歌燐は、‘ 自分の死に際の不幸 ’を条件に宇佐美海月の永遠の命を搾取する契約を交わしたことを知られたくなかった。
心配を、かけたくなかった。
それに、そんな悪どい宇佐美兄妹の本性を知 ったなら、計画は台無し。
船上員たちは彼らを受け入れないだろう。
そこで、契約の事は秘密にし、宇佐美兄妹の事はアヒトモンドからの逃亡者という事にしたのだ。
「それで? こいつらを捕虜としたからには、歌燐はこいつらが何かしら我々の利益になると判断したという事になるわけだが?」
安藤輝子は、威圧するかのように片眉と顎を上げて白神・アルビーノ・歌燐たちを見下ろす。
「この者たちは、知りうる限りアヒトの情報を全て我々に提供すると言っています。これはアヒトやアヒトの世界、アヒトモンドの情報が不足している我々にとって有力なものとなります。それともう一つ、この者たちはアヒトに対抗できる能力を持つそうで、私と共にニンゲン側として戦闘に出動するとも言っています」
この設定は条件ではなく、都合合わせだ。
白神・アルビーノ・歌燐の戦闘時に宇佐美海月がカリンの近くにいなければ、カリンの持つテラタイトと宇佐美海月の持つバーナクルが呼応しない。
だから宇佐美兄妹が捕虜としてノアに閉じ込められてしまわないように宇佐美兄妹も戦力になることを契約に加えたのだ。
一緒に白神・アルビーノ・歌燐と戦闘に出るという口実で宇佐美海月を白神・アルビーノ・歌燐から遠ざけないようにする算段だ。
だが、事はそう上手く運ばない。
「歌燐は初対面の、しかも敵側であるアヒトの言うことをこの私に、鵜呑みにしろと言うのか?」
「……」
安藤輝子がこう言う事は予測できた。
世界の安全、及びこの飛行艦隊ノアの船上員たちの、命の責任者である安藤輝子が、敵側から逃亡してきたと言うだけの宇佐美兄妹を無条件で安々と信用してはいけない。
「もし、この者たちがアヒトのスパイや潜り込み戦闘員だったとしたら? 偽りの情報を流し、 こちらの混乱を招くのが目的だったら? 我らは情報の餌に釣られてホイホイ命を危険に晒す魚のような真似はしないぞ」
「ですが艦長、」
「ここにいる船上員たちの一体どれだけが家族を、友人を、恋人を三年前の第一次アヒト襲来で亡くしたと思っている!」
白神・アルビーノ・歌燐の言葉を遮るように語尾を強くする安藤輝子。
ここにいる者だけでは無い。
ノアの船上員、白神・アルビーノ・歌燐含め多くの者たちが三年前の第一次アヒト襲来戦で親しい者たちの死を経験し、今も歯噛みする思いでアヒトの一方的な襲撃に怯えながら生活している。
「我々無くして、地球を守る術は現在人類に存在しない。我々は全人類の命を守る責任と義務があるのだ」
もはや何も言い返せなかった。
白神・アルビーノ・歌燐は契約のことを話せないもどかしさと、 自分の力無さを思い知り、愕然とした。
その姿を見た安藤輝子はスッと言葉に込めていた熱を冷まし、落ち着いた口調で、側にいた男船上員二人に指示を出す。
「この者たちを禁錮室に連れて行け。その後の扱いはあとで決める」
宇佐美兄妹は男船上員二人に後ろで手を掴まれたが、二人とも抵抗しなかったため、そのまますんなり連行された。
「歌燐、此度もご苦労であった。部屋に戻ってゆっくりと休息を取るように。以上だ」
ギリギリと歯を食いしばり、悔しい思いをぐっと飲み込み、白神・アルビーノ・歌燐は敬礼すると、自室へ戻っていった。
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それから白神・アルビーノ・歌燐は憂鬱に時を過ごした。
巨大な航空飛行艦隊ノアには、船上員一人につき一部屋割り当てても部屋が余る。
とは言っても、ひと部屋ひと部屋はそこ まで広くはなく、ただのスペースを部屋として改良されただけのような部屋がほとんどだ。
白神・アルビーノ・歌燐もそこまで広いとは言えない自室に戻り、ドサッと顔から備え付けのベッドに倒れ込む。
力無く寝返りをうち、ボーッと鉄板の天井を眺める。
そうして夕食も摂らず、 夜が更けてもずっとずっとそうして横になっていた。
時折、部屋の外から船上員たちの声や足音が聞こえたが、それは白神・アルビーノ・歌燐を必要としてのことではない。
ただ、自分がこうして何もしなくても彼らにはやれることがあるのだ。
それが妙に孤独に感じた。
深夜になり、艦内はひっそりと静まりかえる。
とはいえ、飛行を続けるノアは眠らない。機関室には常に人員が配備されているのだ。
ボーッとするのも流石に飽きた白神・アルビーノ・歌燐は、プロテクタースーツから私服に着替え、自室を出る。
白神・アルビーノ・歌燐が出動する地下の扉とは別に、ノアには外へ出られる小さな甲板のような場所がある。
外の空気を吸うために使うしか用途がない ようなこの場所は、落下防止のために頑丈な鉄格子で囲まれてはいるものの、白神・アル ビーノ・歌燐がひょいと鉄格子を飛び越えてしまえるようなチャチな作りだ。
プロテクタースーツを身に着けていない今、無防備な白肌は刺すように冷たい突風に襲われる。
その吹きざらしの冷たさを求め、白神・アルビーノ・歌燐は青い月に手を伸ばす。
「お母さん…」
ふと、白神・アルビーノ・歌燐の脳裏を過ぎる、青白い顔の女性。
ぼんやりとしか思い出せない、遠い記憶。
白神・アルビーノ・歌燐の母は、アルビノではないものの色が白く、体が弱かった。
度重なる貧血や高熱のせいで、仕事を何度も変えることを余儀なくされ、女手一つで白神・アルビーノ・歌燐を育ててきた。
その優しい笑顔も、痩せ細った指先も、当時三歳だった娘の記憶に深く刻ませることは無かった。
けれど、夜遅く仕事から帰ってきた母をウトウトしながら待っていた白神・アルビーノ・歌燐の枕元で歌ってくれた歌は、その声は…
娘の心に深く刻まれていた。
母が過労で死んでしまってからは、白神・アルビーノ・歌燐は養護施設で育てられた。
施設の子供たちは子供たち同士、皆よそよそしかった。
ひたすら無関心を貫く者。
反発を繰り返す者。
言われたことを淡々とこなす者。
仕事的に他人の世話を焼く者。
いずれにせよ、皆お互いに他人行儀だった。
なにも新参者の白神・アルビーノ・歌燐に対してというわけではない。
彼らは同じ屋根の下で食事をし、勉強をし、生活をしていても所詮は他人。
それをわきまえていただけだった。
白神・アルビーノ・歌燐は幼心に、両親がいない者の振る舞い方を学んだ。
幼女白神・アルビーノ・歌燐が選択した振る舞いは、作り笑いを絶やさないことだった。
空気を読み、自分を殺し、笑った仮面を着けることだった。
他人に心配をかけたくない。他人に悲しい顔を知られたくない。他人に辛いところを見せたくない。他人に心を開きたくない。
白神・アルビーノ・歌燐は、自分が嫌いだった。
不運な自分を呪った。
だから、他人に嫌いな自分を押し付けたくなかった。
だから、白神・アルビーノ・歌燐は笑顔を作って自分を殺した。
今夜は三日月。
風が冷たい。
冷たい風に白い髪が攫われる。
このまま、白神・アルビーノ・歌燐の心も体も運命も何もかも全部、攫っていっ てくれればいいのにと、本気で思った。
「歌燐」
急に名前を呼ばれ、驚いた白神・アルビーノ・歌燐が振り返ると、安藤輝子が階段を登り、艦内から甲板へ出る蓋を閉めるところだった。
「なぜこんなところにいる? ここは何も無いし、とても寒い。長居すると風邪を引いてしまうぞ?」
しっかりとした物言いの安藤輝子。船上員の体を気遣うのもまた艦長の役目なのだ。
「ちょっと退屈で夜のお散歩に出てきたのです。輝子さんこそ、どうしたんですか?」
咄嗟に作った愛想笑いはなかなか上手く出来ている。
声のトーンも完璧だ。
完璧に、気丈で 明るい、いつもの白神・アルビーノ・歌燐だ。
「私も散歩だ。そして考え事をする時に私はよくここへ来る」
安藤輝子は少し寂しげに言う。
「へぇー、そうなんですか。じゃあ、お邪魔したら悪いですね」
ヘラっとした笑みを浮かべ、たった今安藤輝子が閉めた蓋に近づく白神・アルビーノ・歌燐。 それを安藤輝子は引き止める。
「いや、歌燐。もうしばらく私に付き合ってくれ。話をしよう」
雲の上を浮遊するノアは、見上げれば星の光を遮るものは何も無い。安藤輝子の長い黒髪が星明かりの煌めきを映し出すかのように輝き、白神・アルビーノ・歌燐はその美しい妖しさに心奪われる。
「それで、どうしたのですか? 何か悩みごとでも?」
まさかいつも正しくて強い安藤輝子に悩みなどと思い、話のきっかけにと思って言っただけだった。
だが、白神・アルビーノ・歌燐の期待を裏切って安藤輝子は苦笑いを返す。
「あぁ、実は娘に嫌われてしまったのではないかと不安でな…」
「えっ? 輝子さん、娘さんがいるんですか!?」
本気で驚く白神・アルビーノ・歌燐。だが、現在二十二歳の安藤輝子にかつて恋人はいたが、娘はいない。
しかも恋人は三年前の第一次アヒト戦で亡くなっていたはずだ。
白神・アルビーノ・歌燐の動揺に声を立てて笑った安藤輝子は説明する。
「私は三年前に家族も恋人を亡くしている。だからノアの船上員たちが今の私の家族だ。こんなにも大家族なんだ。娘くらいいたって良いだろう?」
冗談めかした声音で楽しそうに言う。
三年前に亡くしたものの代わりに得たものを強調するかのように。
「それで、今日その娘にきつい事を言ってしまってな。とてもしょんぼりした背中をただ見送ったのを悔いているのだよ」
白神・アルビーノ・歌燐には、その娘が誰のことを指すのか分かった。分からないはずがなかった。
「歌燐、さっきはすまなかった。みんなの気持ちは歌燐が一番よく分かっているはずなのにな。だから歌燐は踏み出そうとしてくれたのに、私はその心ごと手折ってしまった…。だがこれだけは信じてほしい。私は、一刻も早くこの防戦一方の状況を回避したいと思っている。 だが家族を危険に晒すような真似はしたくない。もう二度と、私の大切な人達を奪われくは ないのだよ…」
鉄格子が曲がってしまうのではないかとも思うほど強く、安藤輝子は拳を握りしめる。
唇を噛 んだその表情は、物寂しさを感じさせた。
それも次には弱々しい笑顔に変わり、一層白神・ アルビーノ・歌燐の心に空洞を作る。
「いけないな、私情が入ってしまっては。艦長失格だ」
今日の安藤輝子は少し変だ。
安藤輝子はこんなに弱くない。
いつだって自信と誇りを持っていて、みんなから頼られ、二十二歳という若さで新防衛省対アヒト課専用艦隊ノアの艦長に任命され、ヘンタイモードの時もあるけれど、それも艦内の空気を和らげていたし、常に正しく、責任重大な役目を背負って…
「そんなこと、ないですよ」
白神・アルビーノ・歌燐は気づいた。
安藤輝子は自分と同じだと。
たった二十二歳という若さで 全人類の存亡をかけて立ち上げた省の最高責任者になったのだ。
白神・アルビーノ・歌燐が負うことのない責任も彼女は全て負わなくてはならない。
その重圧に耐え続けているという事を彼女は誰にも気づかせないようにしていたため、一見強く見える安藤輝子に皆、寄りかかっていたのだ。
そんな安藤輝子の胸中を垣間見た白神・アルビーノ・歌燐にどうして彼女を嫌えるだろうか?
「そんなことないです。輝子さんは最高の艦長です」
いつになく、強い口調でまっすぐ答える白神・アルビーノ・歌燐。真剣な瞳に宿る赤い炎が心の熱を映し出す。だが、それも一瞬。次の瞬間にはいつもの愛嬌たっぷりな笑顔を浮かべ、
「それに、輝子さんの娘は輝子さんに似て強いんですよ♪」
と、ステップを踏むように小さく跳んでみせた。 本当に、白神・アルビーノ・歌燐は安藤輝子に似た。
それを理解したうえで白神・アルビーノ・ 歌燐はとびきりの笑顔でそう言った。強く作った自分を肯定してほしいから、言葉を選んだ。
それが安藤輝子の救いになった。
「そうだな。私の娘は強い。強く、賢く、優しい子だ。ありがとう、歌燐」
「いえいえ♪」
見上げれば満天の星の中、血の繋がらない母娘の絆が深く、深く刻まれていった。
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